柳田國男の有名な作品として、遠野物語がある。岩手県の遠野地方に伝わる説話集を筆記したもので、妖怪譚や怪異譚、民俗学的な記述まで、多岐に亘った内容のそれは、日本民俗学の嚆矢として名高い書物である。

本書は、題名からも分かるとおり、遠野物語を明らかに意識したと思われる。常野物語とは、常野と呼ばれるどこか世間とは違う場所に属する人々の物語である。常野に属するとはいえ、本書で描かれる舞台は、読者の属する世間である。そこで書かれる出来事やしきたりも、世間の約束事に従っている。

本作は連作短編の形式を取っている。それぞれの短編では、世間の中に住まう常野の民達が常野の民であることを隠しつつ生きている。隠しつつも、常野の民の持つ様々な能力を発揮し、周囲の人々を救い、癒す。またある時は常野からの世間に忍び入るあやしの影を撃退する。

短編とはいえ、本書は作者のストーリーテラーの力量が遺憾なく発揮されている。常野という異世界の設定がなくても、十分優れた短編として通用する粒ぞろいの内容が揃っている。常野の民の持つ能力は、短編の基本設定と、物語の進展において、欠かせないものとして書かれている。が、それも短編の面白さにとっては本質ではなく、本書においても多種多様な短編群をつなぐコンセプトのようなものとして機能している。

著者の短編作家としての技量を改めて見直した一作。

’14/07/09-‘14/07/12


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