あまりジャンル分けには意味はない、と頭では分かっている。分かっているのに、無意識にジャンル分けをしている自分。小説を読みながらそんなことを自覚するのもどうかと思う。

おそらくは作家についても同じことがいえるだろう。ジャンル分けされたくない、と多方面にアンテナを呼ばす意欲を持つ作家は多いに違いない。私はジャンルを極める作家と同じく、多ジャンルに進出する作家も応援したいと思う。

著者も純文学からミステリへの進出が一時目立ち、「このミス」常連への道を走っていたようだ。が、今回は文体や語りに純文学の抑えめのトーンを配し、しかも内部にミステリの謎をおくという挑戦を行っている。

すっきりとした謎説きのカタルシスは、純文学の重厚さ、深遠さを出すのに相応しくない。表面の感情に訴えるのではなく、内面の奥底に響く小説を。謎が説かれた充実感と奥底に響くというのを両立させるのは難しいと思う。本書はそれに挑み、成功したと言えるのではないか。

ただ、シューマンの各曲に通暁していないと、この小説の凄さは味わいつくせないのではないかと思う。なぜなら私がそうだからである。

もう一度それらの知識を得た上で、再読してみたいと思う。そうすることで、著者が意図する、内面に響く感情と音響の余韻が味わえるかもしれないから。

’12/05/15-12/05/18


カテゴリ: 読ん読く.
最終更新日: 7月 27, 2014

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