本書は、これからのビジネスを考える上で、豊富な示唆を与えてくれる一冊だ。

カバーの折り返しにはこのように書かれている

「人間の歴史の中で、何かを始めるのに今ほど最高の時はない。
今こそが、未来の人々が振り返って、
「あの頃に生きて戻れれば!」と言う時なのだ。

まだ遅くはない。」

なんとも頼もしい言葉ではないか。

タイトルにもあるように、本書は技術が人類を進歩させるとの考えに基づいている。
インターネットが今まさに、世界にもたらしつつある変化。その変化は今後の私たちにどのように影響し、その変化の先にはどのようなビジネスの可能性は眠っているのか。
私たちは未知数のビジネスチャンスに向けてどのようなアプローチをとればよいのか。それを探り、読者に有益なヒントを与えようとするのが本書の主旨だ。

そう、今こそがビジネスを始めるチャンスなのだ。

言うまでもなく、ここ20年の間にインタ-ネットがもたらした変化は誰もが知っている。
だが、後からそれを批評するだけでなく、その渦中にあってそのチャンスをチャンスととらえ、ビジネスの立ち上げまで進められた人はそう多くはない。私のみすみすチャンスを逃したうちの一人だ。

だが、まだ間に合うことも確かだ。今、新たにビジネスを立ち上げれば、ブルーオーシャンが開けている。そのことも理解している。少なくとも頭の中では。

個人としての行動力はある程度は備えているつもりの私。だが、いざビジネスを立ち上げるには実力が不足している。それも自覚している。
そもそも、私はビジネスを始めようという熱意に欠けているのだろう。私に欠けたその資質は、ビジネスとして市場に問う以前の問題だ。

そこで、本書を購入した。
本書には、今のインターネットがもたらした恩恵が、今後のビジネスにどうつながるのかについてのヒントが無数に紹介されている。
著者は、ワイヤードの初代の編集長である。ワイヤードといえば、最近は影が薄くなってしまった。が、ネット創成期には一定の認知度と影響力を有していたメディアだ。まさにかつてのYahoo!のように。

そんな経歴を持つ著者だが、今の趨勢をおさえる目は確かだ。
本書の分析は最新の情報技術の動向を踏まえているし、アメリカで生まれつつある実際のスタートアップ企業の例もふんだんに紹介されている。
本書は全体を通して、相当に実用的な内容が詰まっている。2016年という、ネットの世界の時間軸では昔に出された本だが、まだ日本ではビジネスとして送出されていない話題も触れてくれている。

本書は12の章からなっている。各章には現在進行形の動詞が付けられ、それがまさに今この時にも起こっている変革を表わしている。

1、BECOMING
なっていく。

このキーワードは本書の冒頭を飾るにふさわしい。
個人が何を望もうとも、デジタルを拒否しようとも、世の中の進歩に情報技術が欠かせないことは、誰もが認めているはずだ。この流れを押しとどめることは誰にも出来ない。

とはいえ、つい30年以上前の時点ではインターネットについて知っている人はほぼいなかった。
まだ誰もインターネットの価値に気づいていなかったため、その巨大な可能性についても半信半疑だった。当時はあらゆるドメインが好きなだけ所有できたことも本書には載っている。
その進化が目に見えて世の中を変えてしまった今、この巨大な変化の流れを一体どれだけの人が客観的にみられているだろう。
それは逆に言うと、今から30年後のことについても言える。
現在、まだ誰も考え付いていないサービスが30年後の社会インフラの中核を担っている可能性だってあるのだ。
その変化の激しさを予想できる人も皆無だと思われる。
だからこそ、今が何かを始めるチャンスなのだ。
著者はそのことを強調する。本書が書かれた当時、インターネットが誕生してからまだ8000日しか過ぎていなかった。本稿を書いている現在でも10000日を超えていないはずだ。
当時、インターネットの可能性に気づけなかった人の無知を笑うのではなく、今、生きている私たちが未来の可能性に思いをはせられれば、巨大な名声と富を得ることも不可能ではない。
ビジネスの種は無数に転がっている。

