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決断プロフェッショナル-失敗しないための思考と技術


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本書は決断について実践的かつ簡潔に書かれた本である。「決断」をスピーディーに下すことは容易だ。しかし、決断を迅速に正しく下し続けることは実に難しい。以下、私自身のメモを兼ねて本書の内容を簡潔にまとめてみた。

本書は決断の過程を大きく戦略・戦術・実施の3つに分類する。

1.戦略には、ゴール・目的が含まれる。ゴール・目的とは、何をなすべきか、どこをねらうか、のこと。つまり、以下の4項目について考え抜くことと同義である。

・ベーシックな認識を確実にする。
・デザイヤー(ありたい姿)を明らかにする。
・モービルエンジン(戦略機動力)を突き止める。
・ゴール(方向づけ)を設定する。

・ベーシックな認識を確実にする。とは以下の三つ。環境の変化(社会的価値の動き、技術の進歩)に常に目を配ること。競合する対象を考慮にいれ続けること。自らの保有する「能力」「資産」「経験」を把握すること。

・デザイヤー(ありたい姿)を明らかにする。とはこれまでの自らの経験を成功失敗ともに反芻し、それをもとに自らのありたい姿をイメージする事。

・モービルエンジン(戦略機動力)を突き止める。とは自らの強みやコアコンピタンスを理解する事。

・ゴール(方向づけ)を設定する。とは上記3点を踏まえ、具体的な目標を策定すること。

2.戦術には、状況把握、原因究明、選択決定、将来分析が含まれる。

状況把握とは何が問題か、のこと。それには、まず以下の4点を明確にすること。

・問題点を列挙する。
気になること、放っておけないこと、チャンスと思われること、何とかしなければならないこと、について書けることはいくつもあるはず。

・事実情報にこだわる。
予測や勘、対策、案ではなく事実こそが重要。

・課題(行動計画/アクションプラン)化する。
「まずいことには原因あり」と認識し、原因を究明する。「決めたいことには案があり」と認識し、案を考える。「したいことにはリスクあり」と認識し、リスク/チャンスを考える。「知りたいことには調査あり」と認識し、事実情報の不足分を調査する。

・優先順位をはっきりさせる。
今自分にとって最も影響のあることを重大性として捉える。最も早くやらなくてはならないことを、緊急性として捉える。将来において影響が増大するものを、拡大性として捉える。

原因究明とはなぜそうなったか、のこと。それには、まず以下の4点を明確にすること。

・差異を明らかにする。
あるべきことと現実の姿の比較が重要。

・情報整理をすばやく行う。
現実におこったこと、起こってもよさそうなのに起こらなかったこと。の2つの視点に、「何が/誰が」「どこで」「いつ」「どのくらい」を掛け合わせる。

・情報の品質を問う。
情報の特異点と変化を見極め、その情報の質を信頼できるものか吟味する。

・想定原因を情報で保証する。
上記3点から情報を整理し、原因の究明を補強する。

選択決定とは最善策は何か、のこと。それには、まず以下の4点を明確にすること。

・案、選択の目的を明らかにする。
多くの選択肢を出した上で、常に案や目的を出し続けることが重要。

・目標や条件を列挙して評価する。
必須でありかつ計量判定できかつ現実的なことの目標条件と、それ以外の目標条件を分類する。

・複数案を考える。
目標条件から、出来る限りの案を考えることが、成功の可能性を高める。

・リスクを考える。
上記3案を考え抜くと、駄目だった場合の起きうるリスクも明らかになる。また、基準にもなる。

将来分析とは将来大丈夫か、のこと。それには、まず以下の4点を明確にすること。

・達成するポイントを定める。
いつまでに、なにを、どの程度、どうするの設定が重要。

・重大領域をチェックする。
日常のルーティンワークと決断を必要とする重要領域をはっきり分けること。

・リスクとチャンスを整理する。
将来起こり得るまずいことと良いことを考えておく。

・対策には事前と事後がある。
リスクを考えても、いざことがあった場合、できるだけ影響を抑え、対策を打つことが必要となる。

3.実施には、実施分析が含まれる。実施分析とは、それは達成できるのか、のこと。そして、選択決定とは最善策は何か、のこと。つまり、以下の4項目について考え抜くことと同義である。

・ワークを細かく分ける。
・役割分担をはっきりさせる。
・進行上の重点チェックを考える。
・経験の映像化を図る。

・ワークを細かく分ける。とはガントチャートやWork Breakdown Structureまで作業を落とし込むこと。

・役割分担をはっきりさせる。まさに担当や権限の設定である。

・進行上の重点チェックをする。とはマイルストーンやチェックポイントの設定であり、その結果の検証を意味する。

・経験の映像化を図る。可視化にも通ずる。脳内にため込むだけではなく、アウトプットが必要。成功も失敗も。

さて、ここまでが本書の第一章である。ここまでが把握できれば本書を読んだ意味があるというものだ。私にとって決断の過程は三つの意味で重要だ。一つは請け負ったプロジェクトの遂行。もう一つは会社としての成長。最後の一つは家長として家族を守ること。また、最初の一つについては、そのことを体得するために活きた現場を体験している。私は今の現場でPMOの仕事に何年か携わっている。PMOの仕事に就いていると、プロジェクト遂行のための決断に始終触れることになる。プロジェクト統括チームとして、このあたりの意識は嫌が応にも求められる。それこそが私がPMOという職務に飛び込んだ狙いだった訳だが。

この現場で得たことは本書でいう決断プロセスの集合こそがプロジェクトということだ。集大成とも言える。それがうまく機能すればプロジェクトは成功となり、滞るようであればどこかに欠陥があったわけだ。こちらの現場で得た教訓は私自身、また、弊社自身で取り入れていかねばならないと思っている。

