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シンプルに考える


先日レビューをアップした「WORK SHIFT」は第一回ハマドクで取り上げられた一冊だ。その内容は起業したての私に大いに示唆を与えてくれた。まさにビジネス本読書会のハマドクに相応しい本であった。

第一回ハマドクから一ヶ月を経て、第二回ハマドクが催された。そこで取り上げられたビジネス本が本書である。

著者は社長として、LINEのサービス開始から飛躍までを引っ張った人物として知られる。本書の内容もまた、LINEプロジェクトの中で著者が実践した経営・組織についての考えを軸に編まれている。

長時間の定例会議、大部な報告書作成。組織が肥大化するにつれ、増えてゆく作業だ。これらは云うならば組織運営のためだけに発生する作業である。組織を維持するためのイベントや作業が企業内で蔓延し、本業に関係ない作業が増え続けてしまった状態。それをいわゆる大企業病と呼ぶ。本来ビジネスに必要なのは、対顧客への直接的なサービスだけのはず。しかし、顧客へ提供するサービスの背後では、内部統制や組織運営の名の下に間接業務が増えていく。それらの多くは報告の為の報告、会議のための会議に陥りがちだ。対顧客サービスには直接関係しない間接作業は、企業の意思決定を鈍らせ、場合によっては歪ませすらする。複雑となった組織では、得てして経営者の想いが反映しづらくなるものだ。

著者が本書で言いたいことは全て題名に込められている。「シンプルに考える」。タイトルからしてシンプルそのものであり、著者の考え方そのものだ。

著者は本書で軽量で機動的な組織運営についての考えを語る。本書はマニュアル本でもノウハウ本でもない。具体的な方法が載っている訳でもない。しかし、本書の全体で著者の考えが充分に示されている。それらを実践した結果がLINEプロジェクトであり、LINEサービスなのだ。

今でこそ様々な機能が盛り込まれているが、LINEの本質とはテキストとスタンプによるメッセージツールといってもよいだろう。その背後にある哲学はシンプル極まりない。そして著者の唱える「シンプル」が成果となったのがLINEである。それに比べると大抵のWebサービスは機能を盛り込もうとしがち。その結果、複雑なインターフェースや機能が盛り込まれたサービスになってしまい、ユーザーからそっぽを向かれる。そうやってユーザーの支持を失っていったサービスは枚挙に暇がない。しかし、LINEの背後には「シンプル」という著者の哲学がある。顧客のニーズを追求した結果、シンプルな機能以外をそぎ落としたサービスとしてLINEは世に出た。それは複雑という名の袋小路に入り込んだSNSやメッセンジャーとは一線を画す。サービスをシンプルに、顧客ニーズに合わせたことがユーザーに支持され、世界進出するまでになった。LINEプロジェクトを率いた著者の哲学とLINEのサービスはまさに表裏一体。本書の読者は、行間の至るところでLINEのインターフェースを思い浮かべることだろう。

はじめに、で著者は問う。会社にとっていちばん大切なことは何か?と。そしてすぐに答えを示す。ヒット商品をつくり続けることであると。それにはどうすればよいか。ユーザーのニーズに応える情熱と能力をもつ社員だけを集める。そして、彼らが、何物にも縛られず、その能力を最大限に発揮できる環境をつくり出す。シンプルに考えるとは、このように問いと答えが一本の線で繋がっている様をいうのだろう。そこには大企業病の入り込む余地はない。

本書は以下、組織を運営する上で、著者が感得したシンプルな考えの数々が披露される。

実はそのほとんどは、はじめに、で列挙されている。それもシンプルな言葉で。

「戦わない」
「ビジョンはいらない」
「計画はいらない」
「情報共有はしない」
「偉い人はいらない」
「モチベーションは上げない」
「成功は捨て続ける」
「差別化は狙わない」
「イノベーションは目指さない」
「経営は管理ではない」

各章で著者が述べるのは、これらフレーズを分かりやすく砕いた説明に過ぎない。だが、その実践は簡単ではない。著者のいう内容は、実は今までは一般の経営者にとっては理想論でしかなかった。経営学の実務でもまともに取り上げられなかった類の空論といってもよい。例えば報告の廃止、研修・教育を前提としない、研究や開発部門の撤廃、経営理念・計画の除外といった施策の数々。企業を利益を生み出すプロフィット部門と利益を生み出さないコスト部門に分けるとすれば、これらの作業は全て組織のコスト部門に属する。コスト部門のスリム化は、大企業経営者なら誰もが思い付くことだ。しかし著者が実践したような大幅なカットは、組織運営の実務を考える上では異端の手法といってもよい。著者は普通なら理想論として一顧だにしないことを実践し、LINEを世界に通用するインフラアプリに育てた。

その秘密とは、はじめに、で著者が記している。上にも書いた「ユーザーのニーズに応える情熱と能力をもつ社員だけを集める」がそれだ。とくに「だけ」に傍点が振られていることに注目しなければならない。著者の論点の芯とは、目標設定とコミュニケーションに長けた社員「だけ」を揃えることなのだから。そういった社員にはそもそも教育が不要であり、日報による達成度の報告も不要。余分な内部統制がなくとも自律的に組織の意を汲み、能動的に動く。そういった「使える」社員で組織を揃えるということだ。なので社会人として未熟かつ能力未知数な新卒採用など論外。組織の意図を瞬時に汲み取り、プロダクツに反映させられる人物のみを中途採用で集めれば、間接業務は極限まで省け、なおかつ統制の取れたチームワークのもと、時代の求めるプロダクツが送り出せる。そのプロダクトこそがLINEではないかと思う。

