「天津飯の謎」が献本していただいた本だとしたら、本書は店頭で著者から手渡しで受け取った本だ。

本書を購入したのはCybozu Days 2019の会場。
二日間にわたった祭典の最終日、閉場時間にぎりぎりのタイミングでサイボウズ商店(サイボウズ社のグッズや本などの特設販売ブース)に本を買いに行ったところ、なんと著者ご自身が店頭で販売員をされていた。
その場で購入し、著者ご本人から手渡しで本書を受け取った。受け取った瞬間の写真も残っている。
著者はサイボウズ社の副社長であり、先日まで取締役としてサイボウズの人事改革を率いてきた方だ。

私はkintoneのエバンジェリストを7年ほど拝命している。また、弊社もサイボウズ社のオフィシャルパートナーとして認定いただいている。
なぜ私がここまでサイボウズ社に肩入れしているかと言うと、何度か別のブログでも書いたとおり、その開かれた社風に惹かれたからだ。
kintoneがまだ産声を上げてすぐの頃のユーザー会で、私の目の前で社員さんと青野社長が目の前でスマホをフリフリし合い、LINEの交換をしていた光景はいまだに記憶に残っている。
副社長が何気なくサイボウズ商店の販売員に化けているのもサイボウズ社のフランクさを表す良い例かもしれない。

それ以来、サイボウズ社は私の期待をはるかに上回る速度で成長し、世の中に意見を申し、人事や働き方など既存の観念を次々と覆してくれている。

サイボウズ社の取り組みは、私にとって救いだった。窮屈で仕方がなかったビジネスの世界に風穴を開けてくれているからだ。
その取り組みは世の中から支持を受けているし、弊社が取り扱うkintoneやCybozu.comの成長を通して、弊社や私自身のビジネスにも恩恵を与えてくれている。

私は今、平日をほぼ私服で過ごし、適当に作業場を転々とし、合間に散歩もはさみつつ、仕事をこなしている。
常駐現場に通っていた頃、毎日終電に間に合うかどうかにキリキリとし、通勤ラッシュの中で顎関節症を患っていたつらさなど過去の話だ。
私が働き方を変えられたのも、サイボウズ社のおかげだと言っても過言ではないと思う。

私が本書を購入した時、今後は弊社でも人を雇わなければ、とおぼろげに考えていた。
今のままではどこかで限界が来る。一人で何でもこなす体制だと、これ以上の成長は見込めない。むしろ、体力や気力や視力の衰えとともに徐々にビジネスを畳んでいくしかないと覚悟していた。
私が人を雇うと決断したのは、本書を読んで約一年後のことだ。
本稿を書いている今、雇用を始めてから五カ月が過ぎようとしている。

体制を作るにあたり、私が心がけてきたこと。それは、私自身が雇われる側で窮屈だったこと、開発現場でしんどい思いをしていた経験を反面教師とすることだ。
そもそも、私が人を雇うと決めた大きな理由は、自分にのしかかる負担を少しでも軽減しようと思ったからだ。だが、人を雇ったことによるマネジメントの職務が新たに負担になったのでは本末が転倒している。

だから、私は統制とは相反する組織を作りたかった。
それには統制と言う名のマネジメントを思い切って捨てること。

本書はタイトルにもあるように「最軽量のマネジメント」を謳っている。
最軽量、つまりマネジメントに重みをかけない。それは、統制の首魁であるマネジメント部門の職務を減らすことに等しい。
人を雇うと決めてから今までに、本書以外にもマネジメントに関する本は何冊も読んだ。
本書やそれらの本に書かれていたが、マネジメントや統制にはキリがない。どこかで限界が来るし、統制されることを嫌う社員はすぐに辞めていく。離職率28%を誇ったサイボウズ社の過去の失敗は私たちに統制の限界を教えてくれる。
弊社のような零細企業にとって、せっかく雇った人が辞めてしまうことはかなりの痛手となる。
私は今、新たに参加したメンバーに毎日コーディングやシステム構築や提案についての技術を教えているが、その労力は並大抵ではない。もし辞められたらその労力は無に帰する。

