先日『日本でいちばん大切にしたい会社 7』を読んで感銘を受けた。
著者が講演で語っていた事例が載っており、私も経営者のはしくれとしてこのままではいけないと元気づけられた。
そこで、他の会社の事例も知りたいと思い、本を貸してくださったパートナー企業の社長に他のシリーズもお借りした。

本書はシリーズの第一巻にあたる。
本書の第一部では本書を世に出すにあたっての思いが書かれている。

「はじめに」では、企業経営者が陥りがちな五つの言い訳が挙げられている。
「景気や政策が悪い」
「業種・業態が悪い」
「規模が小さい」
「ロケーションが悪い」
「大企業・大型店が悪い」
これらは全て企業の経営悪化を外部の要因のせいにしている。

経営の悪化を外部のせいにするのではなく、まず内部を変える。それが本書の肝だ。
「内部は変えられない」のではなく、そもそも変えようとする努力をしていない。それも著者の厳しい意見だ。
その時、社員やその家族の幸せを第一に考えず、経営の悪化を社員のせいにして、社員に過度な負担を求める会社など経営者として論外。そう著者は断罪する。

もちろん、これらのことを言うだけなら簡単だ。その実践となると簡単ではない。
私自身、自分を省みて忸怩たる思いはある。経営に関しても苦しい思いをしながら試行錯誤している。

弊社の経営に関しては、変えるべきは企業の外部環境ではなく、内部であることは間違いないと思っている。
だが、経営者として企業の内部を見た時、メンバーを外部環境として考えていないだろうか。経営者の思いを内部とすると、メンバーや社員の働きを外部環境とし、そこに経営悪化の原因を求めているとすれば、経営の悪化を自分以外のせいにしているのと同じだ。

昨年、メンバーを雇用した時の私は、本書を読んだ結果を踏まえ、自分なりに理想を固めつつあった。
メンバーのための会社でありたい。私が起業や組織の中で働くなかで嫌だったことは、弊社のメンバーにはしない。経営の悪化をメンバーのせいにはしない。
そうした思いを基に企業理念や経営理念も定めた。

だが、私自身のコロナをきっかけに経営が苦しくなった。
私がこんなに頑張っているのに、私だと簡単にプログラミングできるのに、私はこんなにすぐに返信を打つのに。
私の気概が衰えた時、こうした悪感情が湧いてきたことがあった。

その結果を受け、年末年始に反省をした。そこで、そもそも弊社の業務が継続できるものでなかったことを認めた。私自身のスキルや経験を基準に考えた経営になっていた過ちを受け入れた。そして、そう思わないようにしたつもりだったが、私のスキルや経験のレベルをメンバーに急いで求めてしまっていたことを猛省した。

まず、メンバーのための会社を作る前に、会社が継続できるためのサービスを提供しなければ。
その思いをもとに、本稿を書くにあたり、あらためて本書を読み直してみた。

本書には五つの会社が紹介されている。
日本理化学工業
伊那食品工業
中村プレイス
柳月
杉山フルーツ

日本理化学工業さんは、川崎市にある。弊社のサテライトオフィスから自転車で行ける場所だ。私は本書を読んだ後、この会社のすぐ近くを通ったことがある。その時は気づかなかったが、機会があれば再訪して見学させてもらえればと願っている。
日本理化学工業さんは、チョークを作っている会社だ。チョークを世界に輸出している。
特筆すべきなのは、従業員の多くが知的障害者ということだ。
正直にいうと、今の弊社が知的障害者を雇って業務を回す自信はない。だが、日本理化学工業は六十年前からそれを実践し始め、今では全社員の七割が知的障碍者を雇って業務を回している。
まず、主力商品であるチョークが常に消費される商品であること。そして、それを開発し製造し販売する社内の仕組みが整っていること。その理念も素晴らしいし、社内で継続する仕組みができていることが素晴らしい。
だが、当初はかなりのためらいがあったことが本書には紹介されている。
会社で働くより施設でゆっくりしていたほうが幸せではないか、と思った創業者の大山氏がとある僧侶に相談したところ、以下のような言葉をもらったそうだ。
幸福とは、①人に愛されること、②人にほめられること、③人の役に立つこと、④人に必要とされること
②③④は施設では経験できない、と。
それに気づかされた創業者は社内の仕組みを障碍者でも担えるように少しずつ変えていったのだという。その絶えざる努力が素晴らしいし、一朝一夕には出来ない重みなのだろう。だが、私も含めたすべての経営者は、そうした努力を怠らないことだ。

