著者の作品は本書が初見。

本書はノンフィクションとフィクションの境をあえて曖昧にした内容で、論議を呼び起こし映画化もされた作品である。

タイ農村部の人身売買の取引と、少女たちが売られ、性の欲望に蹂躙されていく様が、ポルノと見間違えるぐらいのえぐい筆致で描かれており、読んでいて気分が悪くなったほど。エイズに感染した少女が売春宿をたらいまわしにされた後、必死にたどり着いた故郷で村八分にされ、生きながら焼却処分されるなど、酸鼻極まりない描写がこれでもかと眼前に突き付けられる。

中盤からは人身売買を業とする闇組織の暗躍と、それを食い止めようとする現地NPOの奮闘、日本人スタッフや日本から取材に来た記者などの努力を元に内容の展開に没頭できるだけに、衝撃は幾分和らげられるものの、後半では臓器売買の提供者として闇から闇へ取り扱われる少女と、その恩恵を受ける日本人の児童という構図が取り上げられ、子を持つ日本人として否応なしに考えさせられてしまう。

本書の内容があまりにも生々しく、しかも我々平和な国に住む人間に対して刃のような問いを突き付ける内容だけに、ノンフィクションとフィクションという区分けや、内容の真偽も含め、レビューにも否定的な内容が多い。内容から目をそむけたくなる気持ちもわかるが、そういう評価は本来小説の内容とは関係ない次元の話であり、あえて事実か虚構かを曖昧にして発表した著者の術中に嵌っているのではないかと思う。

フィクションであればそこまでの衝撃を与えた著者の文才を賞賛すべきであり、ノンフィクションであれば我々が享受する繁栄の代償としてある未知の犠牲について少なくとも思いを致す機会とすべきであろう。

私自身は事実か虚構かという二分論に与するつもりはなく、本書の内容が事実の断片を元にした虚構ではないかと考えているが、元となった事実の断片だけでも存在すると仮定すれば、子を持つ親、または日本人としての今を真摯に考えなければならないと思った。

’12/02/06-’12/02/07


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