本がないと生きていけない私の読書人生で転機になったのは、間違いなく江戸川乱歩の著作と出会ってからであり、小学三年生のあの頃、ポプラ社の二十面相やルパン、ホームズ物をむさぼるように読んだ日々がどれだけ幸せだったか。

ポプラ社の46巻シリーズ、前半は少年探偵団や明智探偵と怪人二十面相の対決を軸とした子供向けの性格が強いのだが、後半は大人向けの小説を子供向けに翻案したもので、小学三年生の私にも、後半のほうが起伏に富んでいて面白かった思い出が強い。

中でも本書は怪しげな世界観が、子供向けに翻案されている内容からも色濃く立ち上っており、子供心にもなにかぞくぞくするような感覚が去らなかったことを思い出す。

本書は無論、翻案なしの大人向けの内容そのものであり、在りし日に味わった幸福な読書体験を大人の目で楽しむことができる。

確かに今の仮想現実に慣れさせられた目からみるとパノラマ仕掛けにも、筋建てにも難を感じるところがあるのだが、それがかえって昭和初期のレトロな雰囲気を発し、本書の独特な魅力につながっているのではないかと思う。一度読んだだけでは本書の魅力を味わうには至らない。その証拠に、私が大人向けの本書を読むのは2,3度目である。

’12/03/26-12/03/27


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