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日本でいちばん大切にしたい会社 7


本書は、パートナー企業の社長様からお借りした一冊だ。

著者の講演は拝聴したことがある。関西大学カイザーセミナーでゲストとして登壇してくださったのが著者だ。

目の前で講演の内容を伺った時の迫力は今も印象に残っている。
迫力とは、人を大切にしない会社への糾弾と批判のトーンの厳しさだ。経営をやっている価値がないとか、詐欺であるとか、辛辣な言葉は強く印象に残っている。

だが、著者が槍玉にあげるように、世の中にある多くの会社は利益を追うあまり、他の点がお留守になってしまっている。利益を優先するあまり、社員を統制し、費用を切り詰める。その一方で売上を伸ばし続けるために社員にノルマを課す。そうした会社がよろしくないのは当然だ。

私もそうした現場を見てきたし、それが嫌で独立した。
だが、利益のみを優先する会社が多い中でも、社員を大切にしながら、経営を成り立たせている会社はある。

本シリーズは7ということだ。7まで出ているということは、それだけたくさんの素晴らしい会社が世の中にあるということなのだろう。
なお、私は1から6を読んでおらず、7を初めて読む。

本書には全部で七つの会社が取り上げられている。
どれもが著者によって厳選された感動企業だ。

福島県の陰山建設
郡山のみならず、福島県全域で献血の陰山として有名らしい。
私は郡山には少しだけご縁がある。だが、陰山建設の名前は初めて聞いた。

社屋に隣接した広大な駐車場。ここは普段、広大な空きスペースとして遊んでいる。
ところが年に三日、この駐車場に献血車と献血志望者が集まるという。さらに、そうした人々をもてなすための出店が出されているという。そうした出店は全て、陰山建設の社員の方々が催しているという。当然費用は陰山建設が持っている。無償奉仕だ。
陰山建設の社会貢献に対する姿勢は素晴らしい。
この中で紹介されている跡取りとなった三代目社長の挫折とそこからの頑張り。そして、周りのサポートが受けられるまでに持ち直すストーリーも感動的だ。弊社もそうなるように見習わねば。

東京都の昭和測機
秋葉原にある精密機械のメーカーだ。
開発・営業・製造が三位一体となり、社内で自由なジョブローテーションを組んでいる。社長自らトイレ掃除とタイムカード打刻を率先して行っている。社長も社員と同じ立場との考えには全く同感だし、それを実践していることも素晴らしい。
経営も多品種少量生産を続け、本業と関係のない投資は一切行わない方針を堅持しているそうだ。

やはり、こういう光る部分を持っている企業は強い。本編を読んでいて、同じ技術会社として弊社の強みを生かさなければと強く共感した。

昭和測機が秋葉原にある事は、何か強みになっているのだろうか。
私には、秋葉原の伝統が何かと問われても適切な答えが見つからない。今や秋葉原はサブカルチャーのメッカとなっているからだ。
だが、昭和測機のような企業が秋葉原で頑張っていることは、秋葉原に日本のモノづくりの伝統が色濃く引き継がれている証しなのかもしれない。最近、衰退が叫ばれる技術立国日本の素晴らしさとして特筆すべきだ。モノづくり日本の希望といってもよいかもしれない。
昭和測機さんが理念を継続できるのも、社員の皆さんの風通しが良いだけでなく、社内で作り上げてきた仕組みがうまく回っているからだろう。弊社も切磋琢磨しなければ。

新潟県のフジイコーポレーション
新潟にあるこちらの会社は、除雪機を世界各国に輸出しているという。また、フジイコーポレーションの社員への心配りの細やかさには感動を覚える。亡くなった社員を社員総出で見送るだけでなく、社内の仕組みのあちこちに社員に負担をかけないための配慮がなされている。

メンバーを愛し、大切にする。それを口にするのは簡単だ。だが、その実践となると難しい。どこまでが正しいのか、私はまだ確信を持っていない。良かれと思ったことが伝わらなかった痛手も記憶に新しいからだ。だが、どのようになろうとも、まず社員を大切に思う気持ちだけは持ちたいと思う。