続いての伊那食品工業さんは、著者のことを知る前から名前を聞いたことがあった。
四十八年もの間増収増益を続けたこともすごいが、社員の幸せを優先した経営を貫いていることも見逃せない。それは社員を家族として見る経営理念がしっかりしているからだ。家族だから礼儀作法についてもきちんと指導する。
こちらも、理念だけではなく、寒天という軸となる商品を持ち、それを開発・製造・販売する体制ができているからに違いない。
また、伊那食品工業さんはそもそも競合他社と戦わないという。それも重要な点だ。競合することで余計な社内のリソースが消費され、消耗する。そして社内を良くし、社員のために還元しようとする力が失われる。さらに、目先の利益を追わず、大手スーパーからの要望も、自社の目の届下範囲でやりたいという理由で断ったという。つまり少しずつの成長を重んじ、一時のブームに乗らないのだ。四十八年間の増収増益が途切れた理由も、寒天ブームがおこったため、経営者が社員と世の中からの要請に押され、反対していたが増産に踏み切ったことが翌年の反動につながったためだという。
伊那食品工業さんのホームページには、そうした会社の思いがしっかりと書かれている。弊社も見習わなければならない。

中村ブレイスさんは、島根の石見銀山の近くにある会社で、義肢製造をしている会社だ。
交通の便がとても悪い場所に位置しているにもかかわらず、就職を希望する方が引きも切らないという。
都市にでなければ業績は上がらないという言い訳。それをこの会社は会社を存続させてきたことで否定している。
米国で義肢を学んだ創業者の中村氏は、帰国後あえて大都市で操業せずに故郷をどうにかしたいとの思いで操業する。
最初に入った社員は、体がとても弱く、出社してもすぐに帰宅し、何日も来ないこともあったという。普通の就業時間を働けるようになるまで七年半もかかったという。
その辛抱は尊敬に値する。メンバーに対して焦ってしまった私自身を恥じる気持ちでいっぱいだ。
その存続にあたっては、世の中の人にとって必要な仕事であることも大きい。人口乳房や人工肛門、義肢などは当事者にとっては涙を流すほどありがたがるものだろう。それを制作することは、仕事のやりがいとなって社員たちは土日に自主的に出勤し、働くことも厭わずに制作に向き合っている。
こうした会社を見るたび、ITが本当に人々に大切な仕事であるために、何をしなければならないかを考えたい。少なくともブルシット・ジョブを楽にするためのIT技術であっては、中村ブレイスさんのようにはなれないだろう。

柳月さんは帯広にある和菓子のお店だ。帯広といえば六花亭が有名だが、こちらはあえて北海道の外に出ずに、質の高い製品を作り続けているという。
ここで心に留めておきたいのは、「あなたの会社がなかったら、お客様はほんとうに困りますか?」(151ページ)との問いだ。
情報処理を営む弊社に置き換えてみると、弊社と同じようなシステムを開発する会社は多い。その中で弊社でなければ、という存在意義を示さなければどうなるか。おそらく、並み居るシステム会社の中に埋もれていってしまうに違いない。
また、こちらの柳月さんは、同業他社と争わず、協業の姿勢を崩さないという。情報処理業界も相見積りや価格競争が盛んだ。
私自身は他社との競争をあまりしたくないのだが、そもそもシステム構築という目的やプロセスが似通っている以上、他社の業務とかぶってしまうところがある。そこをどのようにやっていくか。愚直に良い技術を研鑽していくしかないと考えている。

杉山フルーツさんは静岡の吉原市にある個人経営の果物店だ。商店街の一角にあるその様子は、私もGoogle Mapで確認した。
こちらのお店が日本中から評判を呼び、今や生フルーツゼリーで全国を出張展示で巡っているという。
その徹底した顧客視点の経営は、地元の商店街にあった大規模店舗の撤退による危機感がきっかけだという。
危機にあった時にどう振る舞い、どのような経営を行うか。それはどの経営者にとっても等しいテーマだ。
弊社も本書を読んだ後、経営で失敗しかけた経験を持った。杉山フルーツさんのように顧客第一の視点を、単なるスローガンでなく実践することを実践したいと思う。

‘2020/08/01-2020/08/01


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