今年(2015年)は阪神・淡路大震災が起きて20年。1/17には自分自身の記憶を新たにするため、当日の動きやその後の私の対応をブログに書いた。また、春の帰省時には神戸の「人と防災未来センター」にも行き、資料や映像からも当時の記憶を新たにした。

その際、一つ印象に残った展示があった。それは首都圏に地震が起こったらどうなるかを訪問者に想像させる展示だ。首都圏に住んでいれば誰もが場所を想像できる場所のイラストが20~30箇所分、部屋を囲むように貼りつけられている。そのイラストには特徴的な場所の様子に加え、避難民が多数書かれている。地震が起きたと仮定し、その後の想定される動きをイラストにすることで、イメージを喚起させることが狙いなのだろう。

しかし、この展示には一つ問題がある。それは当展示を一番見るべき人が見られないということだ。首都圏に住む人々こそ、この展示を見て、地震に対する備えを行うべき。なのに、首都圏の人々のほとんどはこの展示を知らぬまま、地震に遭うこととなる。そのあたりの想いや訪問の感想は、以下のブログでも書いた。

私は、首都圏直下型地震や東南海地震が私の存命中に起きることはほぼ確実と思っている。その被害がかなりの確率で私の生命を奪いかねないことも覚悟している。とはいえ、それについて具体的な備えをしているかと云えば、ノーである。

本書は、「人と防災未来センター」の協力も一部得ている。地震が「もしも」起きた場合に備えるのではなく、「イツモ」起きることを前提とし、「イツモ」持っておくべき備えや心の持ち方について書かれている。

ただ、いくら備えが大事とはいえ、字面ではなかなかそのメッセージは伝わりづらい。本書は、それを防ぐため、相当量のイラストが付されている。寄藤文平氏によるイラストの数は百点では済まない。本書に収められた情報量は、文章五割、イラスト五割に達しているのではないだろうか。JTの大人たばこ養成講座の公共広告のイラストで知られる寄藤氏のイラストは、親しみやすく、出しゃ張らず、それでいて必要なメッセージを伝えている。

本書には、多数の被災者から寄せられた経験が集められている。地震の際に何が起き、何が必要になるか。その膨大な集合知こそが、本書の肝である。いくら寄藤氏のイラストが多数添えられていたとしても、それが行政からの上から目線のメッセージでは住民の心には届かない。実際に被災し、地震の恐ろしさや不便さを体感した人々によるメッセージこそが、有事の際に我々を救ってくれる。メッセージの有用性は、実際に被災した私自身で良ければいくらでもお墨付きを与えられる。細かい点まで多々挙げられており、私が読んでも新たな気付きが得られるほどだ。

先日、東京都から防災手帳が配布された。その内容は素晴らしく、まさに世界に冠たる地震都市東京の総力が結集されたといっても過言ではない。しかし、その中に含まれていないものがある。それは、本書に書かれている経験や知恵だ。1923年以来、東京に足りていないのは地震の経験である。今度その経験を得られる時は、多くの人々の尊い命が引き換えとなることは確実だろう。その中には私自身も含まれている可能性も高い。

都市型直下地震の備えが書かれた本書は、実はもっと見直され、取り上げられないといけない。そして首都圏の人々にもっと読まれなければいけない。そう思う。

‘2015/04/26-2015/04/26


One thought on “地震イツモノート―阪神・淡路大震災の被災者167人にきいたキモチの防災マニュアル

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