実は著者の事はほとんど知らずに本書を手に取った。著者の作風やジャンル、年齢や性別すらも。

かつての流行作家・豪徳寺ふじ子の元で秘書をしていた珠美という女性が主人公である。次々と浮名を流すふじ子の気まぐれに付き合う有能さが却って仇となり、ふじ子の魔性に絡め取られていく。ふじ子に役者の恋人を寝取られ、それを機に独立し、かねてからの目標である作家としてデビュー。という背景で本書は始まる。

ふじ子を廻る人間関係が丁寧に描かれており、登場人物はよく書けている。ただ、メロドラマ的な前半4分の1の描写に少々ダレた感を抱いた。

しかし、続く章では、舞台は一転する。ふじ子が作家としてデビューするまで、地方都市で姑にいびられた過去。なにがふじ子を変えたのか。さらには珠美がふじ子に出会った経緯に章はシフトする。ふじ子の不思議な魅惑に嵌っていく珠美。二つの章に共通するのは、ふじ子も珠美も奇矯のところのない普通の女性であること。著者の女性作家ということを読了後に知ったのだが、それが納得できる女性の描写が見事である。

それでもなお、ここまで読んでいて、この作品が何を目ざしていくのか、正直予測が付かない。大方の小説には目指す結末が前半で提示される。それは犯行や動機といったミステリーの要素であり、何かを成し遂げようとする主人公の意思であり、既知の歴史軸に対する読者の知識である。

本書はこの点が非常に曖昧に書かれており、そのために前半4分の1を読み進めるのに手が止まりがちとなる。

しかし、実は最初の部分でもふじ子の交流関係の描写の中で、何度か触れられているのである。その事件に。しかし読者はそれに気付かない。少なくとも私にはそうであった。実はそれが著者の仕掛けた効果だったのかもしれない。

本書は後半の4分の3に入り、それまでのゆるやかな流れから急に速度を上げる。その急激な速度アップには読者はついていくのが精いっぱいかもしれない。あるいは戸惑い、あるいは茫然として。しかし、本書の読後感にかなりのインパクトを与えているのは確か。

冒頭にも書いた通り、著者の事を知らずに読んだのだが、この読後感によって、他の作品にも手を伸ばしてみたくなった。

’14/2/21-’14/2/27


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