著者が文庫のために書き下ろしたのが本書。総じて、文庫書き下ろしとの文句には安易な印象が付きまとう。

書き散らし、書き急ぎ、大量生産。私も普段は文庫書き下ろしと謳われた書物には手を出さないのだが、著者は別である。決して寡作ではないのに、出す本出す本が優れている。このことが、著者のもっとも素晴らしい点だと思う。

果たして本書は、著者の他の作品と同じなのだろうか。そんな期待も持ちつつ、本書を手に取った。

結論からいうと、充分楽しめた。流石は著者である。

スキー場を舞台に、スキー場スタッフの視点で書かれた物語を読むのは本書が初めて。舞台装置も作品のスケール感に一役買っている。

伏線の張り方や登場人物の書き方も通りいっぺんなものではなく、工夫を凝らしたもの。スキー場ならではの仕掛けも道理にかなっている。

ただ、苦言を呈するとすれば、動機だろうか。伏線で独創的で合理的な動機が多々提示されていたのに、結末が少々拍子抜けである。

もっとも、分かりやすい動機でもあり、読後の余韻もスッキリしたものである。

敢えて言うならば、この尾を引かない手軽な読後感こそが本書のレベルに関わらず、文庫書き下ろしとなった理由かもしれない。しかし、本書は他の作家で言えば、主戦級といってもよい出来であり、却ってそのことが著者の優れていることを表している。

聞けば本書にはこれまた文庫書き下ろしの続編もあるとか。無論読んでみようと思う。

‘2014/11/2-2014/11/4


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