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非営利組織論


NPO設立と法人設立を並行で模索していた時期に読んだ一冊。本書の前に読んだ「NPOが自立する日―行政の下請け化に未来はない」でNPO設立を法人設立と同時に行う件はほぼ断念した私だが、勉強も含めて本書にも手を伸ばした。

そもそも有斐閣の出版物を読むのは久しぶり。大学のころ教科書でよくお世話になった記憶が蘇る。内容や筆致についても想像がつく。

内容は想像通りで、全編を通して教科書的な印象が付いて回った一冊だった。とはいえ、学問の分野からNPOとは何かを解説してくれた本書は、NPO設立を断念したとはいえ、私にとって有益な一冊となった。

理論の世界にNPOを閉じ込めた読後感があったとはいえ、その切り口は広く、実務的な内容でない分、視野を広く持てた。

本書には実践面の記載が弱いとはいえ、それは実例や設立書類の作成方法が例示されていないだけ。具体的な実践には敢えて踏み込まず、理論に止めているのが本書なのだろう。

でも、NPOとはなんぞや、という向きにとっては、本書は有益な書といってもよいだろう。

実際、本書を読んでNPOを設立された方も多いようだ。現場にあって実務に没頭しているだけでは体得できない理論の深さ。それを教えてくれるだけでも本書は十分実践的と言える。また、コラムでは日本の「大地を守る会」やアメリカの「AARP」、イギリスの「サーコ社」の事例を始め、11のケースワークが取り上げられている。本書が単なる理論一辺倒の本でない証である。

また、本書が想定している読者は起業家志望者ではない。なので、励ましや動機付けといった読者サービスの類いは皆無。それゆえ、本書のそこかしこで、甘い気持ちでNPO設立を夢見る者の幻想をうち壊しにかかる冷静な筆致が織り交ぜられている。正直なところ、本書を読み始めた時点でNPO設立を延期しようとしていた私も、本書でさらに設立の意欲を萎えさせられた。

本書を読んで印象に残ったのはミッション。つまりはNPOの目的である。この言葉が随所にでてくる。他のNPOについての本には、ミッションについての記載もあるが、それとともに人の確保と財源についての問題が付いて回ると必ず記載されている。実際、その通りだろう。しかし本書は人や財源の前にミッションの確立こそ重要と述べている。それこそ幾度も。実際、NPOで出来る業務は、営利企業でもできる業務がほとんど。ではなぜ営利企業がサービスをやらないかというと、利潤が見込めないから。ただ営利企業にはCSR(企業の社会的責任)という、利潤度外視で行う活動がありうる。つまり、突き詰めて考えるとNPOでなければ出来ない業務、つまりはミッションはなかなか見出しにくい。つまりミッションが先にないと、NPO法人設立への道筋は甚だ遠い。このことを本書は述べているのだろう。そのため私は、同等の活動は法人でも担うことが可能と判断し先に営利法人、つまり合同会社を立ち上げた。

この前後に読んだNPO関連の書籍には、NPOの隆盛を願うあまり、利点のみが喧伝されがちな本もあった。そのような前向きな編集方針ももちろんありだ。が、本書のような冷静な視点もまた不可欠。

一旦、営利法人を立ち上げた今も、NPO法人立ち上げの機会を伺っている私。本書を読んだ経験を活かせる好機に、遠からず巡り合えるものと思っている。

‘2015/03/6-2015/03/10


NPOで起業する!


本書はNPO法人設立促進の立場をとっている。阪神・淡路大震災をきっかけに、NPO法人の存在が見直されたことはよく知られている。

地震後の混乱の中、行政対応が後手に回ったのに対し、NPO法人の活躍が目立った。そのことでNPO法人に注目が集まり、NPOに関する各種法整備が進んだ。それはまた、日本の社会制度が疲労を起こし、変化に対応できなくなっている証拠でもある。そのような疲労しつつある行政の補完組織として、本書はNPO法人に期待をこめている。

そのため、本書はNPO法人に対して多大な期待を寄せ、総じて前向き、楽観的な論調に終始している。

しかし、本書はただ無邪気にNPO法人のよい面だけを連呼している訳ではない。一章では神奈川県が実施している県指定NPO法人制度を取り上げている。

県指定NPO法人制度とはなにか。それを語る前に、まずは認定NPO法人の仕組みを理解する必要がある。NPO法人自体の設立はそれほど難しくない。通常の会社設立と同じように設立できる。私が会社設立時にお願いしたような、経験のある行政書士の先生に頼めば安価で容易に設立してもらえる。しかし、NPO問題は設立してからの経営が難しいという。NPO法人は海外では寄付金によって運営を維持する団体が多い。しかし、我が国の通常のNPO法人では寄付する側に控除がされない。そのため寄付するという行為が定着せず、NPO法人の発展にも影響を与えかねない。それを改善するために国が新たに設けたのが認定NPO法人という考え方である。これによって、所管官庁が都道府県から国税庁となった。そして、寄付金に対する所得税と法人税が軽減された。併せて寄付者に対しても従来は認められなかった収益事業からの寄付金を20%まで認めるという恩恵が与えられた。これが認定NPO法人の意義である。

しかし、国の意図に反して認定NPO法人はあまり増えなかった。なぜなら、認定されるまでのハードルがあまりにも高かったから。その状態を是正するために神奈川県が独自で制定したのが、神奈川県指定NPO法人制度である。認定NPO法人となるためのハードルを下げ、認定NPO法人として認め易くしている。私は神奈川県指定NPO法人制度の事を本書で知った。

