この夏に手掛けさせて頂きました、お客様のサーバー移設に関するケースを紹介します。

サーバー移設といっても単純でありません。今回はむしろ特殊なケースといってもよいでしょう。以下に移設前の状況を記してみたいと思います。

1.お客様は独自ドメインを持たれていました。(仮に****.co.jpとします。)
2.Webサーバーのホスティング先はアメリカのbluehost社。
3.独自ドメインのレジストラは日本のファーストサーバ社が提供する『Doレジ』をご使用されていました。
4.お客様の全メールアカウント(****.co.jp)の送受信は、Gmail上で一切を完結。
5.Gmailでの送受信を実現するために、Google Apps for workを御利用し、しかもサービス開始時のGoogle Apps(無償版)を御利用されていました。
6.上記5つの設定時期や経緯が、当時のご担当者様との連絡もつかず、全く不明でした。
簡単にサーバー・サービスの配置図を書くとこのような感じでしょうか。
移行前

現状を変えるための今回のミッションは、以下の通りです。
1.これらの構成をすっきりさせ、お客様および弊社にて構成を把握できるようにする。
2.英語サポートのため運用に支障を来していたbluehostを解約し、日本のホスティング会社に移設する。
3.Google Appsの環境はそのままに、ホスティング会社が変わっても引き続きGmail上で独自ドメインのアカウントを送受信可能にする。
4.可能ならばドメインのレジストラとホスティングサービスを同一の事業者にまとめる。
上記4項目を簡潔にまとめるとこのような図となります。
移行後

本件を私が手掛けるにあたり、かなり事前調査に時間を掛けました。移行それ自体のオペレーションよりも、9割5分は事前調査に費やしたともいえます。

今回の移行作業の中でも一番のかなめは、Gmail上での****.co.jpメールの送受信が可能な状態で移行することでした。そもそも、お客様がお使いの環境であるGoogle Apps(無償版)の申し込みは2012年の12月で締め切られており、もはや同一の環境を構築することができません。そのため、現在使用できるGoogle Apps for Worksの環境が、Google Apps(無償版)と同一かどうかの検証から入らねばなりませんでした。

お客様の業務上、仕入先や得意先とのご連絡はメールが主でした。日々の受発注、発送、仕入メールは日々の営業にとり重要な連絡ツールとなります。万が一にも移設の結果、メール送受信ができなくなると日常業務に重大な影響があります。

どうやって移行に際してのメールトラブルや、移行の継ぎ目を意識せずにメールの送受信をご利用頂くか。そこに焦点をあてて移行先のホスティングサービスを探しました。

私が今回、移行先として提案したのがWADAXでした。弊社がもともとWADAXの代理店として活動していたこともあります。それ以外にも、MXレコードが設定可能で、ドメインのレジストラもサービス内で可能なことも、今回の移行に際しては適していました。もちろん肝心なWebサーバーの仕様やMailサーバーの仕様も加味し、お客様からもご了承を頂き、WADAXサーバーへの移転が決定となりました。

Gmailで送受信を行うには、お客様のメールアカウントに紐付くドメインとGmailのメールサーバーを仲介する必要があります。それにはMXレコードと呼ばれるレコードをWADAXサーバーに設定しなければなりません。世界中のDNSサーバーを経由してWADAXに受信されるメールパケットデータを、Gmailサーバー側へ転送させることができます。送信の場合もまた同じです。

元々、bluehostにもMXレコードが設定されていました。ただし、私自身にとってbluehostを触るのは実は初めてでした。ユーザーインタフェースは当然英語です。まず、MXレコードがbluehostサーバーのどこに設定されているか、それを調査するところからはじめました。以下に、bluehostの設定画面を並べてみました。

