芥川賞の受賞作には、ちょっと目を引くような小道具がアクセントに使われることが多いように思う。本書においてはそれがポトスライムなのだろうけど、あくまでその立場は物語の背景を彩るアクセサリー的な感じ。物語の時間軸の流れを分かり易くしめすためだけにポトスライムが使われているところに注目したい。

突飛な奇矯な目を引くような設定もなく、いたって常識的な日常の描写だけでここまで読ませるというのも、著者の筆力によるものなんだろうけど、ポトスライムを食べたり、世界一周のポスターや、奈良の仏像など、物語世界の外を破るようなイメージの描写が合間合間に挟まれていることで、単調に描いている日々の流れにうまく起伏を挟み込んでいるからではないだろうか。

賞の選評で宮本輝氏が、清潔な文章と書かれていたけれど、賞狙いのような突飛な言動や設定に頼らず、ポトスライムをも物語のスパイスではなく、静物として置ききった著者の我慢の勝利といったところか。

本書には受賞作以外にも一編「十二月の窓辺」が収められており、その生生しさは、著者の経験がかなり色濃く私小説的なまでに込められているのではないかと思うほど。私もなんか他人事ではない気がした。逆にそれゆえに私には窮屈な作品に思えてしまったけれど、今の世間での企業内人間関係を切り取るという意味では小説として役割を全うしていると思う。

’12/1/21-’12/1/21


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