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アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書


経済学の本をもう一度読み直さなければ、と集中的に読んだ何冊かの本。本書はそのうちの一冊だ。
新刊本でまとめて購入した。

前から書いている通り、私には経済的なセンスがあまりない。これは経営者としてかなりハンディキャップになっている。

私だけでなく妻も同じ。お金持ちになるチャンスは何度もあったが、そのために浪費に走ってしまった。だからこそ長年私も常駐作業から抜け出せなかった。その影響は今もなお尾を引いている。

私は若い考えのまま、お金に使われない人生を目指そうとした。金儲けに走ることを罪悪のようにも考えていた時期もある。
二十代前半は、金儲けに走ることを罪悪のように考えていた。

妻は妻で、生まれが裕福だった。そのために、浪費の癖が抜けるのに時間がかかった。
幸いなことに夫婦ともまとまったお金を稼ぐだけの能力があった。そのため、家計は破綻せずに済んだ。だが、実際に破綻しかけた危機を何度も経験した。

私たち夫婦のようなケースはあまりないだろう。だが、私たちに限らず、わが国の終身雇用を前提とした働き方は、お金について考える必要を人々に与えなかった。
一つの企業で新卒から定年まで勤めあげるキャリアの中で、組織が求める仕事をこなしていけばよかった。お金や老後のことも含めた金の知識は蓄える必要がなかった。それらは企業や国が年金や保険といった社会保障で用意していたからだ。

私もその社会の中で育ってきた。そのため、金についての教育は受けてこなかった。風潮の申し子だったといってもよい。
だが、私はそうした生き方から脱落し、自分なりの生き方を追求することにした。ところが、お金の知識もなしに独立したツケが回り、会社を立ち上げ法人化した後に苦労している。もっと早く本書のような知識に触れておけば。

世間はようやく終身雇用の限界を知り、それに紐付いた考えも少しずつ改まりつつある。
私も自分の経験を子どもやメンバーに教えてやらねばならない。また、そうした年齢に達している。

本書は、アメリカの高校生が学ぶお金についての本だ。
アメリカは今もまだ世界でトップクラスの裕福な国だ。経済観念も発達している。貧富の差が激しいとはいえ、トップクラスのビジネスマンともなると、わが国とは比べ物にならないほどの金を稼ぐことが可能だ。

それには、社会の仕組みを知り尽くすことだ。金が社会を巡り、人々の生活を成り立たせる。
人が日々の糧を得て、衣服に身を包み、家に住まう。結婚して子を育て、老後に安閑とした日々を送る。
そのために人類は貨幣を介して価値を交換させる体系を育ててきた。会社や税金を発明し、労働と経済を生活の豊かさに転換させる制度を育ててきた。
金の動きを理解すること。どのようなルートで金が流れるのか。どのような法則で流れの速度が変わり、どの部分に滞るのか。それを理解すれば、自らを金の動きの流れに沿って動かさせる。そして、自らの財布や口座に金を集めることができる。

その制度は人が作ったものだ。人智を超えた仕組みではない。根本の原理を理解することは難しい。だが、人間が作った仕組みの概要は理解できるはずだ。
本書で学べることとはそれだ。

第1章 お金の計画の基本
第2章 お金とキャリア設計の基本
第3章 就職、転職、起業の基本
第4章 貯金と銀行の基本
第5章 予算と支出の基本
第6章 信用と借金の基本
第7章 破産の基本
第8章 投資の基本
第9章 金融詐欺の基本
第10章 保険の基本
第11章 税金の基本
第12章 社会福祉の基本
第13章 法律と契約の基本
第14章 老後資産の基本

各章はラインマーカーで重要な点が強調されている。
それらを読み込んでいくだけでも理解できる。さらに、末尾には付録として絶対に覚えておきたいお金のヒントと、人生における三つのイベント(最初の仕事、大学生活、新社会人)にあたって把握すべきヒントが載っている。
それらを読むだけでも本書は読んだ甲斐がある。私も若い時期に本書を読んでおけばよかったと思う。

376-378ページに載っている「絶対に覚えておきたいお金のヒント10」だけは全文を載せておく。

絶対に覚えておきたいお金のヒント10
この本ではお金についていろいろなことを学んだが、いちばん大切なのは次の10項目だ。

1、シンプルに
お金の管理はシンプルがいちばんだ。複雑にすると管理するのが面倒になり、自分でも理解できなくなってしまう。

2、質素に暮らす
お金は無限にあるわけではなく、そして将来何が起こるかは誰にもわからない。つねに倹約を心がけていれば、いざというときもあわてることはない。

3、借金をしない
個人にとっても家計にとっても、代表的なお金の問題は借金だ。借金は大きな心の負担になり、人生が破壊されてしまうこともある。ときには借金で助かることもあるが、必要最小限に抑えること。