統制に労力をかけた揚げ句、教育費用も含めて無駄となる愚は避けたい。そのため、弊社は最初から思い切ってマネジメントを捨てた。
求人を出す際、世の中の会社でやっているようなマネジメントはしないと書いた。
その言葉を守り、弊社は世間の会社にありがちな統制はほぼ行っていない。タイムカードもない。リモートワークを原則として動いている。
もちろん、その代わりにSlack、Backlog、Google、kintone、Dropboxをはじめとした各種ツール群を導入した。タスクのスケジュールは週単位で設定し、日単位のタスクまでは統制しない。もちろん、日単位のタスクはニ日に一度は私から状況を尋ねることもあるが、本人が申告してくれるまで原則は催促しない。

そうした統制で縛らないのと引き換えに、それぞれのメンバーには自立の態度で動いてもらわねばならない。
それを促すのに強制であってはならない。そのためにも、内部向けに毎朝Slack上に文を書いている。その中では、どのような会社にしたいか、どのような組織が望ましいかについて、私の思うことや考えを雑談の中に込めているつもりだ。
本書に載っているが、これからあるべき組織とはピラミッド型ではない。私も役割としての代表社員でしかないと思っている。だからメンバーには全員が取締役のような気持ちで、とも伝えている。

経営者としての私が組織を構築する際、本書やその他の本から学んだことは多い。
もちろん今のやり方が正しいかどうかは、やってみなければわからない。だが、サイボウズ社という手本があるのは心強い。そしてその要諦が本書には載っている。

面白いことに、本書で書かれているマネジメントのあり方の一つに、「ホワイト」な職場よりも「透明」な職場とある。
弊社のアクアビットという社名は、私が蒸留酒を好きであることからつけた。だが、この社名には透明でありたいという願いも込めた。
ビットはコンピューター用語であり、それにアクアをつけることで透明なシステム会社でありたいと表明したわけだ。
サイボウズ社は、取締役会の議事録も即座に社員に公開されているそうだ。まさに透明であり公明正大。隠し事がない。「アホはええけどウソはあかん」の標語のもと。
透明でありたい弊社も、サイボウズ社の姿勢を参考にし、先日ついに会社の財務状況もメンバーに開示した。

もちろんそれはメンバーとの信頼関係が醸成出来てきた、と判断したからだ。
そのメンバーとの信頼関係を作るにあたり、著者の取り組みから学ばねば、と思っていたことがある。それはザツダンの力だ。
著者はザツダンを用いて社員の気持ちを把握し、離職率の低下を食い止めたそうだ。それがサイボウズ社の100人100通りの働き方につながっていることは確かだ。

私はまだ人間としても経営者としても未熟だ。そんなことは自分でもわかっている。弊社の財務状況もまだまだぜい弱だ。
そうした弱みも開示し、それでも一緒にやっていこうと伝えたところ、二人とも努力と成長を続けてくれている。
今も週一度は必ず顔を合わせるようにし、ランチのタイミングには雑談に終始している。
私はあまり雑談が得意な方ではない。だが、ザツダンの力は信じている。

それで思いだしたが、いつぞやのサイボウズ社でのイベントでも著者が私の横に座って、さまざまな会話を交わしたことがある。
おそらくその時もザツダンによって私の人となりを把握されたのだろうなと思う。
私が経験したようなザツダンのようなあらゆる社員とのザツダンの繰り返しが、今のサイボウズ社の柔軟な組織を作り上げてきたはずだ。

本書にも載っている通り、カイシャが最終的な組織の完成系とは私も思わない。
そのためにも、私自身も公明正大で透明な組織のありようを模索していきたい。弊社や弊社にかかわる技術者さんにとって理想の集まりとなれるように。

‘2019/12/5-2019/12/5


カテゴリ: 読ん読く.
最終更新日: 5月 29, 2021

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