2、COGNIFYING
認知化していく。

本章ではAIの進化について語られる。
著者はどちらかと言うと楽観的に人工知能をとらえているようだ。AIが人類を滅ぼす未来ではなく、人類と共存する未来。
もちろん、AIが人類の仕事を奪い、人の仕事のありかたを根本的に変えていくことは避けられないだろう。そして、AIによって人の仕事の意味が変えられたことは、人の生のあり方にも根本的な変化をもたらすはずだ。
著者は、人間とAIの共存のために考えられるさまざまなパターンを挙げ、その可能性を熱く語る。
ビジネスの種は際限なく転がっている。

3、FLOWING
流れていく。

今までの経済は、実体である物を流すことで回っていた。物々交換から貨幣経済に至るまで。
それが今や、経済を回す主体はデータによるコンテンツにとってかわられつつある。そして今後もその流れは止むことなく加速していくに違いない。

それは、コンテンツを作り出すクリエイターのあり方や働き方にも影響を及ぼす。今も実際、コンテンツの流通経路の変化が、クリエーターにとって新たな発表手段をもたらしている。
世の中の変化は今後も激しく動いていくことだろう。今までの経済のあり方にも根本的な変化が起こることは間違いない。
ここにも、ビジネスの種は膨大に転がっている。

4、SCREENING
画面で見ていく。

あらゆる情報がディスプレイで確認できるようになった今、私たちの視覚に方法を与えるための機械や、媒体の進歩には見違えるものがある。
おそらく、今後も次々と革新的なテクノロジーが生まれ、私たちのために情報を提供してくれるはずだ。現時点で誰一人として考え付いていない方法で。

私たちの五感を満たすあらゆる情報の発信の手段はディスプレイ以外にも生まれつつある。
この先、私たちはいつでもどこからでも情報を得られるようになる。それらの情報機器に囲まれた私たちの毎日が、がらりと様相を変えてゆくのはもはや避けられない。
ここにも、ビジネスの種は数えきれないほど転がっている。

5、ACCESSING
接続していく。

ものによって価値がやりとりされるのではなく、情報が価値となった今、情報へのアクセス手段を提供するプラットフォームが有利なのは明らかだ。
すでに、巨額の利益を上げている企業は、ものを持たずにサービスを主にしている企業が多くを占めている。今後もその流れは変わらない。
データがサービスの核となった今、いつでもどこでも好きな時に情報へのアクセスが可能となり、そのアクセス手段がよりいっそう重要となることだろう。
であるならば、その手段の構築において、あらゆるビジネスのチャンスは眠っているはずだ。
ここにも、ビジネスの種は数限りなく転がっている。

6、SHARING
共有していく。

シェアリング・エコノミーとはここ数年よく聞く言葉だ。
所有と言う概念が薄れつつある今、何か価値のあるものを皆で共有し、享受するライフスタイルが主流となりつつある。

物質は同時に別の場所・時間に存在できない。誰かが占有してしまえば他の人がそれを使用することができない。長らくその常識が人々の間にまかり通っていた。
だが、データは同時に複数の人が同じものを利用することを可能にした。それによってシェアという新たな考えが人々の新たな常識となってゆく。そして生活を潤してくれている。
サービスの消費者である私たちは、いまや所有が時代遅れになりつつあることを認めなければならない。そして、サービスの提供元としても所有ではない新たな常識になじんでいかなければならない。
ここにも、ビジネスの種は星の数ほど転がっている。