4、ひたすら貯金
いくら稼いでいるかに関係なく、稼いだ額よりも少なく使うのが鉄則だ。早いうちから貯金を始めれば、後になって複利効果の恩恵を存分に受けることができる。

5、うまい話は疑う
儲け話を持ちかけられたけれど、中身がよく理解できない場合は、その場で断って絶対にふり返らない。うまい話には必ず裏がある。

6、投資の多様化
多様な資産に分散投資をしていれば、何かで損失が出ても他のもので埋め合わせができる。これがローリスクで確実なリターンが期待できる投資法だ。

7、すべてのものには税金がかかる
お金が入ってくるときも税金がかかり、お金を使うときも税金がかかる。商売や投資の儲けを計算するときは、税金を引いた額で考えること。

8、長期で考える
今の若い人たちは、おそらくかなり長生きすることになるだろう。人生100年時代に備え、長い目で見たお金の計画を立てなければならない。

9、自分を知る
お金との付き合い方には、個人の性格や生き方が表れる。将来の夢や、自分のリスク許容度を知り、それに合わせてお金の計画を立てよう。万人に適した方法は存在しない。

10、お金のことを真剣に考える
お金は大切だ。お金の基本をきちんと学び、大きなお金の決断をするときは入念に下調べをすること。お金に詳しい人から話を聞くことも役に立つ。

‘2020/05/01-2020/05/11


魔法のラーメン発明物語―私の履歴書


数年前、横浜にもカップヌードルミュージアムができた。私もそのニュースを聞いてから、家族を連れて何度も行こうと思っているが、いまだに伺えていない。
本書はチキンラーメンを発明し、世界に即席めんを広めた日清食品の創業者、安藤百福氏による自叙伝だ。

チキンラーメンから始まった即席めんのラインアップ。その豊かさは、コンビニエンスストアに行くたびに実感でき。
無数の商品が生み出されてきたし、いまも頻繁に棚の商品が入れ替わる。
おそらく、それらの商品の背景には開発者やマーケティング担当者、製造ラインの方々による努力が刻まれていることだろう。

だが、その裏側に、著者による幾たびも挫折を繰り返した人生があったことを、私はあまりよく知らずにいた。
本書は、日本経済新聞に連載された「私の履歴書」を基にしている。「私の履歴書」といえば功成り名遂げた方の自叙伝としてよく知られたコーナーだ。

本書の「はじめに」では、「私の履歴書」に連載を始めたいきさつが書かれている。
それによると戦後に輩出した著名な創業者のうち、残された大物の一人が著者だったらしい。
担当編集者からの依頼に対し、「特に人に向けて書くようなことはない」と著者が断っていたところ、逆に何か書くとまずい事でもあるのかと問われ、つい筆を取ったのが連載のきっかけだったようだ。

本書には著者の生い立ちから日清食品の躍進までの歴史が記されている。本書を読むと、著者の人生は挫折もあったが、ほとんどが努力と成長の連続だった事がわかる。
チキンラーメンの開発にあたって、著者が一年間自宅にこもりきっていた事はよく知られている。
その裏には、著者が頼まれて理事長に就任した信用組合が破綻し、ほとんどの家財を差し押さえられた実情があったらしい。実際、自宅のみしか残されなかったため、背水の陣を布いて即席めんの開発に当たったというのが真相のようだ。
私は本書を読むまで、その裏側に何か事情があったことなど考えたこともなかった。

差し押さえ。それが大きな挫折であることは確かだ。
だが、挫折する前の著者が信用組合の理事長の地位にまで登り詰めていたことを見逃してはならない。
著者には信用組合の理事長になるまでの人徳と実力があったことを示している。
戦前と戦中に著者は多様な事業に手を出し、それらをことごとくものにしてきたという。著者自身の努力とセンスの賜物だろう
そこを考えず、著者が一か八かを賭けて即席めんに手を出し、幸運にも一発当てたと早とちりすると、著者の生涯から得られる教訓を逃してしまう。

