デビュー二作目にして、この世界観の飛躍もさることながら、この筆力の充実ぶりといったら。

発想も大枠自体はそれほど突飛でもないのだけれど、細かい部分での描写や動きが自由な発想で楽しめる。それは終盤で明かされるとあるアイテムの正体や、それぞれの登場人物の役割などに代表される発想の飛躍に代表される。拡げた大風呂敷の空間を精いっぱい使い切っているだけに、設定に無理があると思わせないところがすばらしい。

そして著者が、設定のユニークさだけの作家でないことを見せてくれたのが、本書の剣道のシーン。胸が熱くなる。ここまで臨場感あふれる剣道の試合風景を描いた小説はまだ読んだことがない。飛び散る汗や竹刀の音、刻々と押し寄せる疲労の波。それらを操ってここまで熱く読ませるシーンが描けるからこそ、壮大な世界観と細かなディテールが相乗効果を生み、流れるように奔放に、破綻を全く感じさせることなく作品世界を完結させられるのだということを、思い知らされた。

それにしても鴨川ホルモーといい、本書といい、プリンセス・トヨトミといい、私の読んだ三冊は、どれも地理的な感覚が豊かな人にしか書けない設定になっている。おそらく著者は地図を眺めるのが好きな方ではないかと思う。 

’12/1/26-’12/1/26


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