少年と青年を隔てるものがなにか、という主題について近代文学では、幾多の作家が採り上げてきた。

大部分の人は少年から青年への移り変わりに気付かず、青年になって初めて自分が何を失い何を背負ったかを知る。そして、社会に囲われ時代に追われる自分を突き付けられる度に、こんなはずではなかったと精進を誓い、そこから逃れるために少年期の自分が何者だったかもう一度思い返そうと文章に表したり、読み返したりすることで、失われた過去を取り戻そうとする。

私などがそのいい見本である。

本書は少年から青年への通過儀礼を描く試みに成功しているばかりか、国境越えと恋愛、そして荒野と都会との対比など、重層的なテーマを詩的な文体の中に散りばめることで、見事な文学作品として体をなしている。

広がる荒野、夜空に瞬く星々、素朴な人々、そして生命力の象徴である馬。それら描写は少年のまっさらな人生のこれからの可能性を想像させて余りある。

逆に、少年の農場が工場になる将来、粗暴な人々、新たな出会い、そして別れは青年に降りかかる試練を暗示しているように思える。

本書では重要な分岐点として、主人公の燃えるような恋と、それがもたらす新たな苦難についても残酷なまでに筆を揮っている。人生にとって恋が分岐点となる展開は、通俗的ではあるが、外せない点ではないか。

読み終えた後、読者は主人公たちが少年から青年へと成長を遂げ、これから彼らがどんな人生を歩んでいくのだろうと思わずにはいられない。子供の時にあれほど憧れていた大人の世界を、大人になった今どう思っているか、読者の想像力に委ねられる部分であり、読書の醍醐味もここにあるのではないだろうか。

大方の人がこういった分かり易い通過儀礼を経ている訳ではないけれど、自分の過ぎ去った成長の跡を思い返すきっかけには相応しい作品である。

’12/02/24-’12/02/29


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