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運を天に任すなんて―人間・中山素平


自分が政治の世界に身を置いてみたところで、彼らを凌ぐような実績を残せる域にはまだ達していないと思うだけに、今の政治家の体たらくについてはあまり批判したくはないけれど、戦後の日本の高度成長を支えてくれた先達と比較して、これはという巨星が少ないような気がする。

日本の戦後復興にあたり、財界が果たした役割についての異論はないと思うけれど、財界に錚々たる人物が揃っていたことが、どれほど日本に発展をもたらしたか。

今までに様々な方を取り上げた評伝を幾冊も読んできたけれど、彼ら成功者と言われる方々に通ずるのは、運や能力よりも、意思の力が強い事ではないかと思う。特に会社勤めの頃よりも独立した今、そのことを感じるようになってきた。もとより自己啓発本の類はあまり手に取らない私だけれど、おそらく同じようなことが書かれているのではないかと思う。

本書のタイトルは、組織の中で理不尽とも思われる流れに逆らうことなく生きぬき、財界の重鎮となった中山素平氏に対して著者が言った言葉に対し、中山氏が返した強い反発の言をもとにしている。

中山氏の一生を概観すると、大勢の流れに抗せず、あるがままに生きたように見えるエピソードがあるため世間ではそのように評する向きもあったようだが、中山氏の中では、大したことでない場合には我を見せず、ここぞというところで意思を通したことに誇りを持たれているのだと思う。

実際、本書の中では中山氏の物事に拘泥しない普段のエピソードとともに、強固な意思の強さを表すエピソードも描かれている。その両のエピソードの結果として氏の社会的な実績が築きあげられたように受け取れた。

平素に柔軟な氏の人柄があったからこそ、肝心な時に意思を通せたのだということがよくわかる。どちらかが欠けても駄目なのであり、そのバランス感覚と、いざというときの抑揚、つまりメリハリの重要性が人生の荒波を乗り切るに有効であることを教えられる。

今年の一年をメリハリ、に置く私にとっても非常に参考になる生き方である。

’12/1/28-’12/1/30


赤朽葉家の伝説


著者の作品を読むのは「私の男」について2作目。

こちらの作品は、私が好むラテンアメリカ諸作家ののマジックリアリズム的な感じが強いとのことで、期待していました。

山陰という場所を選んだのも絶妙で、戦後からの日本の近代史にマルケスのような世界を築き上げるのは無理でしょうと思っていたらそれを成し遂げてしまっている。うーむ。。すごい。

大江健三郎氏の「同時代ゲーム」はもっと神話的な感じが強いので、リアリズムというよりは小説世界として没入できたけれど、こちらはリアルな日常を小説に取り入れつつ物語を進めている。

ただ、そういう風に読み進めていくと、最後の章で期待を裏切られてしまう人もいるかも。私は推理小説も好きな人なので、却ってマジックリアリズムを超えた、という印象が残ったかも。(もちろんどちらがより優れているかとかいうことではなく)

’11/10/14-’11/10/15