bluehostのトップページからログインします。右上にloginメニューがありますが、そこから入ります。Bluehost0

この辺りはMail設定やWebサイト作成のアイコンが並んでいます。Bluehost1

各種スクリプトのパッケージであるmojo marketplaceの設定アイコン、ファイル管理、ドメイン管理の各種アイコンが並びます。Bluehost2

各種の高度なWebサーバー設定、管理ツールや広告ツールのツール群が充実しています。Bluehost3

状態確認用ツール、セキュリティ関連ツール、データベース関連ツールのが累々と用意されています。Bluehost4

サーバーソフトウェア、設定参照資料などのアイコンも怠りなくあります。Bluehost5

さらに高度な管理ツールも付属しています。Bluehost6

最後にパートナー企業によるツールがくっついています。
Bluehost7

この膨大なアイコン群を全て調査し、その中で今回の移設に関する重要なMXレコードを設定するのがこちらのDNS Zone Editorです。
Bluehost8

DNS Zone Editorに入ると、ドメインの設定画面です。DNSの基本設定の追加はこのあたりの部品から行います。Bluehost9

続いてA(Host)レコードの設定情報です。Bluehost10

続いてCNAME(Alias)レコードの設定情報です。Bluehost11

今回の移設作業の肝である、MXレコードの設定情報が続きます。Bluehost12

TXT(Text)レコードの設定情報、さらにSRV(Service)レコード、AAAA(IPv6)レコードの設定情報で終わりです。
Bluehost13

上記の設定情報を見る限り、bluehost上での設定情報は一画面にすべてのサービスのアイコンがまとまっており、見やすいといえます。とはいえ、図に挙げたような膨大なサービスが利用可能なbluehostですから、どのアイコンに隠れ設定がないとも限りません。前回お客様の情報をbluehostに登録した担当者と連絡が取れず経緯が不明な以上、どのような落とし穴が潜んでいるか分からないのですから。なので、片っぱしから設定を確認していきました。余談ですがここ最近bluehostの広告を日本でも見るようになりました。bluehostの価格と仕様のコストパフォーマンスは、半端なく優れていると思います。英語一色のユーザーインターフェースに抵抗が無ければ、検討されてみても良いと思います。

さて、bluehostの状態を調査する一方で、GmailやGoogle Appsの設定も確認しなければなりません。両サービスから何かしらの参照をbluehost側に向けて飛ばしている場合、それらをWADAXを参照するよう切り替えなければなりません。そういった移転前の設定を注意深く確認する必要がありました。

こちらはGoogle Appsのユーザー設定画面です。こちらにユーザーを追加することでGmailでのやり取りが可能となります。googleApps_mask

ユーザーごとのGmailの設定画面です。メニューの右から5つ目にメール転送とPOP/IMAPという項目がありますが、これは今回は変更をせずにすみました。なぜならこれはGmailに届いたメールを転送するための設定だからです。別のサーバーに届いたメールパケットをGmailに転送するための設定とは関係ありません。gメール

最後のお客様のメーラーの設定画面です。こちらも単にGmail送受信のための通常通りの設定で問題ありません。また、ブラウザ上でも無論Webメールとして送受信可能です。outlook設定

これらを見る限り、通常の設定と何ら変わりはありません。MXレコードの設定だけで済ませられそうな感じです。しかし、ここでお客様からの指摘があります。MXレコードはDoレジのサーバー上で設定したような気がする、と。

冒頭の移設前の構成図にも書きましたが、Doレジは移設前の構成ではレジストラとして設定されていました。ところがMXレコードがbluehostではなくDoレジに設定されているとなると、話は変わってきます。Doレジ上の設定も事前に確認した限りでは、問題なかったのですが・・・そこで全てを再確認し、Doレジのご担当者様にも伺ってみました。

Doレジの設定画面です。お客様のドメインは****.co.jpのみを御利用だったので、図の様に属性型・地域型JPの設定画面で設定を行います。Doレジ1

DNS設定のリンクから、****.co.jpのDNS設定を押すと、ネームサーバーのホストが記載されているだけでした。これはWhoisなどのドメイン検索の画面に出てくるネームサーバー情報のための情報としてしか使われていません。このネームサーバーへ転送するといった機能はDoレジでは持っていません。Doレジ2

設定・その他の登録も確認したのですが、特にこれといった設定はされていませんでした。Doレジ3

Doレジご担当者様やマニュアルでも、MXレコードが設定されている際は、画面左メニューのDNSサービスに何かしらの登録がされているはずですが、ここには何も登録されていませんでした。つまりDoレジはあくまでレジストラとしてのみ使用されており、MXレコードの転送設定の機能は持たせていませんでした。Doレジ4

上記に記載の設定情報を見る限り、MXレコードの設定がDoレジ上にはないことをDoレジのご担当者様に確認した上で、お客様にも改めてご説明しました。

あとはWADAX上にスムーズにMXレコードを設定することが出来れば、円滑に移行できる見込みが立ちます。私が今回推薦したWADAXですが、元々代理店としてもサーバー自体の安定性については特に心配していませんでした。嬉しいことに今回は、WADAXのサポート体制の優秀さについて認識を新たにしました。検討の時期からWADAXサポートセンターには、MXレコードやgoogle Appsとの連携について、幾度も質問しました。それに対し、毎回きちんとした回答を返していただきました。しかも複数のご担当者6~7人から首尾一貫した対応があったのはお見事。これはサポートセンター内部での情報連携が出来ていることを意味します。

