2月から忙しくなったため、今年の目標の一つとして掲げていた「読んだ本全てのレビューを記す」が早くも頓挫しそうなことに、忸怩たる思いを抱いている。遅きに失した感もあるが久々にレビューをアップしてみる。

本書はFacebookで仕事上お世話になっている方からのお勧めであり、私の乏しい読書体験の中でも著者の作品はエッセイ以外では初体験である。

本書は昭和30年代から40年代を舞台として、青年の成熟していく様を、所有する車の変遷に合わせて書くスタイルを採っている。主人公は章ごとに移り変わる車であるともいえるが、青年を通して著者の視点が切り取った当時の日本の世相であるともいえる。

というのも、青年の仕事上の地位や内容の移り替わりが、一見繁栄を謳歌しつつあるように見えても内に矛盾や葛藤を抱えこんだ当時の我が国に思えたからである。

章ごとに青年が所有する車が何を象徴としているのかは、車に疎い私には分からない。だが、青年の人生に現れては消えてゆく車やヒロインとのドラマは、著者にとって戦後の日本とその中で小説家として身を立てつつある自身を象徴していたのではないだろうかと思う。

章ごとに入れ替わる車やヒロインとの出来事は、華やかな世界の出来事として描かれているように一見思えるが、乾いた筆致で統一されており、たとえば結婚生活のような日常感の描写が一切省かれている。

最近は仏教系の著作が目立つ著者だが、この時すでに、○○景気だ高度経済成長だと浮かれる自国を、無常の境地で醒めた目でリアルタイムに描いたのが本書ではなかったか。

’12/2/4-’12/2/5


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