府中という町が気に入っている。

 この2ヶ月間、通勤先として日々訪れているからだけでなく、前々職の会社が酒販店を府中に出店していて、よく訪れていたこともある。また、上京するきっかけとなった東京旅行で、町田の次に訪れたのが府中競馬場だったという第一印象もあるのかもしれない。

 だが、私にとって府中が気になる理由は、私の故郷である西宮に似た空気を感じるからではないだろうか。そこで指の動くままに府中のことについて綴ってみる。

 競馬場の町である
 いうまでもなく東西の競馬場の筆頭に上げられるのが、府中競馬場と阪神競馬場である。後者は正確には宝塚市だが、西宮市境に位置するので、私の中では西宮市の財産である。もともと鳴尾競馬場もあったしね。最近の競馬場は健全さと猥雑さが入り混じった独特な雰囲気があり、府中と西宮は私の俗な部分を刺激する。

 門前町である
 西宮といえばその名が示すとおり、神社である。本家の広田神社より有名になってしまったが西宮戎神社。町田市民として8年が過ぎたが、毎年の初詣は続けている。府中はといえば、大国魂神社とけやき並木である。門前の雰囲気は少々異なっているが、ともに門前町としての伝統と落ち着きがあり、府中と西宮は私を聖なる道に誘う。

 酒の町である
 1年ほど前にサントリーの武蔵野ビール工場見学に行ったのだが、ここの水、はるばる丹沢・富士山系から流れてきた地下水なのだとか。美味かった。
 西宮といえばなんといっても宮水である。灘五郷のうち二郷を擁する町であり、立ち並ぶ酒蔵は、私にとっての故郷の象徴でもある。少々近代化されすぎたきらいがあるとはいえ、未だにふらりと酒工場見学に立ち寄ったりする。そして西宮の酒は日本酒だけではない。アサヒビールの工場もあるし、今は作っていないとはいえ、かつてはニッカウィスキーのグレーンモルトをも蒸留していた。私にとって酒はなくてはならないものであり、その2つを抱える町というだけで府中と西宮は私にとって特別な街なのである。

 スポーツの町である。
 上京した私がよくネタにするのが、実家から甲子園球場の場内アナウンスや声援が聞こえたということ。いまや野球だけではなくダンスや俳句、パソコンからファッションに至るまで高校生にとってのオリンピックの如きキーワードとなった甲子園。かたや府中には東芝府中というラグビーの名門があり、私の職場から歩いてすぐのところにある東芝府中のラグビーグラウンドはそれは立派なものである。やるのも見るのも好きなスポーツの名門チームを抱える街府中と西宮。私にとっての聖地である。

 お墓の町である。
 府中の多磨霊園はわかるが、西宮にもお墓? そう、あるんです。満地谷墓地が。火垂るの墓の舞台にもなりました。私もかつて友人の立場でお骨拾いまで参加させてもらった想い出の場所です。多磨霊園にはまだ入ったことはありませんが、一度は訪れてみたい場所です。安らげるだけの静けさと広がり。府中と西宮はそんな空間までも抱え込めるのです。

 川の町である。
 私の実家から歩いて5分のところに流れるのは武庫川。私が交通事故で2週間入院したのも武庫川の土手を走る車と喧嘩したからです。一方府中には多摩川です。正直多摩川とはまだあまりお近づきになっていないのですが、しょっちゅうお姿を拝見させてもらっています。生物流転の様を感じさせてくれる府中と西宮。私にとってのガンジス川である。

 山の町である。
 まだネタがつきないからすごい。西宮といえば市内各所から見える六甲山系の偉容と、麓にそびえる甲山である。休日の度に六甲に登っていたのが懐かしい。さて、府中にも山? そう、あるんです。浅間山。鬼押し出しのほうではなく、「せんげんやま」と呼ぶ。上にも書いた酒販店がまさにこの山の近くでした。山椒は小粒でもピリリと辛い。そんな一服の刺激が楽しめるのが府中と西宮なのです。

 廃線跡の町である。
 府中本町から帰るときなど、国鉄下河原線の廃線跡の道を通って帰ることがある。府中の余裕を示す一例としても興味深い廃線跡である。標識や線路が20数年の時をへて残っているからすごい。一方西宮には、阪神武庫川線の廃線跡がある。今は住宅地になってしまったが、私が子供の頃には武庫大橋の駅ホーム廃墟がだらーんと残っていて、よく蝉取りにいったものです。また今夏にも歩いたが、国鉄福知山線の廃線跡もいい味を出していて、うちの妻がまた行きたいとのこと。ノスタルジーに浸ることができる府中と西宮なのです。

 他にも公園があり、寺院があり、街道や高札場があり、縦横の交通網があり、美術館があり、高速道路が通り、中規模のプールがあり、競輪や競艇もあり。。。と共通点がまだまだ出てきそうである。決定的に違うのは海の有る無しと文教都市のしての充実度か。海や埋立地や多数の大學までも持っている西宮の奥は深い。とはいっても府中には三億円事件で有名な刑務所や私も二度訪れた府中免許更新所があるから侮れない。

 さて、こんな府中だが、その市庁舎、かなり質素な佇まいである。
 私の住んでいる町田にはほとんど触れずに府中のことばかり書いたのにも訳があって、町田では市庁舎立替の話がかなり進んでいる。町田には町田の魅力があることを承知であえて言わせてもらうと、市庁舎に金を使う余裕があれば、もっと他にすることがあるんでねぇの、と思うのである。町田に八年も住んでいながら、他の町の自慢をするというのも変な話である。府中と同じでなくてもいいから、もうちょっと新規住民の呼び込みだけではなくて、昔からの住民を大事にしてよ、といいたい。

 遠藤周作や白洲次郎など、阪神間と町田の両方にゆかりのある有名人がいるのに、阪神間と府中の両方にゆかりの有る人は知らないだけになおさら。


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