著者については知識がなく、この本も題名に惹かれ手に取った。筒井康隆氏の小編に「三丁目が戦争です」というのがあって、その世界観を想像したため。

ところが本書は雰囲気や世界観はもう少しシリアスな感じを持っている。行政の一環として町単位での戦争事業が行われていて、一般市民はその戦争の実態をほとんど知らぬままに日常を送るような世界が舞台。舞台といってもSF的な設定ではなく、どこにでもあるような日本の地方都市を中心であり、行政組織や日常の出来事にも現実から乖離したような描写は見受けられない。

そんな中、裁判員制度のような形で無作為に戦争業務に任命された主人公が戦争に参加しているという実感もないままに巻き込まれていくという話が展開されていく。

行政の無機質性を強調するとともに、本書の筆致も冷静なトーンで統一され、それが戦争に関わる主人公の戸惑いを増幅させている。戦争って熱いはずなのに、なぜこんなに他人事なの、という主人公の思いが随所に出てくるのだが、実はこれは私も含めた戦争を知らない世代が心の奥にぼんやりと感じ取っているもどかしさではなかろうか、と思う。

個人から見た、自分に関係のない大衆との関係性の捉え方。私も含めた殆どの人はあえてその問題を考えずにスルーし、マスメディアからの報道によって大衆の問題に関わったような気持ちになって済ませているのが大方のところだと思う。

本書はその捉え方をあいまいなままで終わらせずに追求したいという著者の努力の跡が見える。

’11/12/22-’11/12/26


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