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世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法


メールが世の中にとって欠かせないツールとなって、早くも20数年が過ぎた。
だが、今やメールは時代遅れの連絡手段となりつつある。
メールを使う事が生産性を阻害する。そうした逆説さえ常識となりつつある。
わが国の場合、信じられない事にFAXが現役で使われているという。真偽のほどは定かではないが、コロナウィルスの集計が遅れた理由にFAXの使用が報じられていた。

それにも関わらず、多くの企業では、メールがいまだに主要な連絡手段として活躍中だ。
私ですら、初対面の企業の担当者様とはメールを使っている。
メールが生産性を阻害する理由は、両手の指では足りないほど挙げられる。そのどれもが、生産性にとって悪影響しかない。

だが、メールに代わる連絡手段は今や無数にある。チャットツールも無数に。
メールに比べると、チャットツールは手軽さの点で圧倒的に優位だ。
情報が流れ、埋もれてしまうチャットツールの欠点も、最近のチャットツールでは改善されつつある。

そうしたツールの利点を活かし、さらに働き方を加速させる。
本書にはそうしたエッセンスが詰まっている。

「はじめに」で述べられているが、日本企業の生産性が低い理由として、著者は三つの理由を挙げている。
1 持ち帰って検討しすぎる
2 分析・検討しすぎる
3 打ち合わせ・会議など多くのコミュ二ケーションがコスト・ムダにしかならない

ここに挙げられた三つの生産性悪化の要因は、わが国の企業文化の問題点をそのまま表している。
いわゆる組織の問題だ。

とにかく、本書のエッセンスとは、即決と即断の重要性に尽きる。
1で書かれているような「持ち帰り」。これが、わが国の会議では目立つ。私もそうした現場をたくさん見聞きしてきた。
著者は、メール文化こそが「持ち帰り」文化の象徴だという。

こうした会議に現場で実務を知り、実際に手を動かしている人が出てくることはあまりない。会議に出てくるのはその上長であり、多くの場合、上長は進捗の管理に気を取られ、実際の業務の内容を理解するしていることが多くない。
例えば、私が属する情報処理の仕事を例に挙げると、実際に手を動かすのはプログラマーだ。その上に、詳細の設計を行うシステム・エンジニアがいる。

設計といっても、あまりにも混み入っているため、詳細な設計の内容を理解しているのは設計した当人になりがちだ。
会議に出てくるようなプロジェクトマネージャー、システムの全体を管理するマネージャーでは、現場の詳細はわからない事が多い。

そうした生産性を低下させる例は、情報処理に限らずどの業界にもある。
現場の複雑なオペレーションを理解するのは、一人か二人、といった現場は多いはずだ。
だから、業務内容の詳細を聞かれた際や、それにかかる労力や工数を聞かれると、現場に持ち帰りになってしまう。少しでも込み入った内容を聞かれると、部署の担当に聞いてみます、としか答えられない。

そうした細かい仕様などは、会議を行う前に現場の担当者のレベルで意見交換をしていくのが最もふさわしい。
なのに、かしこまったあいさつ文(いつも大変お世話になっております、など)を付けたメールをやり取りする必要がある。そうしたあいさつ文を省くだけで、迅速なやりとりが可能になるというのに。

著者が進めているようなチャットツールによる、気軽な会話でのやりとり。
これが効率をあげるためには重要なのだ。
つまり、かしこまった会議とは本質的に重要ではなく、セレモニーに過ぎない。私も同感だ。

ところが、わが国では会議の場で正式に決まった内容が権威を持つ。そして責任の所在がそこでようやく明確になる。

これは、なぜ現場の担当者を会議に出さないかという問題にも通じる。
現場の担当者が会議で口出したことに責任が発生する。それを嫌がる上司がいて、及び腰となる担当者もいる。だから、内容を把握していない人が会議に出る。そして持ち帰りは後を絶たない。悪循環だ。

著者は、会議の効率を上げることなど、論議するまでもない大前提として話を進める。

なぜなら、著者が本書で求める基準とは、そもそも10%の改善や向上ではなく、10倍の結果を出すことだからだ。
10倍の結果を出すためには、私たちの働き方も根本的に見直さなければならない。

本書を読む前から、私も著者の推奨するやり方の多くは取り入れていた。だが、今の10倍まで生産性を上げることには考えが及んでいなかった。私もまだまだだ。

著者によれば、今のやり方を墨守することには何の価値もない。
今のやり方よりもっと効率の良いやり方はないか、常に探し求める事が大切だ。
浮いた時間で新たなビジネスを創出する事が大切だと著者は説く。完全に賛成だ。
もっとも私の場合、浮かせた時間をプライベートな時間の充実につぎ込んでいるのだが。

本書には、たくさんの仕事のやり方を変える方法が詰まっている。
例えば、集中して業務に取り組む「スプリント」の効果。コミュニティーから学べるものの大きさや、人付き合いを限定することの大切さ。学び続けることの重要性。SNSにどっぷりハマらない距離感の保ち方。服装やランチのメニューなどに気を取られないための心がけ。

本書に書かれている事は、私が法人設立をきっかけに、普段から励行し、実践し、心掛けていることばかりだ。
そのため、本書に書かれている事はどれも私の意に沿っている。

結局、本書が書いているのは、人工知能によって激変が予想される私たちの仕事にどう対処するのか、という処方箋だ。
今や、コロナウィルスが私たちの毎日を変えようとしている。人工知能の到来よりもさらに早く。それは毎日のニュースを見ていればすぐに気づく。

そんな毎日で私たちがやるべき事は、その変化から取り残されないようにするか、または、自分が最も自分らしくいられる生き方を探すしかない。
今のビジネスの環境は数年を待たずにガラリと変わるのだから。

