ISISの残虐な所業から時間が経ち、議論が百出しています。 後藤さんの行動に対する失礼極まりない誹謗中傷から、ジャーナリズムの有り方についての意見まで。安部首相の行動から、外交の問題や自己責任論に踏み込む意見まで。
読むに耐えない意見も多い中、参考になる意見や、唸らされる卓見にも出会いました。でも、皆さんの議論にあまり出てこなかった観点があります。
それはエネルギー、資源からの観点です。
ISISは国際社会では無視されているとはいえ、国を名乗っています。国を名乗る以上、内部で経済が機能しているはずです。彼らの外貨獲得の手段として産油があります。しかし昨年、産油施設が奪回されました。そして産油施設をISISから奪回する試みは今も続き、効果を上げているとのことです。記事
産油施設を失ったことで経済的に困窮したISISが誘拐ビジネスを再び活発化させ、その刃が湯川さん後藤さんに及んだという憶測も成り立ちます。
また、お二人の殺害は、安部首相の中東での演説がトリガーとなったとの批判を目にします。1月16日からの安部首相によるエジプト、ヨルダン、イスラエル、パレスチナ自治政府への歴訪の目的は何だったのでしょうか。私は、産油国との関係強化を目指したものではなかったかと思っています。歴訪国は主要な産油国ではありません。また、演説でも石油について言及した訳でもありません。それでも、中東各国と日本のパイプを深め、産油国との関係強化に結び付ける。そのような目的があったのではないかと思います。演説の中でISISと戦う諸国へ資金を提供する意思を示したのも、中東での日本の存在感を明らかにするため、旗幟を鮮明にする意図があったのではないでしょうか。
先の東日本大震災で、我が国の原子力発電は致命的なダメージを蒙りました。もはや原発推進派の挽回の努力は実ることはないでしょう。そのぐらい、深刻なダメージでした。その一方、地震直後に計画停電が実施された際は節電の機運が高まりましたが、それもいつしか喉元を過ぎ、街中では煌々と明かりが照っています。そして日本の燃料輸入費は高騰を続け、ただでさえ赤字の日本経済に大きな影響を与えています。記事
依然として原子力・火力に変わる大規模な効率的な発電方法の実用化の目途は立っていません。次世代の有力なエネルギー源として脚光を浴びたシェールガスも年初にアメリカの大手企業が倒産(記事)するなど安定しません。そのような現状を考えると、我が国としては中東との関係を太くせねばなりません。安部首相の中東歴訪と演説にはこのような意図が込められていたのではないかと思います。そしてISISとの関係もエネルギー資源の状況によって揺れ動きます。資源貧国である我が国にとって、中東の国家との関係はいまや無視できないものとなっています。
中東との関係に関して、政治や外交、貿易の現場を知らない我々が出来ることはあまりありません。しかし2つほど挙げることはできます。1つ目は中東諸国の文化を理解することです。先日、イスラム教に対する理解を深めなければという意見を書きました。2つ目は、エネルギー依存を抑えるために、東日本大震災直後のように一過性のものでなく、長期的な節電の意識を高めることです。日本の夜は明るすぎます。街中の煌めく明りを何とかするだけで、我々が国に対して貢献できることは多いのではないかと思います。もうちょっと光量を抑えてもなんとかなる。そのことを東日本大震災後の日々で学んだはずです。今の街を照らす光は明らかに過剰です。
安部首相の行動を批判する前に、ISISに対して批難を行う前に、後藤さんのご遺族に対して中傷を加える前に、こういった少しの努力が必要ではないかと思いました。もちろんそれはITで生活の糧を得る私自身にも言えることです。