著者の名前は今までも、さまざまなインタビューやネットニュースなどで拝見してきた。著者が経営するソニックガーデン社の取り組み事例として。
著者の登場する記事の多くはCybozu社に絡んでいることが多い。
そういえば、一時期、私と同じくkintoneのエバンジェリストだった方もソニックガーデン社の社員だった。
それもあって著者やソニックガーデン社のことは前から気になっていた。

著者やソニックガーデン社が唱える理念には、共感する部分が多い。
本書の前に著者が出版した『「納品」をなくせばうまくいく』は、私の心を動かした。
情報処理業界で生計を立てるものにとって、納品という営みはついて回る。それをあっさりとやめようと宣言する著者の言葉は、私を驚かせてくれたし、共感もできた。
システム業界にとって納品という商慣習は常識だった。だが、それはもはや非合理な商慣習ではないのか。そう考えていた人はいたかもしれないが、実際に行動に移す会社がどれだけあるだろう。

本書はそんな著者がリモートワークの要諦を語ってくれるというのだ。書店で手に取り、購入した。

弊社はもともと、リモートワークを実施している。
私自身はほぼリモートワークの体制で仕事を行っている。
だから、本書を買わなくてもリモートワークの本質はつかんでいるつもりだ。ではなぜ、本書を購入したのか。
それは、私の役目がプレーヤーから経営者に変わったからだ。

私はリモートワークの全てを自分の中に言葉として血肉にできていない。
それは私がプレーヤーであり続けてきたからだ。だから、私がいくらリモートワークの効能を人に勧めても説得力に欠ける。
だが、そろそろ外部の協力技術者も含めたリモートワークの体制を作ることを考えなければ。

弊社として、今後もリモートワークでいくことは間違いない。
そのため、経営者としてリモートワークを技術者にお願いする必要に駆られるだろう。その時の裏付けを本書に求めた。本書を読み、より一層の論理武装をしたいと思った。

私がやっているリモートワークとはしょせんプレーヤーのリモートワークだ。私自身が築き上げてきた仕事スタイルでしかない。そう自覚していた。
こんごはリモートワークを管理する側としての経験や知見が求められる。
私がやっているリモートワークの管理とは、しょせんはリモートワーカー同士の連絡に過ぎない。リモートチームになりきれていない。
その構築のヒントを本書から得たかった。

本書を読んだ後、弊社は雇用に踏み切った。そこで私は監督者として立ち振る舞うことを求められた。
ところが、私はどうもリモートワークの監督者として未熟だったようだ。期待する生産性には遠く及ばなかった。

それはもちろん本書や著者の責任ではない。私が未熟だったことに尽きる。それを以下でいくつか本文と私の失敗を並列してみたいと思う。

「セルフマネジメントができる人たちで構成されたチームを作り上げることでリモートチームは成立するのであって、その逆ではありません。多くの企業において、リモートワークの導入を妨げているものは、リモートワークそのものではなく、その背景にあるマネジメントの考え方ではないでしょうか。」(118ページ)

セルフマネジメントができるとはつまり、技術力が一定のレベルに達していることが条件だ。技術があることが前提で、それを案件の内容や進捗度合いと見比べながら、適切にマネジメントしなければならない。残念ながら、その技術力の見極めと案件への振り分けにおいて失敗した。これは経営者として致命的なミスだったと思う。

「私たちの会社もROWE(完全結果志向の職場環境)をベースに考えています。私たちがアレンジしているのは、その成果とは個人の成果ではなく、チームの成果であるとする点です。」(136ページ)

弊社も私を中心としたハブ型ではなく、各メンバーが相互に連携する組織を考え、メンバーにもその意向を伝えていたつもりだった。だが、どうしてもハブ型の状況を抜け出せなかった。
残念ながらメンバーが一定程度の技術に達していないとこのやり方は難しいかもしれない。お互いが教え合えないからだ。いくつかの案件では成功もしかけたのだが。
もう一度チャレンジしたいと思う。

「監視されなければサボる人たち、監視されないと安心しない人たち、そんな人たちでチームを組んだところで、リモートチームは実現することはできませんし、そもそもそんな人たちがオフィスに集まったとしても、大した成果を上げることなどできないのではないでしょうか。」(173ページ)

これも完全に書かれている通りだ。ただ、私としては実際は働き具合がどうだったのか、今となっては確かめる術もないし、そのつもりもない。結果が全てだからだ。

「オンラインでは物理的な近さも遠さもないので、フラットに誰とでも絡むことができるからです。」(206ページ)

私が間違えたことの一つが、本書の中でも紹介されているRemottyのようなお互いの顔が見られるツールを導入しなかったことだ。それによって例えば雑談がオンライン上で産まれることもなかったし、日記や日報を書いて見せ合う環境も作りきれなかった。

「新人のリモートワークは“NG”」(177ページ)

外部の人に弊社の失敗事例を告げた時、真っ先に指摘されるのはこのことだろう。私がしでかした間違いの中でもわかりやすい失敗がこれだ。いきなりリモートワークで走り出してしまった。

私がしでかした失敗によって、本稿をアップする一週間前に一人のメンバーを手離してしまった。お互いが持つ大切にしたい考えやスキルのずれなど、もう少しケアできることがあったのに。とても反省している。

弊社の救いはまだメンバーが残っていることだ。もう一度このメンバーでリモートワークの関係を作っていきたいと思う。
私を含めた弊社のメンバーにリモートワークが時期尚早だったのは確かだ。ただ、まがりなりにも一年近くはリモートワークの体制を続けてこられた。なんといってもCybozu Days 2021は、弊社と弊社に近しいメンバーだけで無事に出展できたのだから。
今後も週二回程度はリアルの場を作りながら、もう一度リモートワークの環境を作っていきたいと思う。

なお、本書に書かれている社長ラジオは、毎朝のスラックでのブログアップとして続けている。これは私の考えを浸透させる意味では貢献してくれているはずだ。そう信じている。
本書に書かれていることで役に立つことは多い。

‘2020/05/29-2020/05/31


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