今回の移設に関して私が出した移設プランに対し、お客様も当初は一抹の不安をお持ちの様でした。しかし、Doレジ、WADAXとのやりとり全てを提示し、bluehostの設定情報などの調査結果などをご説明すると、最終的にご納得とご了承を頂きました。最初に頂いたお話から始まり、今回の移設に関するメールは計92通。この中にはWADAXご担当者様の丁寧なメールも多数含まれています。

しかも今回、MXレコードのWADAX側への設定オペレーションは、私が行った訳ではありません。WADAXは事前にサーバーへの設定情報を依頼することが可能です。WADAXご担当者様よりそのようなご提案を頂き、私から設定依頼を出させて頂きました。

あと確認すべきなのは・・・・MXレコードの他にまだありました。A(HOST)レコードと、CNAME(Alias)レコード、さらにはTXT(Text)レコードに、SRV(Service)レコード、AAAA(IPv6 Host)レコードです。これらのレコードのうち、SRVとAAAAはお客様のサーバー要件から不要と判断できました。残りの3つは実際にbluehost上でも設定があり、これをWADAX側でも実装する必要があるかどうか、判断しなければなりません。
Bluehost13
Bluehost11

ここで改めて補足しておくと、CNAME(Alias)レコードとは単一のホスト名を読みかえるためのレコードです。指しているのは同一のサーバーであっても、サービスごとに名称を使い分ける場合に使います。また、A(Host)レコードはIPアドレスとサーバーのホスト名を対応させるためのものです。TXT(Text)レコードはサーバーへの追加テキスト情報となります。(とはいえ、私はDNSサーバーだけはあまり深い設定を行ったことがなく、もし違っていたらすみません)

さて、bluehostの情報を見ると、TXT(Text)レコードがやっかいな感じです。spfという文字が見えますが、これはサーバーからメールを送信する際に、確かな送信元(スパムメールは送信しない)を保証するための設定となります。またドメインの範囲を指定するためのdomeinkeyレコードも見えます。これらがWADAX側ではどのように設定すればよいのかがわからず、一番の不安点でした。幾度かこの点についてはWADAXご担当者様に問い合わせました。

結果、WADAX側ではホスト情報の事前移管を行った際に、A(HOST)レコードと、CNAME(Alias)レコード、さらにはTXT(Text)レコードを設定頂けることがわかりました。また、他のお客様でのGoogle Appsとの連携事例もWADAXでは運用事例としてお持ちとのことでした。なので、私も安心してMXレコードのみの設定を依頼することができました。

ここまでが準備段階でした。あとはお客様によるWADAXへのお申込みです。この際にレジストラをWADAXに移管する際は、ホスティングと同時に行わねばならないと指定がありました。なので、ホスティングからしばらくしてDoレジからレジストラをWADAXに移管する確認がDoレジから来ました。Doレジの今までのご尽力に感謝しつつ、お客様にその手続きも行って頂きました。残るはWebサーバーのbluehostからの抜き出しと、WADAXへの流し込みです。こちらもbluehostからの抜きだし作業にちょっとした制約事項がありましたが、なんとかクリアし、私のほうで全て完了しました。

ここまでできた時点で、最終的にAレコードやCNAMEレコード、TXTレコードの設定がWADAX側で自動的に設定されることと、MXレコードの設定依頼をWADAXにお願いし、設定完了となったところで、最終的にDNSの切り替え作業を私のところで行い、無事作業が終了しました。

WADAX設定画面です。WADAX1
WADAX2

若干新旧サーバーのDNS浸透タイミングが違ったことと、ブラウザのキャッシュで表示に食い違いが出たものの、それもすぐに解消。無事移設が完了となりました。丁度終戦記念日の前日のことでした。

お客様をはじめ、Doレジ様、ご担当者様、bluehost様、そしてWADAX様、ご担当者様にはご尽力頂きましてありがとうございました。

あと一つだけ残務処理があることはあるのですが、今のところ移管して1ヶ月は何事も起きていないとのこと。

本稿は私のφ(..)メモとして書きましたが、どなたかにとって事例として参考になるとありがたいです。なお、本稿はお客様を特定する情報は全て抹消の上、お客様の御許可を頂いたうえで掲載しております。


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