私が好きでないことの一つ。それは物事を偶像化・神格化することだ。同じように無条件の心酔や崇拝も好きではない。ただ、これはすごいという人や物事については賞賛を惜しまない。その分野で流れを変えた人物の業績についても同じく。たとえばビートルズのような。

わたしは中学の頃から洋楽が好きだ。私が洋楽に興味をもったのは、映画のサウンドトラックがきっかけだ。オーバー・ザ・トップ、ロッキーⅣ、そしてトップガンのサントラはテープが擦れてのびてしまうまで聞いた。

すでにそのころ、ビートルズの時代は遠くなっていた。ビートルズ不在の70年代。サザンロックやウェストコーストロック、プログレッシブロックやパンク、ソウルをへてディスコブームへ。80年代はイギリス勢がビートルズとは違う切り口で音楽シーンを席巻し、メガヒット作や上に挙げた数々のサントラがはやった。ユーロビートがチャートをにぎわせ、来るべきグランジへの時代を待ち受けていた。私が洋楽を聞き始めたのはそのころだ。

ジョン・レノン射殺のニュースはまったく記憶に残っていない。私は七歳だった。私が物心ついたとき、すでにビートルズは永遠に再結成されないバンドだった。彼らの音楽は全て後聞きで知った。それでも彼らが音楽の流れを変えたことは確かだと思う。最初に書いたとおり、崇拝や神格化はしていないつもりだが、ビートルズはやはり違うと思う。別格だ。それまでのロカビリーやプレスリーによるどことなく素朴な音楽と比べ、ビートルズの音楽がいかに革新的なことか。

もう一方、本書で取り上げられているのはローリング・ストーンズ。ところが彼らの音楽は私にとって少しどころかだいぶ疎遠だ。彼らのCDは少しだけだが持っている。そして彼らがいまだに現役というだけで偉大なことはもちろんだ。ところが、何度も彼らの音楽の魅力を知りたいとチャレンジしているのに、どうしても私の中の琴線に触れてくれない。

そんな私に、本書の内容はとても新鮮だった。ビートルズとストーンズがこれほどまでにお互いに影響を与えあっていたとは。もちろんそんな事実は知らなかった。

もちろん、私も彼らが犬猿の仲だとは思っていなかった。敵対するライバルとも。だが、彼らが音楽やビジネスでここまで交流を重ねていたとは意外だ。

とくに私が知らなかったのは『ロックンロール・サーカス』のこと。これはビートルズの『マジカル・ミステリー・ツアー』に触発されたストーンズが企画した映像作品だ。この作品の存在は本書を読んで初めて知った。それもそのはず。『ロックンロール・サーカス』はお蔵入りしており、一般公開されていないのだから。

彼らの交流史において『ロックンロール・サーカス』が重要なことはさらにある。それは、作中でジョン・レノンがストーンズの面々とバンドを組み、ジョンにとってすごく新鮮だったことだ。すでにビートルズは前年にマネージャーのブライアン・エプスタインをなくしていた。ブライアンというバンドの取りまとめ役を失っていたことで、ビートルズのメンバーを結びつけるタガは緩んでいた。『ロックンロール・サーカス』でジョン・レノンが結成したグループ名はダーティ・マック。汚いマッカートニーとも読める意味ありげな名前のバンドだ。メンバーはジョン・レノン、キーズ・リチャーズ、エリック・クラプトン、ミッチ・ミッチェル。ロックの歴史の中でもそうそうたる面々だ。

ジョン・レノンがダーティ・マックに惹かれた時点で、ビートルズの中に亀裂は入っていたのだろう。

ビートルズによって音楽産業に自作自演のスタイルが確立され、ストーンズもその後に続く。『ラバー・ソウル』によってビートルズはより先進的なグループとして名をはせ、ストーンズが感化されて名盤『アフターマス』を作る。

一方でビジネスの部分でも彼らの交流はいたるところにみられる。ブライアンに続いてビートルズのマネージャーだったアラン・クラインの存在がビートルズ解散に大きな影響を与えたことはよく知られている。アラン・クラインを信用しなかったポールと、他の三人の間で意見が対立したことも解散の理由の一つだともいう。そして、アラン・クラインをビートルズに紹介したのはストーンズだったこと。そのときストーンズはすでにアラン・クラインを見限っており、訴訟すら検討していた。この事実はかつて知っていた気がするが、本書をよんで思い出した。

本書はそんな風に、イギリスが生んだ二つの偉大なグループの交流を次々と紹介してゆく。本書はビートルズの功績をあらためて思い出させてくれたことでも、私にとっては貴重な一冊だ。

だが、わたしにとって本書が良かったのはローリング・ストーンズを見直すきっかけとなったことだ。ビートルズがどれだけ素晴らしくとも、60年代の一時期に過ぎない。だが、70年代以降もストーンズは世界的ヒット作や大規模ツアーを産み出し続けている。それなのに私はベスト版に収められている曲ぐらいしか、彼らの音楽を知らない。これはとてももったいない。シングル曲よりもアルバム単位で素晴らしいと思えるミュージシャンは他にもたくさんいる。ローリング・ストーンズにも私の知らぬ名曲がたくさんあるかもしれないのだから。

‘2017/02/15-2017/02/16


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