念の為にいうと、LINEプロジェクトの就業実態はブラックでもなんでもないと思う。むしろ逆だろう。高い目標が設定されたとしても、それを越えるだけのスキルとハートを持った人の集まりなのだから。著者のLINEチームが結果を出せたのも、そもそもメンバーが優秀だから。という当たり前の結論に落ち着いてしまう。

こう書くと、私が本書に対しネガティブイメージを持っているように捉えられるかもしれない。しかし、それは違う。むしろ本書にはポジティブイメージしか持っていない。というのも採用業務の重要性をここまで雄弁に語ったビジネス本にはまだ出逢ったことがないからだ。

いくらITが発達しようとも、所詮ビジネスとは人の営み。人あってのビジネス。ビジネスを成功させるにはいかにして優秀な人物を集めるかに掛かっている。そんな根本のことが、本書には記されているように受け止めた。

ただし、私は本書をポジティブにとらえてはいるが、一つ重大な疑問をもっている。それは、著者がLINE社長を退任した理由だ。著者は2003から2015年までの12年を過ごしたLINE社を退任した。はじめに、でその事が書かれている。また、その理由として、著者にとっての役目が終わったから、という説明が付されている。

確かにそうなのかもしれない。LINEはいまやコミュニケーションに欠かせない手段となっている。インフラといってもいい。ここまでLINEを世に認知させたことで、著者の役割が終わったという理由には確かに一理ある。だが、退任の理由とは単にスタートアップを率いた著者の役目が終わったからなのだろうか。言い換えれば、著者が本書で述べた手法とは、サービスのスタートアップ時には有効だが、保守フェーズに入った企業には用いづらい手法だから著者はLINEプロジェクトを離れたのではないだろうか。

心なしか、著者が辞任してからというもの、LINEサービスの体系が複雑化している気がしてならない。サービスのラインナップは増えているが、それがLINEの良さであるシンプルさを失わせないか気になる。

著者はLINE辞任後にC Channel株式会社という新会社を起こしたという。 本稿を書いた時点では1年半しか経っておらず、まだまだこれから成長してゆく企業なのだろう。LINEサービスの今後とともに、著者の新会社の行方を見守っていきたいと考えている。その二つのサービスのこれからに、著者が本書で述べた経営哲学の成否が顕れてくるのではないかと期待しつつ。その結果、日本的経営という20世紀の神話のこれからが見えてくるのではないかと思う。

‘2015/9/23-2015/9/23


2期目を迎え、2週間を経ての所感


4月に入ってから、ワークスタイルを少しだけ私の理想に近付けています。

Facebook静かな自宅では開発を集中して好きなだけ行い、一方では営業に商談に交流会にセミナーに自由に動き回る。といったような。もちろん、それにはリスクも覚悟も伴います。バランス感覚がより一層求められることは言うまでもなく。そんなわけで、今日から外回りの際はネクタイを締めることにしました。身だしなみ云々よりも自分のけじめのために。

今日は練馬のお客様の下へ訪問させて頂きました。社長様より経営哲学をじっくり聞かせて頂き、会社内も存分に見学させていただきました。実に見事な運営ぶりや、社員様やパート様との関係を実に上手に築いておられる姿に、感銘しました。アナログとITの長所が実にがっちりとかみ合っている運営を見るにつけ、非常に刺激になりました。ありがとうございました。

弊社も今後は人を雇って作業を分担していかねばなりません。すでに4月から一部の作業についてはお手伝いをお願いし始めています。でも人を自在に使いこなし、適材適所に相乗効果を発揮してもらうレベルに達するにはまだまだ私自身の精進が必要です。努力すべきと思っています。

4月に入ってからは、私自身の開発者としてのスキルをもう一度磨き直すべく、あえてタイトな納期のLAMP案件を請け、CUIでの操作も含めた開発・テストに没頭しています。一方ではkintoneエバンジェリストとしての動きを活発にしています。kintone Café 埼玉 vol.1の事務局を担当し、さらには別のkintone Caféの準備メンバーとしても動いています。そういった動きを重ねることで、人前でしゃべる技術を磨くという私自身の課題も少しずつ前に進んでいるように思います。今後もそのような場で登壇の場数を重ねるようにして、少しずつ経営者としての実践を身に付けて行きたいと思っています。

kintone案件のコンサル兼開発担当も2月から請けさせて頂いているのですが、そちらでも追加開発のご用命を頂きました。さらには今日、ありがたいことに別のお客様からもkintone案件をご用命頂きました。何とかkintoneエバンジェリストとしての顔でも、少しだけ見せられるようになってきたかな、と思っています。

ただ、私自身のマンパワーも限られています。開発とテストと営業と商談に加え、常駐先での作業もまだ続きます。トイロハさんへの記事アップは2週間ほど出稿出来ていません。トイロハさんは今後も続けていきたいと思っております。そんなわけで、交流会の出席はかなり厳選しなければ、と思っています。今日お話を聞かせて頂いた経営者の方も、交流会は厳選して参加されておられるとか。私も少し見直す時期が来ているのかもしれません。

でも、お蔭さまでなんとか4月からのワークスタイル変更もいい滑り出しを見せています。これも皆さまのお力添えの賜物と感謝しております。その場限りの儲け目当てではなく、お互いが永きにわたって良い関係を得られるよう、引き続き努力していきたいと思っております。

今後ともよろしくお願い申し上げます。