弊社でも人を雇う。2019年の年始に決めた目標だった。
その目標を成就させるため、数冊の本を読んだ。本書もそのうちの一冊だ。

人材コストは、中小企業の経営者にとっては切実な問題だ。
純粋な人件費だけでも負担になるのに、その上に社会保険の負担までもが発生する。
そのため、採用に二の足を踏む経営者は多いはずだ。

弊社もご多分にもれず、採用には二の足を踏み続けている。そして、普段は必要な時だけ外注費を支払ってお茶を濁しつつ、業務をこなしている。
だが、いずれは採用を経験しなければなるまい。それがどれほどの難関であっても。

実は、弊社にとって助成金は、それほど縁の遠いものではない。
創業した時にも不採択になったとはいえ、助成金を申請したことがある。その後も数度、助成金の申請が採択されたお客様の予算で案件を請け負ったことがある。

だが、私の中では、助成金に頼るべきではない、との思いがずっとくすぶっている。

その理由は二点ある。

一つ目は、助成金に採択してもらうための申請書類の準備が、かなりの負担になるからだ。

例えば500,000円が支給される助成金があったとする。
当然、その助成金を得るためには、申請のための書類を準備しなければならない。
その準備だけで、500,000円の案件をこなしたのと同じ、もしくはそれ以上の労力を費やす。
確実に採択され、労力に見合った代償として助成金が受け取れるならまだいい。しかし、採択されるかどうかも不確かな申請にかける労力はバカにならない。
その労力を、実際に依頼を受けている案件に向けたいと思うのは筋違いなのだろうか。

また、助成金の募集要項は、お役所が出している。
公的資金からの支出である以上、国民に対して説明責任が求められるため、募集要項に書かれた条件には例外事項も網羅されている。
当然、内容は冗長であり、読み込むにも時間がかかる。
私はその読み込む時間がもったいないと感じてしまう。

二つ目は、助成金とは本業で稼いだお金ではない、という事だ。
本業の能力とは関係がなく収入を得られる。
これは果たして社業にとって本質なのだろうか、という疑問が消えない。
そして、心のブロックが掛かってしまう。

さらには、助成金がもらえる様になったとしても、それによって経営上の判断に狂いが出ないか、との懸念がある。
仮に、申請書類の作成に熟達し、順調に助成金を支給されるようになったとしよう。
支給された金額は、勘定科目では雑収入として計上される。
決算時に総収入で見てしまうと、助成金と通常の業務収入を区別できない。そして後日、経営判断を誤りかねない。
助成金による収入を、会社の実力と勘違いする過ちを犯す。私の脳裏からその懸念が去らない。

弊社の属するシステム業界にSESという言葉がある。System Engineering Serviceの略だ。速い話が派遣である。
技術者を上位の顧客に派遣し、月額いくらで対価を受け取る。
私はこのSESを麻薬と呼んでいる。
一度手を染めると、紹介するだけで毎月の定期収入が得られる。それは確かにありがたい。
だが一方で、SESとは自社の技術者を顧客の要望に応じて自在に派遣する形態であり、自社の真の力が養われているか、と問われると弱い。
そして、SESに依存してしまうと、上位の顧客によって経営基盤が簡単に覆されてしまう。

私は助成金もSESと同じような依存の懸念があるととらえている。

要するに、助成金とはあくまでも社業にとっては副であるべきであり、主としてはならない、という事だ。

そのような認識の一方で、本書を読む前から懇意にしている社労士の先生から、雇用の際は助成金の活用を勧められていた。
また、助成金を活用しようとしまいと、社業の拡大には、就業規則の作成などのさらなる整備の拡充が必要だ。

助成金の申請によって、そうした後回しにしていた作業を着手するきっかけが生まれる。その利点はわかっていた。

また、助成金に依存することは論外としても、スタートアップ時の社業を飛躍させるには資金が必要なことも自明の理だ。

そうした思惑の中、本書を書店で購入した。

本書には、まさに私が望んでいた情報が載っている。
中小企業の宿痾ともいえる資金の不足が、優秀な人材を雇い入れる機会を逸していること。雇用した社員の育成にも、助成金は有用であること。

本書は社労士の方が書かれている。
だからさまざまな導入のモデルケースが取り上げられている。
そこには著者が業務の中で感じたであろう生の声が盛り込まれているに違いない。
また、クライアントと著者のやりとりが多く載せられているのも本書の特色だ。

そうした会話の進み具合が、クライアントの社業の発展として描かれていることもよい。助成金が少しずつの社業の発展に貢献している様子を感じることができるからだ。

本書を読む中で、少なくとも助成金の利点はより理解することができた。

もう一つ、本書には重要な指摘がなされている。それは社労士だけでは助成金の獲得を目指すには十分ではないということだ。
本書には以下のようあこのような項のタイトルが振られている。
・社労士は助成金提案の場にいない
・税理士は助成金の情報を知らない
・士業の分断に振り回される中小企業経営者
つまり、社労士は財務・経営面ではあまり関与できず、本来、それを担うべき税理士は助成金の情報を知らない、という矛盾した現実だ。
両者が別である事によって、助成金はうまく活用されていない、と著者は言う。なお、著者はその両方の資格を持っている。

さて、先日のブログにも書いたとおり、弊社は2019年度の雇用は断念した。
断念した理由は複数ある。だが、一番の理由は家計上での問題だ。
その問題を解消しない事には、雇用も難しいだろう。

だが、本書を読んで一年がたち、コロナウィルスによるリモートワークの促進の助成金が発表された。
こうして本稿をアップする今も、お客様からは、その助成金を使いたいと案件のお引き合いをいただいている。

では、弊社自体も助成金を再び活用できないのだろうか。
今回のコロナ関連の助成金の要綱は既に調べた。
その結果、いくつかの条件が合わず、弊社では採択が見込めないようだ。残念だ。

だが、助成金を偏見をもって遠ざけるのではなく、なんとかうまく取り入れたいとの思いに変わりはない。むしろ本書で考えを改められたと思っている。もう一度調べてみたいと思う。

‘2019/01/21-2019/01/28


カテゴリ: 読ん読く.
最終更新日: 3月 23, 2020

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