10年ほど前は著者の本をよく読んでいた。ところがなぜかぱったりと読まなくなってしまった。現代風俗に著作の方向が変わったように思えたからか。それとも経済的な方向に関心が向き始めたのを嫌ったからか。5年ほど前に「半島を出でよ」を読んで、面白かった気がするのだが、どうもこの数年もなかなか手に取る機会がないままに過ぎてしまった。

この本を読み終え、私がすごい小説を読み逃していたことを知り、忸怩たる思いだ。経済の方面へ関心を深める氏の方向性が間違っていなかったことを思い知らさせれるとともに、まだサラリーマンに甘んじていた10年前の私の未熟さをも突きつけられた感じ。

先日、ガラパゴス化する日本を読んだ。その中では閉塞化した日本の未来図が描かれていたけれど、2001年に出版されたこの本では、その状況をかなりの確度で小説として再現してくれている。

ぬるま湯の日本を出てゲリラに身を投じる中学生の出現をきっかけに、日本の中学生たちが日本という国に牙をむき、日本という国そのものの存在意義にすら刃を向ける。そんな内容なのだが、経済に関心のある氏にしか書けないようなディテールの連続は、ちょっとした可能性のずれや時間軸の揺れによって、今の現実の日本が陥っていたかもしれない状況をつぶさに描いていて、他人事でない思いだ。とくに物語の舞台が私の自宅から程遠くない場所で設定されているだけになおさら。

物語終盤では中学生たちが日本国内の某所に実質上の自治領を作り上げてしまうのだけれど、そこで描かれる施策がはたして今の日本人に出来うるのか。私も含めて日本人がどのような国家を作り上げていきたいのかを、既に10年前に世に問うていた作家がいたことを、どれだけの人がしっているか。今改めて読み直されてもいい本だと思う。

’11/11/25-’11/11/25


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