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藁の楯


映画館で「藁の盾」を観たのは本書を読む1年前、5/18のことである。大沢たかおさん、藤原竜也さん、松嶋菜々子さんなど錚々たる俳優陣に支えられ、その演技力とプロットの独創性に唸らされた映画であった。見終わった後に原作がビーバップハイスクールを描いたきうちかずひろ氏によるものと知り、原作も読みたくなった。1年経ち、ようやく読めたのが本書である。

いささか乱暴な言い方をすると、映画は状況描写、小説は内面描写が本分である。とはいえ、映画版は俳優陣の演技が素晴らしく、内面の心理がスクリーン越しに伝わってくるものがあった。しかしその前提となる背景説明が映画版では省かれており、登場人物の行動に裏付けが取れない印象を受けた。小説版ではそのあたりがどう書かれているか、知りたい想いが強かった。

実際に読み終えて思ったのは、映画版とほぼ同じであった。つまり、残念ながら背景説明はあまりなかったということである。護送SPの一人一人にもう少し背景描写があればよかったのに、という思いは変わらなかった。本書を書くにあたり、著者が筋運びのテンポを臨場感に並々ならぬ努力を掛けたことはよくわかる。だが、状況説明、つまり登場人物の深みがより書かれていればもっとよかったのにと思う。これは著者に失礼を承知で書くのだが、漫画というメディアが小説と映画の中間でも、映画寄りに位置していることが関係しているのではないだろうか。

本書が小説デビューとは思えぬほど面白い小説だけに、映画版を先に観てしまった私のような読者からは、同様の感想があるのではないだろうか。でも、また機会があれば次作も読ませて頂きたいと思っている。

’14/05/03-’14/05/03


藁の楯 わらのたて


とにかく俳優陣の演技が素晴らしい。とくに主人公演ずる大沢たかおさんは、プロ意識と個人的な思いの狭間で葛藤する様が見事である。

護送する側の5人のそれぞれに抱えた職務への責任と、内に隠した事情を隠してのせめぎ合いは、不自然さを少しも感じさせないし、護送される側の藤原竜也さんの、自分本位な犯罪者、くずっぷり演技は見惚れるばかり。それ以外の脇役陣についても、役柄に溶け込んでいて、演出について手抜きはない。

以前、東京国際映画祭に招待されてからというもの、日本映画を見る機会が増えたが、テレビでは見られない演技力の確かさには毎回驚かされる。

それまであまり日本映画を観てこなかったことに後悔するばかりである。

ストーリーについては、原作は未読であり、そちらを読まない限り、プロットに対する評価はアンフェアと思う。

ただ、原作では、もう少し護送する5人の側の背景が描かれていたのではないだろうか。映画化にあたっての尺の都合は理解するものの、もう少し背景が描かれていれば、と思う。

また、ラストの場面では場を盛り上げるためとはいえ、あれほどの大舞台を作り上げるのはどう考えてもおかしい。それまで積み上げてきた諸設定が台無しになってしまった気がする。せめて蜷川が顕れるのが、賞金を取り消してからなら、説得力があったのに・・・・惜しい。

でも、ラストの藤原さんのセリフは、あのセリフに本作の深みがあると思うだけに、素晴らしい。

本作があの「ビー・バップ・ハイスクール」によって描かれていたことも驚いた。いつの間にか小説家としても活躍されていたとは。本作を観て、原作も読んでみたいと思う。

最後に、、、メインスタッフの一人と以前、名刺交換をさせて頂いたことに気づいた。おそらくはあの方のはず・・・びっくり。

2013/5/18 ワーナー・マイカルシネマ新百合ヶ丘