私も不惑の年を過ぎ、アウトドア趣味の一つに、山登りを加えたいと思う。

ここ1、2年ほど滝の魅力に惹かれている。一瞬として同じ姿を見せることのない滝。ただ流れ落ちるだけの様を見ているだけで、1、2時間は優に過ごせてしまう。

もっといろんな滝を巡りたい。滝と対峙し、その飛沫を浴び続けていたい。しかし、滝を味わうためには、まず滝へ向かわねばならない。滝があるのはたいていの場合、山である。滝を極めるにはまず山への畏れを育まねば。車で近くまで乗り付けられる滝ならともかく、ほとんどの滝への行程は険しい。ハイキング気分で行くとトラブルにも巻き込まれかねない。

私にとって滝とは山への誘い水なのだ。文字通りに。滝は脇においたとしても、山登りの爽快感は他に変えがたい。子どもの頃は両親によく六甲に連れられたものだ。金剛山にも何度か登った記憶がある。だが、大人になってからは高尾山が精々。あとは10年ほど前に大学生達と丹沢の二の塔、三の塔を縦走したくらいだろうか。

山登りの経験が乏しい今の私が、千メートル以上の山へ向かうとなると、遭難する危険はかなり高いと云わねばなるまい。そんなわけでたまたま目についた本書を手に取った。

実は本書を手に取る前までは著者のことを全く知らずにいた。が、著者は中高年登山の普及に一役買った著名なクライマーなのだとか。本書はどこかの雑誌の連載を一冊に編んだものらしいが、山への心構え、そろえるべき装備や山での振る舞いなどを分かりやすく記して下さっている。エッセイ風の語り口なので構える必要もなくすらすらと8読み進められる。

しかも勿体ぶることもない。読み始めてすぐの8Pに早速山登り10の鉄則が記されている。このあたりの気前の良さも気持ちよい。

1.家族の理解を得ておく
2.装備と服装を整えておく
3.体力を養成しておく
4.技術を習得しておく
5.知識を蓄えておく
6.計画は万全にしておく
7.いい仲間を育成しておく
8.リーダーシップを発揮する
9.メンバーシップを発揮する
10.山岳保険に加入しておく

実に簡潔な鉄則である。しかし甘く見てはならない。本書の残り200頁あまりでは、この10の鉄則をじっくりと解説してくれる。ところどころには10の鉄則を甘く見たために起こった悲劇のエピソードを挟みながら、頃よく読者の気を引き締める。

用意すべき服装やストック、食糧や水。携帯する地図の見方。本書は私のような山の素人にとって有用な内容に満ちている。本書を読みこんだ後は、いつどこに行くかという決断だけが求められる。そして本書にはいつどこでという情報も懇切丁寧に記されている。春夏秋冬、それぞれの季節ごとの山の姿の紹介がエッセイ風に記され、こちらも力を抜いて読める。また、著者のお気に入り百山を挙げて下さっているが、本書を読む2か月前に読んだ「日本百名山」のような名峰高峰ではなく、素人にも親しめる100メートル級の山から多数紹介されている。ここで紹介されている山々はほとんどが日本百名山に入らない山々であり、まさに私のような初心者にとって行きたくなるような山ばかり。さすがに我が故郷の風景としてお馴染みの甲山や六甲山は入っていなかったが・・・

近々ちょっと行ってこようかな・・・

と、上の文章を書いたのが本書を読んだ直後の去年の7月。それからの私は徐々に山男ぶりを発揮することになる。9月には家族で上高地に行き、二連泊の車中泊を。さらに翌日は山梨から有楽町へ向かい、山登りを趣味とし奈良県山岳会の会員である大学の後輩からさらなる山の素晴らしさを教えられ。今年に入ってからも滝めぐりや山への訪問。さらには妻のご縁でお知り合いになったかたから山登りの会へと招待され、、、、本書を読み終えてから一年。この夏、一山は登りたいと思っている。

‘2015/7/6-2015/7/7


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