あらためまして、合同会社アクアビットの長井です。前回にも書きましたが、弊社の起業物語をこちらに転載させて頂くことになりました。前回は起業を前向きにポジティブにとらえた視点での利点を述べました。今回は、私からみれば利点とは必ずしもいえないのですが、一般的には起業の利点として語られることについて語りたいと思います。なお、以下の文は2017/9/14にアップした当時の文章そのままです。
人間関係に煩わされません
「組織の悩み」と掛けて、「しあわせ」と解く。その心は「し(4)がらみ」。のっけから下手ななぞかけで失礼しました。仕切りなおして組織の煩わしさを問います。その答えは人間関係。それもそのはずで、たくさんの人が毎日一緒に集まって仕事するのが組織なのですから。当然、ソリやウマの合う合わないという問題が噴出します。組織の中で働く皆さまの悩みごとです。少しでも組織の中のしがらみを円滑にするため、いろいろな工夫が凝らされています。飲み会を開き、ゴルフに出かけ、ランチ会でおしゃべり、喫煙所でモクモク。涙ぐましい努力をしても、組織にいるのはものわかりの良い上司や趣味の一致する同僚、意を汲んで仕事をしてくれる部下だけとは限りません。理不尽な上司、敵意をむき出しにする同僚、無関心でシラケる部下に出会うこともあります。そうなっても組織の中の関係を円満にすることは何よりも優先されます。その労力たるや本業よりも大変。そこから脱出したいがために独立に踏み切る、というのも聞く話です。
確かに“起業”すれば、組織の人間関係からは逃れられることでしょう。その意味では起業の利点なのかもしれません。でも、“起業”しても仕事の上の関係は引き続きついてまわります。むしろ、組織の中のほうが潤いのある関係が維持できるかも。組織の中で人は、円滑に機能させようと無意識に配慮という潤滑油を分泌させます。それは日本人が長年培ってきた和のココロのなせる業。
しかし、そんなウェットな関係を嫌う人もいます。そんな方がウェットでなくドライな関係を求めるために“起業”したとします。ウェットな関係から逃れ、ドライでビジネスライクな最小限の付き合いで世渡りできる? そう思ったあなたは、アテが外れることでしょう。というのも“起業”した後にこそ、そういうウェットな配慮が一層必要となるからです。お互いが普段離れているということは、普段は乾いた関係なわけです。ならばこそ、いざ会ったときにたっぷりの潤滑油が必要になるのです。私の意見では、SNSがこれほどまでに支持された理由が、離れていてもお互いの話題で潤う関係が築けるからだと思っています。だからこそ、同じ組織にいる人同士では、SNSの関係が構築されないのです。
もちろん、人には相性があります。大量の潤滑油を分泌してもかみ合わない人もいるでしょう。SNSでも全く接点が発生しない人もいるでしょう。どれだけ顔を合わせてもこの人とはきしみ合うしかない、つまり相性が合わないという方は誰にでもいるはずです。起業とは、そんな人とたもとを分かつことのできる手っ取り早い手段であることは確かです。反りが合わなければ一緒に仕事をしなければいいのですから。それは起業の利点です。
ですが、仕事の成功とはタスクの達成よりも人間関係が円滑であり続けたか、という金言もあります。私が今考え付いた金言なのですが。この言葉は“起業”した後の方がより実感できます。“起業”したからといって人のつながりから逃れられると思ったら大間違いです。その点では起業のメリットは薄いと言わざるをえません。
お金に融通がきく
これは、起業の甘い側面しかみていない意見です。もちろん、組織に属していると給与テーブルの枠の中に納まった額しかもらえません。手当とボーナスの増減に一喜一憂するサラリーマンと違い、“起業”すればダイナミックなお金のやりとりができる。確かに頑張り次第、工夫次第でお金は稼げます。ですが逆を返せば、努力や創意が足りなければジリ貧にも陥るのです。お金に融通がきくとは、逆に言うと振れ幅も激しいことを意味します。潤沢にも登れば、貧窮にも陥るのです。
ただ、お金に融通が効くかどうかは、月給取りの皆さんも一緒です。自分の働きが組織の業績アップにつながった場合はボーナスで報われます。また、自分ではない方が起こした不祥事で業績ダウンをこうむり、ボーナスがなくなる不運を呪うのか。それに納得できるかできないかはあなた次第です。
お金に融通が効くか効かないかは、“起業”していようがいまいが変わりません。ただ、組織の場合は全く自分の部署に関係ないところが起こした不採算が、自分の部門にも影響を及ぼすこともあり得ます。それが組織なのですから。その点、自分の頑張りがお金に直結するのは起業の利点の一つとしてもよいでしょう。
お金については、起業の欠点としてあらためて取り上げたいと思います。
定年がない
定年がないとは、シビアに言い換えると死ぬまで働け、という意味です。勤め人には長年のねぎらいと老後の資金として退職金が支給されます。それが通例です。ですが、“起業”した場合は退職金はありません。なので、定年がないことを、利点に数えるのは早計だといえます。もっとも、退職金が出せるまでの組織を立ち上げられれば別です。または退職金がなくても、事業を清算した際に蓄えた資金を自分の老後資金に充てられれば。
もちろん、先に書いたとおり、働くことが大好きな方にとっては死ぬまで働けることは幸せでしかないはず。これを利点ととるか欠点ととるかはその人次第です。
次回から、起業の欠点について取り上げていこうと思います。