単に科学技術の粋を描いたり、宇宙や別の星の住人を物珍しく描くこと。これだけがSFではない。それは以前にも書いたように思う。異世界や異文明を描くことで、人類自身を描こうとする営み、これもSFの大切な役割ではないかと思っている。

本書は題名からも想像できる通り、シリアスなハードSFではない。16編の短編からなる本書は、むしろ軽妙ですらある。その中の数編はSFというジャンルではなく、一つの短編として世に問えるだけの内容となっている。人間存在を違う視点から描くという点において。

むしろ、SFという固定観念で読んでかかるよりも、優れた短編集として読んだ方が良い気がする。SF的な設定を借りてはいるものの、示唆に富んだ内容はすぐれた短編集を読む喜びを充分に与えてくれる。

視点を変えて自分自身を、人類自身を眺めたとき、どんなに滑稽なものか。自分に悩んだ時、行き詰った時。視点を変えることでそれらの悩みが取るに足りないものだったということはままあることである。本書はそういう視点変換のトレーニングによいかもしれない。

’14/3/12-’14/3/15


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