著者は台湾で生まれ、そこで繊維系の仕事に就き、商売を学んだようだ。そして、台北だけでは仕事の広がりに限界を感じ、異国である日本の大阪に出て仕事を起こした。台湾に生まれ、台湾の人でありながら、苦労と工夫を重ねて日本になじんだ事が著者の原点にあるようだ。
著者の人生を概観してみると、あらゆる事物への飽くことのない好奇心が成功に導いた事に気づく。
好奇心に加え、工夫に次ぐ工夫の連続。そこに妥協はない。

好奇心は発想の種を生む。
私は、周りにあるすべてに対する好奇心は、人生を成功させるために不可欠だと思っている。

もう一つ、著者の人生から感じ取れるのは、中年を迎えても人間には成功へのチャンスがあることだ。
そもそも著者が即席めんの発明に手を染めたのが、著者の人生でも後半生に入った後だ。47歳になって自宅で始めたチキンラーメンの開発の苦労は、本書に詳しく書かれている。

その姿はまさに単身の奮闘。この言葉に尽きる。
組織の力は確かに重要だ。だが、最初に努力し、火を起こすまでは一人の力でやるべき仕事なのかもしれない。

この事は、私にとってあらゆる意味で気づきになった。
むしろ、著者が最も言いたい事は、初めは組織だけに頼るなということかもしれない。
著者は、信用組合の理事長での経験を苦い思い出として回顧し、組織を運営のする事の難しさについて触れている。全くその通りだと思う。
一人の力で火を起こし、それを広げるにあたってようやく、組織の力が必要となる。
この事は社会人のほとんどには当てはまらない。だから、結果論だけを取り出せば、一山当てた著者だから説ける教訓だと片付けることもできるだろう。
だが、はじめは組織に頼るなとの教えは、今の新卒での採用が慣習となったわが国のあり方にも一石を投じるものだと思う。

また、カップライスの失敗についても著者は触れている。
開発に着手した当時、古米、古古米が倉庫に眠り、政府からも米の有効活用の要請があり、即席ライスを開発した。だが、見事に失敗したそうだ。

ところが、著者の遺志は没後に実現したことを今の私たちは知っている。そう、日清のカレー飯だ。見事に大ヒットし、今もまだよく見かける商品だ。
おそらくは泉下の著者も喜んでいるに違いない。

本書は、東食の倒産や阪神淡路大震災での社会貢献についてもページを割いている。
それによると、東食は倒産後、即座に日清との取引の再開にこぎ着け、その後の倒産からの復活につながったそうだ。

そうした社会貢献を成し遂げるまでになった日清食品の歴史は、著者が47歳からカップめんを開発して始まった事。
何人もの人生を凝縮したような著者の濃い人生が、まさに人生の後半から始まり、社会貢献にまでつながった事がすごい。

本稿をアップした私は先日、47歳になった。まさに著者がチキンラーメンを開発した年齢だ。
焦りはある。一方で諦めては負けだ、との思いもある。
ひょっとしたら、私自身、全く気づいていない何かをこれから成し遂げるかもしれない。
私自身、今の自分に安住しているつもりも、慢心しているつもりもない。だが、そうした罠はすぐそこに口を開けて待っているはず。間違ってもそうなってはならない。
その事を強く本書から感じた。

本書が面白いのは、私の履歴書の連載の後日談として「麺ロードを行く」と題し、著者が麺の故郷である中国の各地を訪れ、そこで麺を研究した成果を載せていることだ。
それもまた、日本経済新聞の連載だったらしい。
その中で紹介されている中国各地の麺の豊かなことと言ったら!
日本にもかなりの種類の麺が入ってきているが、まだまだ中国には及ばない。私たちの知らない麺の奥深い世界が広がっているようだ。

本書を読むと、そうした麺がもっと日本に入ってきてほしいと思う。
麺こそが、私たちの食生活を豊かにする。そのことに誰も異論はないだろう。
著者は長生きの秘訣を尋ねられたり、カップめんの容器に健康被害の風評が吹き荒れた際、97歳まで生きた自らの長寿を引き合いに出し、カップヌードルの健康性を吹聴していたとか。

私も最近、よく横浜に行く。
冒頭に書いたように、横浜にはカップヌードルミュージアムがある。
早くそこに行って、著者の実践の成果を見てみようと思う。
さらに、実家に帰ったときには、著者が住んでいた池田に建てられたカップヌードルミュージアムにも訪れたいと願っている。
その時、私は何を思うだろう。ひょっとしたら新たな道を見つけられるかもしれない。楽しみだ。

‘2019/4/26-2019/4/26