第二章では、実際の決断の事例を見て、リーダーが第一章のそれぞれのチェックをどうやって行ったかをみる。ケーススタディとなるのはキューバ危機における米ケネディ大統領の決断である。もう一つは宅急便を創始したヤマト運輸の小倉昌男社長の決断である。

それぞれの決断のプロセスが第一章の各項と照らし合わせて解説される。本章を読むことで第一章の各項の意味がより把握できるのが狙いだ。

第三章は、読者も考えられるよう、3つの例を元に共に考えようという章だ。1つめは電機メーカーの在庫滞留の原因について。2つめは海外の複合機製造プラントでのラインの品質管理に関する者。3つめは核家族の家族運営について。この章もトレーニングとして使える章だ。特に三つ目については経営者でなくとも重要だ。一従業員としても、家庭を持った以上は決断をしなければならないことはいくらでもある。それは子供を育てたり配偶者と家庭を作り上げていくという大切な役目にも繋がる。仕事ばかりにかまけるとここが疎かになり、家庭も崩壊してしまうことになる。

第三章まで読んで思うのは、実は本書はビジネスシーンだけに効く書ではないということ。もちろんビジネスの現場でも決断は随時求められる。が、家庭を運営する上でも決断の連続であることは案外気づかないものだ。しかし日本人の教育課程において、決断という訓練はなおざりにされがちだ。だが、そこを怠ると次代を担う子供たちの成長にも阻害が生じる。決断という行為はもっと国民全体に教えられてしかるべき。そういう意味では、本書はビジネス書としてだけでなく、人生の書としても読める。

‘2015/10/20-2015/10/25


被災地の本当の話をしよう 陸前高田市長が綴るあの日とこれから


最初に断っておくと、私には東日本大震災について語れる何物もない。知識も資格も。あれから4年の歳月が経とうとしているが、発生後、東北には一度も行けていない。いや、一度だけ行ったことがある。それは一昨年の夏、地震発生から二年半後のこと。家族でいわき市のスパリゾートハワイアンズに行ったのだが、気楽な観光客としての訪問であり被災地の皆様に貢献した訳ではない。

阪神・淡路大震災の被災者として何も出来なかった。そんな自分に未だに収まりの悪い想いを抱いている。仕事の忙しさや恩人である先輩の逝去による精神状態の悪化などはもちろん言い訳にならない。

私が貢献したことがあったとしても微々たるものである。幾ばくかのチャリティー品を買うのが精々。本書も実は、チャリティー品として売られていたものである。

著者は、東日本大震災発生当時の陸前高田市長である。そして、今もその任務を遂行されておられる。加えて、私の娘が通う中学の大先輩にも当たる。そのご縁から、毎年行われる学校見学会に陸前高田市の応援ブースが設けられている。ブースには被害状況や、復興状況のパネルが展示されており、私も見学させて頂いた。また、ブースでは陸前高田市の物産も販売されている。前年に訪問した際は食品しかなく、昆布やサイダーを購入したのだが、今回の学校見学会で訪れてみると、物産の横に本書が並んでいた。迷うことなく購入した。

私の本購入の流儀は積ん読である。購入してしばらく経ってから読み始めることが多い。しかし、本書は別である。積ん読扱いを私の中の何かが許さなかった。

本書は、地震に遭遇した著者の綴った記録である。被災自治体の長として、夫として、父として、家長としての行動が率直に綴られている。己に与えられたこれらの役割のどれも疎かにせず全霊で災害に当り、奮闘にも関わらず想像を絶する津波の猛威になすすべもなく呑み込まれて行く様が記されている。奥様が津波に呑まれ行方不明になる中、自治体の長としての職務を放棄せず、母を亡くした我が子に対する父としての接し方に自己矛盾と葛藤を抱える。本書の記述は、現場の惨状を見、それに率先して立ち向かわなければならない著者にしか書けない血の通った内容である。

涙が出た。著者の直面した重い日々に。それを堪え平静に綴られる文章に。そして何も出来なかった自分に。

本書を前にすると、数多のブログ、数ある新聞や雑誌、何度も行われた永田町での記者会見が霞んで消える。ジャーナリズムすら無力に思える。

家族とは、仕事とは、責任とは。頭で理解した振りをすれば、そう振る舞えるのが大人。東京電力や当時の首相の対応に苦言を発信するのも簡単なIT社会。しかし、そのどれもが本書の前ではカゲロウのように薄い。ほとんどの意見は紙のように軽い。本書のレビューを書いている私も同様で、著者の痛みや苦しみを理解したとはとても言えない。

しかし、この本が私に与えた影響は小さくはない。それは、地域のコミュニティについての気付きを与えてくれたから。法人化という目標を立てた私にとって、本書が与えてくれた何かは確かに伝わった。そしてそれは、私の中で着実に育ち始めている。

本書を読み終えて、数ヶ月経った今、私が被災地に行ける目処は立っていない。しかし、社会起業としての生き方に向け、舵を切りつつある自分がいる。いつか、何かのご縁で、被災地の力になれれば本望である。

著者は業務多忙の中、娘の中学に大先輩として、話しに来て頂いたと聞く。先ほど娘に聞いたところ、「よく、『被災地に何が必要ですか』と支援者から聞かれる。でもそれは実際に被災地に来て、その目で被災地の状況を見た上で、御自身で考えて頂きたい」という部分が印象に残ったようである。どういう話をされたのか、我が娘に何が託されたのか、それは知らない。しかし、著者の言葉は私の娘へ確かに伝わったようである。私が本書から受け取った想いのように。

2014/9/6-2014-9/6