2018年の初夏にサイボウズ社で「サイボウズのチーム応援ライセンス開始記念セミナー」に登壇する機会をいただいた。そのブログ記事がこちらだ。https://npo.cybozu.co.jp/blog/post/73/
セミナーの中では、自治会の総務部長を務めた私自身の経験を語った。
そのためだろうか、セミナ―に対し、結構な反響があった旨をご担当者様より教えていただいた。
今もなお「自治会 IT」で検索するとこの記事はトップに出てくる。

この検索ワードはビッグワードであり、私自身の武器になるはず。そう思い、2019年は自治会に対して情報技術を用いた業務改善を弊社の武器の一つにしてみようと考えた。本書はそうした意図も踏まえ、2018年を締めくくる一冊として読んだ。

総務部長を経験した身からすると、本書の前半に紹介される自治会のさまざまな機能は知っていることが多く、目新しい点はない。総務部長として経験したところがほとんどだからだ。
だが、詳しく見てみると参考になる点も多い。なぜなら、各地の自治体が発表する数値データが記載されているからだ。
著者は地方創生コンサルタントだそうだ。つまり、各地の自治体とつきあいがある。そのため、さまざまな自治会の情報を比較できる立場にある。
私は自らが属した自治会のデータ以外は、あまり詳しくなかった。だから他の自治会のデータは参考になった。おそらく、こうした情報は自治体のホームページや冊子で閲覧することもできるのだろう。だが、その検索に労力を割くよりも本書で手軽に閲覧できたことは良かった。

また、本書には私の知らない情報も何点か載っていた。たとえば、自治会の源流は太平洋戦争の時期に結成された隣組にあるという。言われてみれば納得できる話だ。
そうした記述からは、そもそも自治会が歴史のある組織でもなければ制度ではないことがわかる。

つまり、自治会によっては戦時中から脈々と続いているということだ。古い時期に結成された自治会は地方に多いが、都市部では平成以降に結成された自治会も多いという。
それなのに、自治会の業務をシステムで運営している自治会の割合は驚くほど低いという。
それは、地縁団体であり、非営利団体である自治会の性格もあるだろう。年配の方が仕切っているため、情報技術を活用した業務改善の取り組みが遅れている。
そのためもあってか、自治会の活動を告知し、発信する仕組みも整っていない。
それが退会率や未加入率の上昇にもつながっているはずだ。
そうした課題は全国のどこの自治会にも共通のようだ。そうした傾向は本書のデータとしても現れている。

全国には298,700にものぼる自治会・町内会があるらしい(平成25年4/1時点)。
それだけ数があれば、組織の在り方や活動の内容も多種多様だ。そしてその中には似通った運営を行っている組織もあり、参考になる。会費の金額の分布、会費以外の収入手段、行う事業や組織体系、そして活動場所や自治体との連携の取り組みなど。そうした他の自治会の情報が本書には載っている。
また、役員の選出方法や役員のポストも自治会によってはそれぞれであることがわかる。

本書はハンドブックと銘打っているため、実務を考慮した具体的な内容も書いてくれている。
規約のテンプレートや年一回開かれることが多い総会の案内や出欠状や委任状の文例も載っている。これから新規に自治会を立ち上げる場合、本書はとても役に立つことだろう。

また、役員同士の引き継ぎにも紙数を割いているのが実践的だ。
引継ぎは実際にやってみないと不安になるからだ。
特に会計の担当は、引継ぎが大変な仕事だ。そうした点も本書はきちんとフォローしてくれている。
帳簿のつけ方や新旧役員間での引き継ぎ方。総会に出す収支予算、収支決算の資料の書き方。さらに、小口現金の管理や仕訳の方法、複式簿記に至るまで。まさにハンドブックにふさわしく、至れり尽くせりの内容だ。備品台帳や財産目録、貸借対照表まで載っているから大したものだ。

また、本書にはファシリテーターとしての気構えや振る舞い方まで載っている。私にとって参考になった。会議の進行や意見の取りまとめなど、総務部長を務めていた頃は試行錯誤と工夫が絶えなかった。
そうした作業にはコミュニケーション力が必要であり、私にとって総務部長の一年は、私にそうした能力を授けてくれた。そして、その後に成した法人設立に向けて、とても糧となった。
自治会の経験は、私に仕事の上で数多くのノウハウを授けてくれたと言っても言い過ぎではない。
だからそれらの作業を教えてくれる本書は、一般的な企業に勤める方にも参考となるヒントが豊富に拾えるはずだ。

もう一つ、本書で大切なのは自治会の業務のPRの仕方も指南してくれていることだ。
会員との接点を増やすこと。会報には過去の出来事をのせるのではなく、未来のこと、つまり読む人が読みたいと思える内容を載せること。実践的で参考になる。

ただし、本書はシステムを使った自治会の運営については全くと言って良いほど触れていない。
最近ではホームページを設置している自治会もある、ぐらいの触れ方しかしていない。
それは著者の考えでもあるだろう。また、本書の編集方針として、年配の方が役員であるため、情報技術に触れることは逆効果だと判断したのだろうか。

だが、じわじわと自治会も世代交代が進んでいる。あと10年もすれば、職場で毎日パソコンを使う方が自治会を切り回していくはずだ。
私はその時、弊社にチャンスがあると考えている。
自治会には予算が少ない。また、一律に集める会費は、等しくに使われるべきとの建前から、一部の方しか使えない恐れがある情報技術の導入には二の足を踏むことだろう。
だから大手も参入をためらう。そこに弊社の入り込む隙間があるはずだ。

本書の最後には、自治会を運営する上で直面するでだろう、課題に対するQ&Aが載っている。その回答は、法的な知識を踏まえている。そのため、とても参考になる。これらのQ&Aで出された問題は、幸いなことに私が総務部長の時には直面せずに済んだ。だからこそ、とても参考になった。

そういえば本書を読む一カ月ほど前、自治会の情報技術についてサイボウズ社で行われたランチミーティングにも呼んでいただいた。
その際、観光地の自治会では海外からの観光客にどう対処するかという課題が出た。
そうした課題など、とても参考になった。
多分、これからの社会の発展は、地域社会にもさまざまな影響を与えることだろう。
そうした時、自治体では対応が難しいこともでてくるはずだ。
だからこそ、自治会にはまだまだ存在意義があるはずだ。そして必要であり続けるに違いない。
弊社はそうした意識を持ち、今後も自治会に視点を置こうと思う。

‘2018/12/31-2018/12/31


カテゴリ: 読ん読く.
最終更新日: 2月 16, 2020

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