静岡県のNPO法人六星・ウイズ
創業者の斯波氏は、あのHONDAを創業した本田宗一郎氏と同じ会社で、しかもHONDAの創設メンバーの一人だったという。だが、斯波氏はある日、本田宗一郎と一緒に泊まった宿で視覚障害者の方から杖のことで相談を受けた。その時、視覚障害者の苦労とそれを助ける事業にやりがいを感じた斯波氏は、本田氏と違う道を歩み、視覚障害者向けの事業に奔走する。

今では斯波氏から事業を引き継いだ二代目の社長さんが運営しているが、その姿に営利の目的は感じられない。
視覚障害者といってもいろいろいる。障害者の皆さんにとって何がつらいか。それは、勉強しても仕事の機会が与えられないことだそうだ。
たしかに私が自分の目が見えなくなったと想像してみよう。仕事はほぼできなくなるだろう。さらにほとんどの娯楽が奪われてしまう。この上、仕事したいと望んでも、その機会すら奪われたら、生活に希望がなくなってしまうに違いない。

視覚障害者の立場に自分を置いてみるには、目をつぷって少しでも歩いてみればいい。その不便さは言語を絶する。
また、仕事をしたいのにできないことがどれだけ苦しみのかは、理屈でも理解できる。NPO法人六星・ウイズは障害者に点字の名刺を作成する仕事を通して就業の機会を提供している。これは本当に尊い仕事だと思う。

兵庫県のツマガリ
こちらの会社は、私もなんとなく名前は聞いたことがあった。西宮の甲陽園にあるそうだ。私はもちろん訪れたことがない。そして、大丸神戸と大丸梅田にしかお店もしておらず、オンライン・ショッピングを使わない限り、他地域の方はなかなか買えないらしい。
宮崎で極貧の家に育った創業者は、人の導くままに洋菓子の道に入り、導かれるままに今の繁盛店を築き上げた。

そこで創業者の人生について強調されるのは、自分で選んだ道ではないということだ。導かれるまま、縁のままに洋菓子の道に入った創業者。ところが、極貧ゆえ自然のものしか食べられなかったことによって舌が鋭敏になった。さらに、どの仕事でも子供時代の苦労に比べたら大したことがない、とこつこつと努力した結果が今につながっているという。
利益を顧みず、最高級の素材で庶民にも手が出る値段のケーキを出す。それだけのことでこれだけの支持が得られる。まさに見習わなければならないと思った。

島根県の出雲土建
こちらは、炭を建材にする商品を開発して会社を再生した。一時期は役員が業績悪化を取って辞任し、緊急の要請で常務から社長になった今の社長は、当初は無給で働いていたという。
楽しい時期、挫折の時期、雌伏の時期。そうした社長のいる企業は強い。

宮崎県の生活協同組合コープみやざき
生活協同組合はもともと、賀川豊彦氏が提唱した運動だ。賀川豊彦氏の活動範囲は多岐にわたったが、ベストセラーになった著作のほとんどは今では顧みられていない。だが、生活協同組合の仕組みは、今も世に伝わっている。
私もコープこうべは実家にいる頃はよく利用していた。残念ながら生活協同組合の仕組みは今、かつての勢いがないように思える。
だが、コープみやざきは250,000人もの会員を擁している。それは、なぜ共同購入するのかと言う理念が今も伝えられているからだ。安心な食品や誠実な良品を仲間内で助け合って購入する。その単純な理念が今もなお息づいているからだと言う。

理念が企業を存続させる良い例だと思う。

本書に登場する七つの会社はとても参考になった。だが、私が失敗を通して学んだ事は、理念とは、まず会社を継続させるための仕組みや提供するサービスの内容がしっかりとしていなければ、成り立たないと言うことだ。
その時、会社の継続を優先するあまり、社員に無理をさせ、顧客に迷惑をかけるようなことをしてはいけないのは当然だ。

本書からは理念の大切さは学んだし、それはしっかりと追求していかねばならないと思っている。だが、理念先行ではなく、まず会社の仕組みをきちんと構築しようと思った。折に触れて本書は読み返し、継続的な経営への取り組みが利益至上主義に陥らないようにしたいと思う。

‘2020/07/10-2020/07/11