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月末に経営の理想を思い出すため、本書に目を通すようにしている。
本書はシリーズの三冊目にあたる。読むたびに感動を受ける。刺激も受けるし、新鮮さを感じさせてくれる。

本書は、全部で七つの会社が取り上げられている。

一つ目は、徳武産業株式会社。香川県さぬき市の会社だ。もともとは手袋のメーカーだった。だが、靴の方が年間を通しての売り上げが見込めるため、業態を転換したそうだ。

この会社がユニークなのは、お年寄り向けに靴を特化したことにある。お年寄りだからあまり出歩かない。そのような固定観念は捨てなければならない。
お年寄りであってもおしゃれはしたい。むしろ、外に出たい。それなのに履く靴がないため、病院や家に閉じこもってしまうのが課題だそうだ。

靴は左右で一足。そんな固定観念さえも一蹴するのが徳武産業だ。
お年寄り向けの靴を販売するにあたり、左右のサイズを別々に作成するどころか、左右の靴をそれぞれ単品で販売する施策まで打っているという。そうした靴業界の常識を打ち破るサービスも、あくまでもお年寄りの希望に寄り添うため。その姿勢はお年寄りに対してだけではない。障害者に対しても同じだ。まったくすごいと言うしかない。

ついては、中央タクシー株式会社。長野県長野市にある会社だ。もともと、タクシー会社を継いで経営に奮闘していた社長が、あらためて自らの理想とするタクシー会社を目指して設立したそうだ。

残念なことに、タクシー業界には少し身を持ち崩しかけたようなドライバーもいたという。そのイメージはまだまだ世の中に根強い。タクシー業界にとっては、イメージの改善が喫緊の課題だと思う。中央タクシーも初めの頃は経験者を多く抱えていたため、その中にはガラの悪いドライバーもいたと言う。それを未経験者の募集から始め、既存のドライバーに煙たがられながらも社員教育を続けてきたことで、十年たった今ではドライバーは未経験者がほとんどを占めたと言う。

そうした社員教育の成果が実り、中央タクシーと言えば長野県内では同業者からも手本とされるまでになったそうだ。

タクシー業界は上にも書いた通り、まだ古い体質が幅を利かせている業界だ。そのため、会社を改革するため、タクシー業界の組合の存在がかなり足かせになったらしい。そこで中央タクシーは組合から脱退した。さらに長野オリンピックによって県内の景気が上向く中、オリンピックによる景気よりも地元のお客様を優先する姿勢を示した。それによってさらに地元の尊敬を勝ち得たそうだ。

その次に行った施策は、長野から成田や羽田へ向かう便を空港便として発足させたことだ。すべてはお客様のニーズのため。その施策が支持された。利益は後からついてくると顧客を第一に考える姿勢は本書にふさわしい。

三社目は、株式会社日本レーザー。東京都新宿区にある会社だ。もともとはとあるメーカーの子会社だった。だが、経営者と従業員による自社買収の結果、完全に独立した。
子会社の立場は親会社に縛られる。資産的にも資金的にも従属した立場だ。自らの会社の理想を追うためには、子会社の立場に甘んじず、独立独歩がふさわしい。

独立時の社長は、親会社からの出向社員だった。にもかかわらず、就任後、子会社側に骨を埋めると宣言した。それで社員の心をつかみ、さらにそこから努力を重ねた結果、完全に独立を成し遂げたと言う。

会社の最大の目的とは雇用すること。この会社の姿勢は、まさに見習うべきものだろう。
鶏口となるも牛後となるなかれ。それは私のモットーだ。それを実現するため、親会社や巨大会社の傘下に甘んじず、自立を目指すべきだろう。

四つ目はラグーナ出版。鹿児島県鹿児島市の会社だ。
精神障がい者のため、福祉と企業の間を隔てる壁を壊すことを目指し、メンタルヘルスに関する文芸誌や書籍の発刊を行っているという。

心の病はとても厄介だ。私もかつて鬱になったことがあるからよくわかる。重篤な症状で苦しむ人は、自分ではどうしようもない心の動きに苦しめられているのだろう。

そうした人々にとって、生きる意味とは何だろう。そこにもちろん答えはない。だが、心の病に苦しむ人々がやりがいや働きがいを見つけられれば、心の苦しみから少しでも遠ざかった暮らしが送れる。そのため、働く場所が必要なのであれば作るべきだ。このラグーナ出版もそうした会社だ。

五社目は、株式会社大谷。新潟県新潟市の会社。印章つまり印鑑だ。印鑑業界は今、厳しい状況に置かれている。リモートワークやペーパーレスの風潮が盛んだからだ。私も電子契約を率先して行っている。

だが、それがこうした会社の仕事を奪っていると考えると、後ろめたい思いに駆られる。障害者雇用をかなり率先して行っているこちらの会社に対して何かできる事はないだろうか。
そこで私も株式会社大谷のホームページを見に行ってしまった。すると本稿をアップする前日には、ウイスキー製造に乗り出すという記事を見かけた。ぜひ応援したいと思う。

六社目は島根電工株式会社。島根県松江市の会社だ。地域の設備工事の会社だが、従来型のゼネコンや官公庁の仕事から脱却することに成功した。「お助け隊」と言う制度を作り、細かい設備工事を請け負うことで成長してきた。大口受注からの脱却。それはどの会社でも苦労することだろう。私も弊社を立ち上げるにあたり、最初から大口顧客に頼らないと決めてやってきた。さまざまな施策を打つ中、やらねばならないのはきめ細かいサービスと営業だ。それを感じた。

七つ目は、株式会社清月記。葬祭業を営んでいる。
東日本大震災でもかなりの数のご遺体を納棺したという。それらすべてをやり遂げたその責任感。
こちらの会社も顧客第一のサービスを貫き、地道に業績を伸ばしてきた。

本書には著者が常々訴える、顧客第一よりも従業員第一の事例はそこまで出てこない。だが、著者は一貫してこう言っている。従業員が会社に愛着を持っていないのに、顧客に対して十分なサービスができるわけがない、と。

本書に登場する会社も顧客第一のサービスが支持を受けて業績を伸ばしている。顧客を優先したサービスが提供できることは、同時に会社が従業員第一の経営を続けている証しなのだろう。本書には何よりも雇用を優先するという言葉も紹介されている。

私もそれを踏まえた経営がしたいと思う。

‘2020/08/30-2020/08/31


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