著者の作品を読むのは「向日葵の咲かない夏」に続けて2作目。妙に心をざわつかせる作風故、積極的に読みふけりたい作家ではないのだが、直木賞受賞作ということから、手にとってみた。

妙に心をざわつかせると書いたのも、著者が少年時代の持つ一種の危うさを巧みに書くゆえに、自分の子供時代の暗部を掴みだされるように思えるから。

本書は特に子供の心の不条理さが、主人公の家庭の不安定さ、満たされぬ環境とあいまって、不気味なほどに、心に刺さる。不条理さゆえに行き場のない、少年の閉ざされた、切羽詰まった心の闇が、ざりがにに対する残酷な行為となって、現れてくる。

その砕け散りそうな切り立った崖のような危うさは、全編を通して一貫しており、この主人公がざりがにだけでなく、何に、誰にどういう風にして暴発してしまうのか、という怖いもの見たさの一点で、ページを繰る手が止まらない。

ホラーやサスペンスで怖がらせる作品は世に色々とあるが、少年の心の闇の深さで、これほどまでに読者を恐れさせ、嫌な気持ちにさせる作品というのはそうそうないのではないか。

大人になった今、少年期の闇を潜り抜け、生きていることが、実はどれだけ危うく、得難い経験であったかと、思わせるのが本書。

’12/03/29-12/03/30


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