後味が強烈に悪い。こんなことが許されるのだろうか、と思えるほど。

そしてその思いを後から振り返るにつれ、まんまと著者の術中に嵌ったことを悟る。後味が悪ければ悪いほど作中人物への感情移入の度合いが強いことを意味し、おそらくはそれを狙って書いた著者のほくそ笑む顔が浮かぶようだ。

私もまんまと思惑に乗せられてしまった口だけど、私の場合は個人的な経験も相まって、余計に思いが強かったのかもしれない。本書は阪神・淡路大地震の描写から始まる。揺れる神戸の街の様子が写実的に描き出されていく。阪神・淡路の被災者である私の記憶を呼び起こすには充分すぎるほどに。

私の記憶を呼び覚ました上に、本書を読んだのが2011年も暮れようとしている時期で、東日本大震災の映像が繰り返される中、本書冒頭の描写が私個人の思い出にフラッシュバックしたことも理由の一つだろう。後味が強烈に悪いのも、神戸のがれきの中で巡り会った二人の若者のその後の運命に感情が入ってしまったまま、結末を知ってしまったための感情なのかもしれない。

本書は映画化もされた「白夜行」の姉妹編ともいえる本で、「白夜行」にでてくるヒロインのミステリアスな部分よりも、こちらで出てくるヒロインのほうがより冷静かつ酷薄に書かれている。「白夜行」のヒロインは実家で潜んでいた頃の描写があるだけ、まだ薄倖の少女時代に同情できる感情がわずかに残るが、本書では神戸の街以降の描写が中心で、同情が芽生える余地もない。

私の個人的な思い出はともかくとしても、本書では「白夜行」のヒロインと違った書き方を意識的にし、ああいった結末に持って行ったことは間違いない思う。本当に読者の感情を揺さぶるのがうまい作家だと思う、東野氏は。

’11/12/18-’11/12/20


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