マンホールの写真を撮りためている。地方を旅したり出張することの多い私。訪問先で地面にファインダーを向け、その地域ならではのマンホールを撮っている。

とはいえ、まだ軽い趣味なのでマンホールのために旅行するまでには至っていない。けれども、旅先で見慣れぬ意匠のマンホールを見かけるとテンションも上がるし、それがレアなカラーマンホールならその後の旅路も足取りが軽くなる。

私がマンホールに興味を持ったきっかけは覚えている。寒川神社から茅ヶ崎まで自転車で走った時だ。寒川神社の駐車場に車を停め、そこから茅ヶ崎のいつもお世話になるジーンズショップに注文していたジーンズを取りに行った。相模線に沿って自転車を漕ぎながら、ふと、足元にあるマンホールに目をやった。すると普段、見慣れた町田市や東京都、相模原市のような丸をベースとしたデザインではなく、一つの絵画のようなデザインのマンホールが敷かれていた。それは茅ヶ崎市のマンホールだった。よく見ると数種類あり、それぞれに雨水汚水の表示もある。用途によってデザインも変わっているようだ。そこに興味を惹かれ、写真を撮ったのが始まりだった。

車で行動するとマンホールの魅力に気付きにくい。また、仕事や日常の暮らしの中では、同じ場所の往復に終始しがち。なので、地域色が豊かなマンホールの特色にはますます気づきにくい。私のきっかけも、いつもと違う場所を自転車で走ったことだった。著者も各地のマンホールを撮りためる際、自転車で各地を走っているそうだ。

ウェブを巡ってみると、マンホール愛好家は結構多いらしい。著者はその界隈では有名な方のようだ。有名というだけのことはあり、本書には全国のかなりの地域のマンホールが載っている。

本書はマンホールの意匠ごとにテーマで分けている。テーマごとに各地のマンホールを写真付きで紹介することで、マンホールの魅力を紹介するのが本書の構成だ。ただ漫然とマンホールを紹介するのではなく、意匠に沿ったテーマでマンホールを語っている事が重要だ。

本書は以下の章に分けられている。
1 県庁所在地を訪ねて
2 富士山と山々
3 富岡製糸場と歴史的建造物
4 いつでも見られる日本の祭りや郷土芸能
5 各地の伝統工芸・地場産業
6 地方ならではの特産物
7 地元のスポーツ自慢
8 楽しいのはデザインマンホールだけじゃない

このように、テーマごとに分けることで、読者は各地のバラエティに富んだマンホールの魅力を手軽に鑑賞できる。

私がマンホールに惹かれるのは、意匠がその土地の意外な名物を教えてくれるからだ。普通、土地の名物とは山、川、神社仏閣、スポーツや食べ物などのことを指す。そうした名物は形があり、通年で見ることができる。だからマンホールでアピールするまでもない。だが、無形の祭りや郷土芸能は、特定の時期、場所でしか体験できない。その土地を訪れるだけでは、無形の名物には気づかないものだ。伝統工芸や地場産業もそう。

私は旅先では駅や観光案内所には必ず訪れる。だが、それでもその地に伝わる有形無形のシンボルに気づかないことが往々にしてある。マンホールは、そうした存在を教えてくれるのだ。しかも、それを街中のいたるところで、至近距離で教えてくれる。間近に、頻繁に目に触れられるもの。考えてみるとマンホールの他にそういうものはあまりない。マンホールをデザイン化し、地域ごとに特色を打ち出そうとした発案者の着眼点はすごいと言える。本書には合間にコラムも挟まれているが、その中の一つが「デザインマンホールの仕掛人」として、昭和60年代の建設省公共下水道課建設専門官が提唱したことが始まりと記されている。

その他のコラムは
「マンホールの蓋はなぜ丸い?」
「蓋の模様はなんのため?」
「最古のマンホールの蓋は?」
となっている。どれも基本であるが押さえておくべき知識だ。また、本書の第8章は、蓋に刻まれた市章や町章についての紹介だ。デザインマンホールではなくとも、たいていのマンホールには市章、町章が刻まれている。そこに着目し、デザインの面白さをたのしむのもいい。

著者は東京都下水道局に37年間、定年まで奉職し、主に下水道の水質検査や開発に携わってきたそうだ。著者紹介によると、今までに撮ったマンホールの写真は4000枚にもなるのだとか。はじめにでは、マンホールに惹かれたきっかけが伊勢市のマンホールをみた時であり、定年退職後に各地を折りたたみ自転車で巡ってマンホールの写真を撮っていることなどが書かれていた。

わたしも撮りためたマンホールは多分数百枚、新旧市町村単位で150くらいにはなったと思う。私はまだ現役で仕事をしているので、著書ほどの域に達することはできない。だが、私なりのペースで各地のマンホールを巡ってみようと思う。

なお、本書に載っていないネタとして、各地のマンホールを一堂に見られる場所を知っている。それは、河口湖畔だ。道の駅かつやまの周辺の道には、全国各地のマンホールが敷かれている。どういう理由でなのかは分からない。マンホール趣味の興を削ぐとして、顔をしかめる愛好者もいることだろう。私もそうだった。あと、千代田区麹町のセブンアンドアイホールディングスの本社ビルのそばに、なぜか行田市のマンホールが敷かれている。こういうあってはならない場所に敷かれているマンホールを探すと面白いかもしれない。

あとは、本書では触れられていないが、下水道広報プラットフォームがここ数年で出し始めたマンホールカードは外せないだろう。私も今までに八枚ほど集めた。これもマンホールの魅力を知らしめる意味でも面白い試みだと思う。

デザインマンホールのような試みはもっと広がるべきだ。私が他に思いつけるのは、信号のたもとにある制御盤ぐらいだろうか。制御盤にローカル色溢れる意匠が施されると面白いと思う。もっとも、そうなると私の人生はますます時間が足りなくなるのだが。

‘2018/07/08-2018/07/08


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