7、FILTERING
選別していく。

毎日・毎時・毎分、膨大な数の情報がアップされている。そして、すでにアップされた膨大な数の情報が世の中に流通している。
それらに全て目を通すだけでも人の一生は百万年あっても足りない。
その中で、自分にとって必要な情報をいかに抽出し効率よく取り込めるか。そうした選別の技術が求められている。
Amazonはリコメンド機能としてそれを昔から行っているし、Google検索などもまさに選別の一つだろう。
どうやって情報の選別を行い、それを人々にとって適した情報として届けられるか。

今はまだ情報には雑音が混じっている。これを個人の嗜好や考え方に最適化した形で届けるサービスを今後のビジネスを制するといっても過言ではない。
ここにも、ビジネスの種は多彩に転がっている。

8、REMIXING
リミックスしていく。

これだけ膨大な数の情報が流れている今、全くの無から新たな価値を生み出すことは不可能といってよい。
既存のあらゆる情報をどのようにして相互に効果を生じさせ、新たな価値として生み出していくか。
まさにこのリミックスの技術こそが、これからのコンテンツ制作の中核になることだろう。
すでに、既存のものから新たな価値をビジネスとして創造する企業は多くある。
だが、より本質的な価値の創造の余地はまだ残されているように思う。リミックスできる組み合わせは無限なのだから。
ここにも、ビジネスの種は限界を超えて転がっている。

9、INTERACTING
相互作用していく。

ここではAR/VRの世界が語られる。
すでに、これらの世界の精巧さは、現実とあまり変わらない体験を私たちにもたらすことが可能だ。
今までは現実の世界とデータが作り上げた仮想の世界は、相互に影響を及ぼさないとされてきた。だが、もはやその認識は古くなりつつある。

現実世界でしかビジネスが成り立たない。そんな認識から一歩先んじた企業は、仮想の世界でのビジネスを展開している。そして、人々の暮らしも仮想空間を受け入れたものへと変わっていく。そのことが本章で語られる。
ここにも、ビジネスの種は仮想の数だけ転がっている。

10、TRACKING
追跡していく。

この章ではライフログが語られる。ライフログについては私もブログや読読レビューでもたびたび取り上げてきた。
ライフログについては、私は肯定派である。さらに、本書に取り上げられているような自分の行動を常時記録する人々の域にまでは達していないが、ある程度の行動は記録している。
ライフログの流れは、人々のネットへの拒否感が薄まり、セキュリティ技術が進展するにつれ、広まってゆくに違いない。
ここにも、ビジネスの種は億兆ほどに転がっている。

11、QUESTIONING
質問していく。

なんでも検索すれば答えが出るようになった現在、それが逆に人々の思考の在り方や本質を変えてしまったように思う。
そして、それは知恵の結集としての社会や組織の在り方にまで影響を及ぼしている。

今までの人々が行っていたような一対一の質問については、すでにAIが答えを返してくれるようになった。
そうなった今、私たちは質問の仕方から見つめなおさねばならない。
人にしか出来ない質問、AIには答えることができず、人にしか答えられない質問。これからの人類にはこうした問いを考える素養が必要になってくることだろう。
ここにも、ビジネスの種は考え付く限り転がっている。

12、BEGINNING
始まっていく。

本書のまとめである本章。データがもたらす知識の総量や伝達の速度は、すでに人智の及ばないところへ向かっている。
そんな中、人類とAIのかかわり方にも本質からの違いが生じるはず。その状態を著者はホロス(Holos)と呼ぶ。
シンギュラリティはあるはずと著者は予想するが、一方でそれが人類に与えるインパクトは深刻なものではないと著者は説く。
私は著者の楽観的な見方を支持したい気持ちはあるが、短期的には人類はこれからの変革の中で無数の痛みに耐えていかねばならないはずとみている。

そこでどのような立ち居振る舞いをするべきか。どういう思想を世に問うていくべきか。そもそも市井の一市民に何ができるのか。
ここにも、ビジネスの種はミクロとマクロで転がっている。

‘2019/8/7-2019/9/1


カテゴリ: 読ん読く.
最終更新日: 10月 19, 2020

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