歴史に対するバランス感覚を大切にする著者の歴史観を支持する私は、本書を読んでもその期待が裏切られないことに安心しつつページをめくった。

本書では「東条英機に利用されたゾルゲ事件」「明かされる「大本営発表」の歪みと嘘」「「陸軍中野学校」の真の姿をさぐる」「吉田茂が描いた国家像とは?」「昭和天皇に戦争責任はあるか」「「A級戦犯」は戦後なぜ復権したか」「田中角栄は自覚せざる社会主義者か」という魅力的な題材が並んでおり、各章のタイトルだけで興味が湧くのを抑えられなくなる。

特に「昭和天皇に戦争責任はあるか」については、昭和史を語る上で外せない論点で、ここでも著者のバランス感覚は冴えわたり、マトリクス状にして色んな角度から分析している事には感嘆。善悪二元論などとはすでに次元が違うその姿勢といい、著者のバランス感覚を保つ秘密を垣間見られた気がした。

他の章もそれぞれに魅力的なのだけど「「陸軍中野学校」の真の姿をさぐる」もよかった。情報戦に圧倒的な力で負かされたという思い込みがある第二次大戦の我が国だけれど、実は局地戦では健闘した人々がいてそれらが中野学校出身者というのが、実は一般社会よりも学歴偏重が強い軍の矛盾を表しているようで興味深かった。

「吉田茂が描いた国家像とは?」なども、今の政治の混迷を脱するヒントが隠れているようで興味深い。

こうやってそれぞれの章ごとに戦争やその当時の日本を描いているように見えても、実は日本人とは何かという一本の筋で貫かれているため、読んで考えるべき点の多い本である。

’12/1/19-’12/1/20


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