本作は著者の連作短編集である。デビュー当時から、連作短編集に独自の世界を発揮していた著者だが、本書もまた、その系譜に連なる名作である。

著者の作品に登場する悪役は、どこか憎めない奴らが多い。それが作品に無二の味わいを効かせてくれている。本書に登場する「溝口」「岡田」の 両名もまた、憎めない二人として、ファンの記憶に残ることであろう。

全部で5作の短編で構成されている本書だが、5作ともに二人が出てくるわけではない。また時代も別であれば、語り手も別である。5作で語られる時代も順不同である。

本書は、その5編の時間、空間、視点がさまざまに交錯する中、一編の物語として絶妙に編まれている。後書きによると、もともとは独立した短編だったのを編集したのだとか。編集の妙が味わいつつ、作者の仕掛けた伏線に驚き、かつ予測するのも本書を読む歓びである。

物語の半ばまでに、「岡田」は退場する。その「岡田」を折に触れて思い出す「溝口」だが、終盤に話は急展開し、思いもよらぬ現れかたで、「岡田」が再登場する。再登場にいたるまで、本書の多彩な時空のなかで、伏線が張られる。この張り方が実にスマートで、著者の数ある名作の中でも一頭抜け出ている。

私にとっては著者の作品の中で、上位三作に入るほど、好きな一冊となった。

’14/05/21-’14/05/22


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