3,4年前になろうか、フラのレッスンを受ける妻子を新横浜まで送迎したことがある。レッスンの間、何をしようかと思案したあげく、近くの小机城址を散策することにした。

横浜国際競技場を横断し、小机駅から線路沿いに北上することしばらく。線路沿いの小高い丘に小机城址はあった。小机城の沿革について、特別な知識は持って散策した訳ではない。けれども、それなりに楽しんで散策を行えた。建造物は残っていなかったが、堀や郭など、城の遺構がそれなりに残っており、歴史の世界に浸ることができたためであろうか。

以来、中世・戦国期の横浜近辺の城にはなんとなく興味を持っていた。そんなところに、横浜のセンター北の書店で見かけたのが本書である。ぱらぱらとめくってみたところ、小机城についての記載がかなりあり、購入した。

歴史・時代小説は、話の筋を面白くするための工夫がなされている。例えば、作家による脚色や筆致などである。歴史家にとってみれば言語道断な脚色がされていることも往々にして見られるが、読者にとっては読みやすい。

だが、本書はそういった読みやすさにはかなり乏しい。著者は歴史家であり、内容の面白さよりも古文書などの文献から導き出される史実を重視する立場の方である。なので、どうしても史実の羅列が続く。物語を読む喜びとは真反対の方向にあるのは仕方のないのかもしれない。私にとっても本書は面白く読み進められたとは言い難い。

では、本書の内容は取るに足りないものなのか。いや、そんなことはない。本書は、横浜の歴史に興味を持つ人のためのものである。昔の横浜がどういう地勢で、どういう勢力が領土を争い、どんな戦いが繰り広げられたのか。本書ではそれらの史実を古文書を多数紹介することで、横浜の歴史に興味を持つ読者の想像力の手助けを行う。物語を読む喜びはなくとも、史実を辿る喜びが本書にはある。

本書は小机城だけでなく、現横浜市域や一部大田区や川崎、鎌倉や横須賀といった各地域が頻繁に出てくる。章としても、小机城以外にも蒔田城や神奈川湊、玉縄城といった中世・横浜の歴史を辿っている。登場人物の殆どは、後北条氏かその配下、または対抗勢力の人物である。または関東管領の上杉氏やその配下である太田氏に関する人物である。横浜の中世・戦国を駆け抜けた人物が許される限りに紹介されている。

小机城も太田道灌、山内上杉氏といった勢力争いの舞台となり、後北条氏の支配から、小田原合戦の後は廃城となった。そんな歴史の荒波に洗われた変遷も本書から学ぶことができる。私が小机城を探検した際に思い描いた想像が、本書によって裏付けられるのである。本書のような書物を読むときの喜びはここにある。

今も横浜に点在する古刹の保管する文書からは、本書で紹介される古文書が多数発掘される。一見何の変哲もなさそうな古刹にも、歴史とからめることで、より興味深い対象となりそうである。本書からは改めてそのような事も学ばせてもらった。

’14/2/27-’14/3/5


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