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有頂天家族


京都には、あやかしのモノが似合う。

江戸にみやこの座を貸し出したとはいえ、千年以上みやことして栄えた京都。平安の御代から偸盗が跳梁し、あやしのモノどもが跋扈した街。あまたの戦乱に耐え、今に碁盤の目を伝える街。今に至ってもなお、愛想良い笑顔の陰で一見さんを排除する街。

日本の歴史を見続けてきたその懐は、果てしなく深く、そして暗い。

科学万能の今でも、この街にはあやしの類いがよく似合う。狐狸や天狗、蛙の類いが。

本書には、そのいずれもが登場する。普段は人間の振りをしながら京都の街に長らくのさばり、世の移り変わりを眺めてきた人外のモノ共。

しかし人外と云っても、本書に登場する彼ら彼女らは陰惨で残忍なモノノケではない。逆。長い間、人に化けることを営んできたからか、その言動には果てしなく 愛嬌が付きまとう。人並みの感情を持ち、人情の機微を解し、悩みもすれば有頂天にもなる。実に愛すべき「もののけ」たちである。読者は本書を読み進めるにつれ、もののけの彼ら彼女らに強く惹かれるに違いない。

本書は、奇妙奇天烈な能力の持ち主である登場魔物たちが、京の街を縦横無尽に駆け巡る物語である。

若いおなごに耽溺し、落ちぶれた天狗はただ情けなく。狸一族を統べる頭領一家も兄弟は仲が良かったり喧嘩したり、はたまた世をはかなんで井の中の蛙に化けたりと忙しなく。頭領の母は宝塚ミーハーとして夜な夜な男装の麗人に成りすまし。

そんな愛すべき狸達と老いぼれ天狗が、賑やかに、猥雑になった京の街に自分達の居場所を求め、懸命に生き、そして戦う。戦いと云っても、ただただ野放図な能力をばらまき、当り構わず好き放題で、読んでいて喝采を叫ぶこと間違いなしである。

たまに萎れたり、舞い上がったり、水面に映る自分に涙したりしながら、彼ら一家の表情はどこまでも明るい。有頂天一家の題に恥じない楽天家ぶりである。そのパワーには、怪しげで暗いはずの京の町を陽気なエネルギーに溢れたるつぼへと返る。

楽しく、明るく、充実した狸一家は、どこまでも人間臭く、モノノケにもケモノにも思えなくなる。人間がしかめ面して悩むのと、彼らの切実な悩みとどちらが高尚か。そんな問いなどどうでもよくなるほど、笑い飛ばしたくなる。そんな快活な作品が本書である。

‘2014/09/08-‘2014/09/12