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七日間ブックカバーチャレンジ-占星術殺人事件


【7日間ブックカバーチャレンジ】

Day3 「占星術殺人事件」

Day3として取り上げるのはこちらの本です。

Day2で書いた、私が生涯でもっと多く読み返した二冊の本。
その一冊がDay2で取り上げた「成吉思汗の秘密」で、もう一冊が本書です。ともに十回は読み返しているはずです。

Day2で私が読書の習慣にハマったのは9歳の頃、と書きました。
いたいけな私を読書の道に引きずり込んだのは、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズでした。
ポプラ社から出されており、怪人二十面相や明智小五郎、小林少年でおなじみですね。

解決すると胸の支えがスッと取れる複雑怪奇な謎。そしてどことなく怪しげな、推理小説の放つ魅惑の世界。幼い頃の私はそうした推理小説の魅力に一気にハマりました。ルパン、ホームズはもとより、子供向けに書かれた世界の名作と呼ばれた本にまで手を出し。
友だちに本キチガイと呼ばれ、足しげく西宮市立図書館に通っていたのはこの頃です。

もっとも、私がハマっていたのは推理小説だけではなく、野球史や歴史小説、動物小説も読んでいました。ですが、ベースは推理小説でした。トラベルミステリーや三毛猫ホームズにもハマっていましたし。
そして、そんな私を最もガッチリと捕らえたのが本書でした。

本書は江戸川乱歩賞の応募作でしたが落選しました。
当時の推理小説はまだ社会派と称された推理小説(松本清張氏の一連の作品が有名です)の分野が主流で、謎解きに特化した本書の作風が選考委員の先生方に受けなかったのかもしれません。
ところが、本書の登場によって、謎解きに焦点を当てた本格派と呼ばれる推理小説が復権したのですから面白い。
私はそうした本格物と呼ばれる作品も読み漁りました。ですが、やはりルーツとなるのは本書です。

本書のトリックがどれだけ独創性に溢れていたか。そして意外な真相につながる驚きを秘めていたか。
それは後年に「金田一少年の事件簿」で本書のメイントリックが流用されたことからもわかります。
当時、少年マガジンで連載を読んだ時、すぐに本書のトリックのパクリや!と気づいたぐらいですから。

本書はまさに推理小説の魅力的な謎、そして謎が解き明かされる時の快感と驚きに満ちています。

そればかりか、世の中には不思議な事が確かに存在する事を教えてくれました。そうしたことは普通、学校では学べません。
また、不思議の背後には論理的なタネがあり、それはヒラメキと知識によって理解できることも。

後年、SEになった私が、アルゴリズムを解き明かした時の快感。
またはビジネスの流れをロジックで再現できた時の喜び。
本書を始めとした推理小説は、そうした喜びを私の無意識に教えてくれていたのかもしれません。

本書は推理小説のジャンルで何がおすすめか聞かれた際、自信を持って挙げられる一冊です。
推理小説に限らず、読書の喜びを知らない人にも。
実際のところ、本書をまだ読んでいない方はうらやましい。謎が解かれた時の喜びを新鮮に味わえるのですから。

もちろん、本書の他にも推理小説の名作は数え切れないほどあります。多分、百冊は挙げられると思います。
ここでは割愛しますが、皆さんがさまざまな作品に触れられますように。

ということで、二つ目のバトンを渡させていただきます。
本を愛する友人の 野田 収一 さんです。
野田さんはマーケターでありディレクターでありながら純文学にも造詣が深く、私にとっては文学談義を交わせる数少ない方の一人です。

それでは皆さんまた明日!
※毎日バトンを渡すこともあるようですが、私は適当に渡すつもりです。事前に了解を取ったうえで。
なお、私は今までこうしたチャレンジには距離を置いていました。ですが、このチャレンジは参加する意義があると感じたので、参加させていただいております。
もしご興味がある方はDMをもらえればバトンをお渡しします。

「占星術殺人事件」
文庫本:544ページ
島田荘司(著)、講談社(2013/8/9出版)
ISBN978-4-06-277503-8

Day1 「FACTFULLNESS」
Day2 「成吉思汗の秘密」
Day3 「占星術殺人事件」
Day4 「?」
Day5 「?」
Day6 「?」
Day7 「?」

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
7日間ブックカバーチャレンジ
【目的とルール】
●読書文化の普及に貢献するためのチャレンジで、参加方法は好きな本を1日1冊、7日間投稿する
●本についての説明はナシで表紙画像だけアップ
●都度1人のFB友達を招待し、このチャレンジへの参加をお願いする
#7日間ブックカバーチャレンジ #占星術殺人事件


氷菓


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死体も出なければ犯人もいない日常の謎。余計なことに首を突っ込まないのがモットーの省エネ男折木奉太郎がその謎をしぶしぶ解いていく。というのが本書のパターンだ。

神山高校に入学した主人公は、卒業生の姉のススメ、いや頼みで古典部に入部する。古典部は三年連続入部者ゼロで廃部寸前。文化系だから楽だろうと入部した主人公。そこには偶然、入部希望者の女子がいて、というところから話が始まる。

古典部に入部してからというもの、ちょっとした日常に謎が生じ始める。しぶしぶ謎を解く主人公は、本人の意思に反してその異能で名を広めてしまう。同じタイミングで入部した千反田えるに加えて、主人公の中学時代の同級生二人、福部里志と伊原摩耶花が加わり、古典部は四人の新入部員で活動を始めることになる。ところが古典部は、神山高校でも伝統ある部活であり、過去からの因縁で妙な謎だけが今に残っている。

かつて古典部部長だった千反田の叔父関谷純は何ゆえ退学となったのか。三十三年前に何があったのか。その謎を解き明かすため、古典部員四人は、当時の壁新聞や、卒業アルバム、文集から、それぞれの推理を開陳する。が、奉太郎はそれら三つの材料をさらに組み合わせ、独自の謎を解き明かす。

四人が四人ともキャラ立ちしているのは、いかにもアニメ的。主人公の親友である里志が歩くデータベース的な知識の深さで異彩を放つが、言動が高校生離れしているのが気になった。が、これぐらいのキャラ造形は、アニメではよくあるのだろう。もっとも、本書がアニメ化前提で書かれたかどうかは知らないが、結果としてアニメ化されたようだ。そういえば本書の表紙もアニメ絵となっており、おそらくは千反田えるだと思うが、本書の殺伐とは程遠い内容を表している。いわば健全な高校生活の日常というのだろうか。

本書で提示された謎や結論も日常の範囲内だ。大したことがないといえばない。といってもそれは事件性や、精神に打撃を与えるようなことではないという意味だ。結論に至るまでの道筋に破綻はなく、設定にも無理が生じないようにあちこちに伏線を張り巡らせてある。そのため、読み終えた後は清々しさが残る。北村薫さんの作風にも通じる、日常の謎に終始した本書には好感が持てる。

神山高校の日常は、若干浮世離れしていて、自分の高校生活を思い起こさせる。セピア色の思い出とでもいおうか。私の高校時代に悔いはないが、こんな高校時代も送ってみたかったなあ、と思わされる。日々の仕事に時間に追われる大人にとっては、本シリーズから懐かしさを感じ取るのではないだろうか。

機会があればアニメ版も観てみようと思う。

‘2015/8/2-2015/8/4