本章で紹介された神奈川県指定NPO法人制度は、神奈川県での活動実績があることが条件とされる。私は当初、町田を拠点としてNPO法人を設立することを考えていた。町田拠点であれば相模原や大和、横浜、川崎に近いため、ゆくゆくはご縁もできると判断した。しかも残念ながら、東京都にはこのような制度がなく、今後も予定されていないとか。この制度のことを知ることが出来ただけでも本書を新刊で買い求めた甲斐はあった。私にとって、神奈川県指定NPO制度は実に有益な情報であった。

第二章ではNPO法人として民間営利企業に勝つ方法が紹介される。他のNPO法人関連書を読むとミッション重視で、具体的な利益のあげ方まで言及した書籍は少ない。本書は、単価を下げ、その分の利益の差異を寄付金で賄うことで、営利企業に価格で勝つという戦略を敷いている。また、NPO法人の場合は社会的信用が最初から備わっていることを長所として戦うべきだという。さらには、一般企業との協働により、相乗効果を狙うことも薦めている。このことは、営利法人と非営利法人のどちらを設立するか迷っていた私に、協働という選択肢を与えてくれた。つまり、一般営利法人を立ち上げ、次いでNPO法人を立ち上げるということだ。実際、私は本書から得た情報を元にそのような選択をした。まず合同会社を立ち上げた訳だ。最後の方法としては、認定NPO法人となることだ。それによって中小企業と替わりない税率まで税負担を軽減させることができるため、経営基盤の強化に繋がると本書はいう。

第三章から第六章までは、具体的なNPO法人を紹介するケーススタディとなっている。

第三章で取り上げられるのはWE21ジャパンという神奈川に本部のあるNPO。こちらの活動はリサイクル品を集めて販売すること。本章ではその運営や理念について紹介されている。WE21ジャパンさんには私自身まだご縁がない。しかし、本書の記述を読む限りでは、典型的なNPO法人であるように思えた。本章に書かれたような地道な運営方法で、取り上げられるような規模まで育て上げたとすればたいしたものだと思う。

第四章で取り上げられるカタリバは、ユニークなNPO法人である。子ども・若者へのキャリア学習プログラムなどの活動を主軸にされているとのこと。私は常々若者に対しては、社会の決まりだからというステレオタイプ以外のアプローチで仕事を教える手立てがないものか考えていた。そんな私にカタリバの活動は大変参考となった。本章でもカタリバの経歴が紹介されていたが、試行錯誤の連続だったようだ。それを乗り越えたのは設立者の方の強烈な意思によるところが多いと読み取れる。NPO法人の存続には強烈な意志が必要であることは、どの書籍でも共通の印象だ。だが、強烈な意志やNPO法人としての理念やミッションだけでは空回りしかねないのも事実。いかにしてマネタイズさせ運営の継続につなげるか。これは、相当の難問だと思っている。が、本章で紹介されるカタリバは、それを粘り強く行っている。私はそのことに感銘を受けた。

第五章で取り上げられるのはカタリバとティーチ・フォー・ジャパン。後者は、大学を出た有為な若者を各地の学校に送り込み、放課後などを利用して公的授業だけでは補いきれない学力アップに寄与するためのプログラムだ。本家のティーチ・フォー・アメリカは、各国に拠点を置いているという。教師の負担減はわが国でもよく言われる課題だが、ティーチ・フォー・ジャパンがその役割の一助となれば良いと思う。私も実際小学校高学年と中学だけは塾に通っていたのだが、どうしてもあの「受験やらされ感」がダメで、高校時代はとうとう塾に通わなかった記憶がある。ティーチ・フォー・ジャパンやカタリバのような組織が子どもたちに学ぶ意味や喜びを教えられるような仕組みは必要ではないかと思う。そう思っていただけに、ここで書かれた活動には興味を持った。

第六章はMy Style@こだいらという街づくり系NPOである。街づくり系NPOは、私の興味に合致し、ゆくゆくは設立も視野に入れているNPOの一つでもある。小平という街は一、二度しか訪れたことがなく、こちらのNPOの抱える街づくりの課題や活動内容をしっかりイメージするには至らなかった。が、私が今回設立した合同会社についても、都心よりも町田や多摩地区を基盤においた活動をしたいと考えている。こういった街づくりNPOの活動には今後も注意を払い、参考にさせて頂くようにしたい。本章ではNPOの設立書類は自分たちで、という記述もある。その辺りの努力も含めて考えるところの多い章だった。

第七章で取り上げられているのはNPO法人ではない。公益財団法人だ。パブリックリソース財団という。NPO法人の財政基盤として、寄付金は無視できない。しかし一般の人々にとって寄付対象となるNPOを選別するのは難しい。こちらの財団は、そのお手伝いとして一般の人々からNPOへ、寄付金の橋渡しをすることをミッションとしている。私は今までこのような財団の存在は知らず、これまたとても参考になる章である。

本書はかなり実践的なNPO活動について触れており、受け身トーンの記述が多いNPOの書籍の中では前向きといえる。ただ、私のNPO法人設立の目標は、一旦先に合同会社を立ち上げることを優先したため、頓挫した状態だ。想定していたNPO法人と同等の仕事を設立した合同会社で行おうとしたのだが、正直難航している。NPO法人設立への思いも以前よりも薄らいでしまっているのも事実だ。

だが、本書を読んだ後に思うのは、NPO法人設立に必要なのはミッションと設立者の強烈な意志。これにつきる。改めてそのことを思い起こした次第だ。

‘2015/1/16-2015/1/18