もし今の働き方に不安を覚えている方がいらっしゃったら、本書はとても良い教科書になると思う。
もちろん、私にとってもだ。私には足りない部分がまだ無数にある。だから、本書は折に触れ読み返したい。
そして、その時々の自分が「習慣」の罠に落ち込んでいないか、点検したいと思う。

‘2019/5/20-2019/5/21


2分間ミステリ


私は子供の頃から、ミステリーを読んでいる。
小学生の頃は、少年探偵団モノや、ルパンシリーズ、ホームズシリーズなどの他にも名作とされた世界の推理小説を読んだ。
中学生になってからは赤川次郎氏の一連の作品や、西村京太郎氏の著作にもかなりお世話になった。

子どもの頃の私は、それらの鉄板のシリーズの他にもさまざまな本に食指を延ばしていたように思う。私が覚えているのはマガーク少年探偵団などだ。
だが、当時もよく知られていたという「少年たんていブラウン」のシリーズについては読んだ記憶がない。そもそも当時はシリーズ自体を知らなかったように思う。
「少年たんていブラウン」のシリーズを知ったのは、本書のレビューを書くにあたり、著者のことを調べてからだ。著者は「少年たんていブラウン」の生みの親として知られていたようだ。

私は「少年たんていブラウン」は読まぬまま、大人になってしまった。
だが、前述のマガーク少年探偵団や、コロタン文庫シリーズなどの子供向けに書かれた推理関連の本をさまざまに読んだことは覚えている。
そうした本の中には、もっぱら、推理クイズを収めていたものがあった。
なぞなぞよりは一段高尚な雰囲気。子供の頃はそうした本も随分と楽しんだ覚えがある。

本書を読み、そうした子どもの頃の読書の思い出が蘇った。

本書に収められている2分間ミステリの数は七十一編にもなる。
その一編ごとに、ほぼ見開き二ページにわたって状況が描かれ、謎が読者に提示される。
その謎はもちろん明かされるが、ご丁寧なことに答えはすぐには分からないように工夫されている。
次の編の末尾に上下が逆さまに印字されていれば、うっかり答えを知ってしまうこともない、という配慮だ。

冒頭に「読者の皆さんへ
クイズの答えは、うっかり目に入ってしまわぬよう、
万全を期して天地逆に刷ってあります(印刷ミスで
はありませんので念のため)。
と言う注意書きがあるのが良い。

各編の内容は、二ページのほとんどで事件が描かれる。そして状況をみてとったハレジアン博士が、最後に放つセリフで、裏の秘密を見抜いていることを示す。
その直後になぜ博士がそう思ったのか、という問いが読者に対して提示される。

七十一編のほぼ全てがそのように構成されている。
だが、それだけだと単調になってしまう。
そこで著者は、二ページの短い中で単調にならぬよう、筋立てと人物と事件と謎を作り込む。
その職人芸のような技が本書の読みどころだ。

著者の技の一つは、登場人物を多様にする工夫を凝らしていることだ。
もちろん、どの編にもハレジアン博士が登場し、博学を示し、読者よりも先に謎を解く構成には変わりない。
それにも関わらず、事件が起きるタイミングや時期、場所、ハレジアン博士の関わり方に工夫を凝らすことで、各編に変化を生じさせている。

登場人物は複数回登場する人物は以下の通りだ。ウィンターズ警視や資産家のシドニー夫人、ハレジアン博士のデートのお相手であるオクタヴィア、儲け話に騙されやすいバーティ・ティルフォード、たれ込み屋ニック。
そうした人物が登場する筋書きは、よくある殺人事件の展開も多い。一方でそれ以外の趣向を凝らした話も多く収められている。
おそらく『名探偵コナン』も『金田一探偵の事件簿』も、本書で示された単調にならないための工夫の影響は大きく受けているはずだ。

本書にはイラストがない。すべて文字だけだ。
つまり、読者がやれることとは、文字に記された地の文とセリフから矛盾を見つけることだけなのだ。
これが案外と難しい。解けるようで、まんまと著者の仕込んだ謎を見落としていることがある。私も半分以上は答えを頼ってしまった。
それはすなわち、読解能力の問題だ。

読解能力とは、単に文の意味を理解するだけではない。そこに書かれた事物の背後に横たわる関係にまで想像力を膨らませる必要がある。論理的な思考力が求められる。

それは当たり前のことだが、探偵や刑事には必須の能力だ。
だが、探偵や刑事だけではない。論理的な思考とは、普通の仕事にも必要な能力ではないだろうか。

文章に記された各単語の背景に隠された関係を結びつけ、その関係の整合性を判断する。矛盾があれば、状況とセリフのどこかに間違いかウソがある。
実は私たちは、ビジネス文章を読む際、そうした作業を無意識の内に行っている。そうみるべきだ。
ビジネス文書にかぎらず、日常生活で目にする景色のすべてからそうした論理を無意識に理解し、日常生活に役立てているのが私たちだ。

いわゆるロジカル・シンキングとも言われるこの能力は、日本ではそれほど要求されない。が、仕事の中ではとても重要な要素であることは間違いない。
そしてわが国において、論理的な思考を訓練する機会が義務教育の間に与えられることはほぼない。
そのことは、以前から識者によって唱えられている通りだ。

上にも挙げた通り、子供向けには本書やその類書のような推理クイズが出されている。今もたくさんのジュニア向けの推理ものが出版されている。
それなのに、もっともそうした能力が求められる大人向けには、本書のような書物があまりない。

本書は大人になった読者にとっても論理的な思考、つまりロジカル・シンキングを養える良い本だと思う。
むしろ、惰性で文章を読む癖がついてしまっている大人こそに本書を薦めたい。

‘2019/01/30-2019/01/31