武揚伝<上><上>を読んでから、榎本武揚という人物に興味を抱いたわけだけれど、上記リンク先でも書いたように、明治以降の逆賊という汚名の中、いかにして大臣を歴任し、子爵を受爵できるまでにいたったのかについて興味があったところ、こちらの本を見つけたので読んだ。

末裔たる榎本氏や歴史作家として名の知れた方や在野の榎本武揚研究家、最近よく文章を見かける元外交官など、多種多様な人々を集めての座談録や講演録、榎本子爵紹介記事が載っていたりと、万能人という題名にふさわしく様々な分野に活動の足跡を残した榎本武揚についての研究がこの一冊に集大成されているよう。

幕末までの榎本武揚が彼のほんの一面でしかなかったことを知らしめるような、明治以降の活躍もまた、八面六臂の活躍というのかもしれない。政治に外交に技術に科学に公害に隕石に冒険に、と驚くほかはない。明石・福島の両氏よりも先にシベリア横断を成し遂げたり、隕石から短刀を鍛造して皇室に捧げたり、と知らない異能振りがこれでもかと紹介されていく。過小評価とは彼のためにある言葉かもしれないと思わされるほど。

文中でもどのようにして明治政府に登用され、業績を上げていったかが述べられているけど、このようなあらゆる分野から業績を上げていることそのものが、彼がなぜ幕臣の立場で明治政府からかくも重用されたかの証明となっている。

小説である武揚伝とは違ってこちらは学術的な面が強く、しかも業績の紹介に筆が費やされた感があるので、江戸っ子として明治天皇や庶民からも慕われたという彼の人柄や人間性に触れたような記述は少ないけれど、かえってそれが彼の魅力の巨大さを際立たせているように思えた。また、これだけの業績を上げながらも自己宣伝をほとんどせずに生涯を追えていった彼だからこそ、逆にその人間性を伺うことができるというものだ。

私としては技術で国家に貢献するも、人間関係の複雑に絡み合った糸を解きほぐすような政治活動からは一歩引いていたという彼の立場や生き方に、自分の身の立て方を学びたいと思うばかりだ。

’11/11/22-’11/11/24


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