実は私は簿記三級の資格を持っている。取ったのは大学の頃。商学部だったので簿記概論だかの授業があり、単位取得条件が三級合格だったのだ。先生の名前は忘れてしまったが、授業内容は分かりやすく、簿記の面白み、奥深さを教えてもらえたと思う。機会があれば感謝したいと思っているぐらいだ。

しかし大多数と同じく、私も大学卒業と同時に簿記のことは忘れてしまった。私が簿記に再び触れたのは、卒業から11年後のこと。青色申告事業者として初の確定申告に臨んだ時に簿記が必須となった。初年度は名目だけの個人事業主に近く、収入源も事業経費も一社に対して行えばよかった。なので、仕訳も容易に仕上げる事が出来た。

以来、事業はなんとか9期まで続けることが出来た。そして、2015年末をもって法人成りのため、完全に締めとなった(廃業届は出していないけど)。その間、毎年の確定申告で税務署からの指摘や更正の指示をもらうこともほとんどなかったことにはほっとしている。うち1期だけはとある税理士さんにお願いしたものの、残りは私と妻で喧嘩しながら申告し続けた。しかし、節税もなにもせぬままの馬鹿正直な決算であり、実は無駄な税金をたくさん払っていたのではないかと思う。

2015年春からの法人化にあたり、新たに税理士さんに毎月の顧問契約をお願いすることにした。片手間での経理は良くないし、本業に邁進したい。そう思ってお願いした。実際、お願いしている税理士さんの知識はさすがといえる。こちらは毎月領収書を渡すだけ。楽である。とはいえ、経営者として経理の最低限の知識は必要。そんな訳で本書を手に取った。

ただ、本書は簿記の実務向けに書かれた本ではない。本書は財務諸表を簡潔に手早く読むためのノウハウを提供する。つまり、経営者、財務担当を対象としている。

実務向けではない本書は、記帳のテクニックについては全く触れない。そのため、どの支出がどの勘定課目で、といった単純記憶を駆使する必要がない。そういった記述が出てこないのは本書の特徴といえる。気楽に読める。その替わり、本書に頻繁に出てくるのは五つの基本要素。①負債②資本③収益④資産⑤費用のことだ。

その五つの成り立ちを、本書ではT字フォームから書き起こす。経理を知る人には初歩の初歩だ。貸方借方の成り立ちから、T字フォームから、丁寧に解説してくれる。

右側の貸方には①負債②資本③収益。左側の借方には④資産⑤費用。①は返済義務があるので見易く上に。

さらに上下に二つに分ける。上は貸借対照表として借方=資産、貸方=負債+資本となる。下は損益計算書として借方=費用、貸方=収益となる。この辺りの説明は実に流れるようだ。

そして、本書の主張は一つ。細目を見ない。これに尽きる。貸借対照表であれば、真っ先にみるのは資産、負債、資本のそれぞれの合計を見ろと著者は説く。その大小を比較し、まずは大枠の財務状況を把握。それから、①金額の大きな項目を中心に読む。②負債については、借入金や社債などの有利子負債が大きいか小さいかを見る。③純資産(資本の部)の更正要素をおおまかに見る。そういったことが勧められる。なるほど、分かりやすい。表も抜粋して表示されているので、理解が進む。

下半分の損益計算書は、借方が費用、貸方が収益。費用は売上原価、販売費および一般管理費、営業外費用、特別損失、法人税等に分けられる。収益は売上高、営業外収益、特別利益に分けられる。

本書のあらゆる箇所で細目よりも大項目に注目することを著者は繰り返し言う。それだけで、大まかなその会社の財務状況は把握できるという。そして本書で著者が主張することはそれに尽きると云ってもよい。

さらに著者は、財務諸表を読むにあたり、減点思考の弊害を言う。著者は細目から勘定課目を見ることを減点会計と呼び、良くない方法だと退ける。そしてそれとは逆に加点会計を推奨する。加点会計とは、大まかな財務状況を捉え、そこからは奥へと掘り下げない手法のことを言う。自分の好きな勘定科目だけを読めば財務諸表の理解には十分ということだろう。

著者が本書でいう主張はもうひとつある。それは経常利益重視への決別である。特別損失と特別利益は経常利益の計算に含まれない。そのため、損失が出たところで、会計操作によって経営責任から逃れられるというのが著者の言いたいことだろう。この点、税理士の先生によって或いは意見が分かれるのかもしれない。私自身、まだピンと来ていない。特別損失や特別利益が発生するような規模に会社を育てるのはこれからだし。

ここまでで、本書の主張は言い尽くされている。しかし、本書は尚も続く。そこで著者は同業社同士の財務諸表を比較する面白さを紹介する。そこから、会社間の特徴や業種の特色が読み取れるのだとか。なるほど、と思ったものの未だに試していない。確かに余裕があれば、そういった趣味も面白そうなのだが。

最終章では、経営破綻した実際の企業の各期決算の推移を見る。その会社とは英会話のNOVA。一時期はCM露出が大々的だったNOVAだが、倒産のニュースもまた大々的に報じられていた。NOVAの財務諸表の変化だけで、経営判断とその結果の財務状況の悪化が読み取れる。そのことを事例をあげて説明しているのが本章だ。倒産に至るまでの過程が財務諸表の変化だけで分かるというのは興味深いところだ。それはまさに本書を通して著者が主張する通り。いわば最終章は実践編とでも云おうか。

本書を読むと、財務の奥深さの一端に触れられる。ただ、法人化した弊社の場合、税理士の先生が完全にやって下さっている。また、月々の財務諸表も作って下さっている。日々の業務に追われ、自社の財務状況をじっくり検分出来ていないのは完全な私の力不足。これを書いている時点で、法人化して8ヶ月が経とうとしている。そろそろ財務も見なければと思いつつ、なかなか見られていない。

でもそういってばかりはいられない。個人事業主から法人化した決断。この決断が正しいことをこれから証明して行かねばならないのだから。収入アップと支出ステイ。真っ当な財務諸表を作り上げていかねばならない。努力あるのみ。

‘2015/04/19-2015/04/21


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