本書を手に取ったのは、ここ数年の関心テーマが駅であり、それを取り上げているためである。街の結節点である駅。点が点であるためには線もいる。つまり道路や鉄道といった交通網である。本書では点と線を取り上げている。

そもそも私の大学の卒論のテーマが大阪の交通発展である以上、いずれは本書のようなテーマで物事を考えてみたいとも思っていた。写真付ブログ形式で「駅鉄」を昨年から始めているのも、その一環である。

本書は大巧社が出版した「日本を知る」という叢書の中の一冊である。本書を読んだ限りではなるべく広く浅くという編集方針で日本の歴史の様々な側面を紹介しているようだ。

本書は以下の諸章からなっている。
序章 「道と駅」の歴史に学ぶ
第1章 奈良時代の交通制度と道路
第2章 平安時代の制度と道路の変化
第3章 宿と鎌倉街道
第4章 江戸時代の街道
第5章 諸街道の宿場
第6章 明治の国道と駅
第7章 鉄道と駅
第8章 道路の復権
終章 「道と駅」の未来に向けて

本書に通底しているのは、ローマ街道に代表される西洋の街道に比べて日本のそれは・・・という従来の日本の街道観に対する疑問である。冒頭でも明治初期に日本を訪れた欧米人による日本の街道の貧弱さを嘆く言葉が引用されている。その街道観を覆すため、本書でも日本の古代からの道路行政を順に追っていく。五畿七道として知られる古代の行政区画も、道という字が入っていることで分かるように、まず道路ありきの行政が整備されていたことが紹介され、条理制に基づいた古代の道路跡の発掘調査から、それが現代の高速道路の路線図と一致している事が示される。古代の路線選定の先進性を示す例として本書から得た知識の一つである。

古代に始まり、奈良、平安から鎌倉時代へと道路行政の変遷を探る旅は続く。鎌倉街道については、私の家のすぐ近くを通っていることもあり、以前から関心を持って調べていた。鎌倉街道についての本書の記述は、概観として分かりやすい。鎌倉街道の入門編としてはお勧めかもしれない。

江戸期には5街道が整備されたことは有名だが、明治に入りそれがなぜ欧米人に酷評されたかについても本書の分析は及ぶ。本書によると、運搬具としての車輪の使用頻度によるものだそうだ。日本には人力や馬力による運搬が主流であったため、それに適した道が存在しており、車輪使用が一般的でないからといって、欧米と比較するのがお門違いなのかもしれない。その証拠に、西洋文明を導入以後の車輪使用を前提とした交通網の発達については、もはやいうまでもない。

本書では道と駅という題名が付いているが、本書で取り上げられる駅は、古代の駅伝制に基づいた道路上の駅であり、街道沿いに設けられた駅に対する言及はかなりの量に及ぶ。そもそも駅の偏は「馬」であり、街道の中継拠点としての駅の重要性が偲ばれる。今も街道沿いに残る旅籠宿など、駅の盛衰を今に伝える史跡は多いが、本書のように駅の概史を述べる本は初めて読んだのでよく理解できた。

なお、本書では鉄道と駅については第7章で少し取り上げられているのみである。私がこのところ関心を持っている鉄道駅については、それほど取り上げられている訳ではない。しかし、道の結節点として駅が示してきた役割、街づくりと駅の関係性など、私が駅に対して関心を持つ点について、本書が示唆するところは多い。

最後に、本書では「道の駅」についても抜かりなく取り上げている。私は旅先でも「道の駅」によく立ち寄る。古代の駅伝制の駅と「道の駅」とは性格が違っているのは無論である。とはいえ、鉄道駅にはない施設が「道の駅」にはある。本書でも「道の駅」の使命や意義について述べられていたことに我が意を得た気分である。ただ、本書では高速道路に設けられているサービスエリアやパーキングエリアについては言及がなかった。古代の五畿七道に設けられた主要道と、現代の高速道路の路線の類似性について鋭い指摘を成しており、サービスエリアとパーキングエリアについても古代の駅との関連性について分析が欲しかったところである。そこが残念である。

その点を差し置いても、今後の「駅鉄」については、本書で得た成果を活かして続けていきたいと思う。また、「道の駅」についても「駅鉄」のように施設写真を網羅した写真は撮りためていないが、今後は、別ブログにして取り上げてみてもよいと考えている。

’14/03/27-’14/03/29


コメントを残して頂けると嬉しいです

読ん読くの全投稿一覧