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アクアビット航海記 vol.40〜航海記 その25


あらためまして、合同会社アクアビットの長井です。
弊社の起業までの航海記を書いていきます。以下の文は2018/4/5にアップした当時の文章が喪われたので、一部を修正しています。
今回は正社員として担うことになったさまざまな業務について語ってみます。これらの経験はどれも私の起業に役に立ちました。

正社員としての任務


さて、当時の私がぶち当たっていた壁。それは家の処分だけではありません。
仕事の上でも私にとって乗り越えるべき試練が次々に押しよせていました。
今回はそのことを書いていこうと思います。どれもが”起業”には欠かせない経験でした。

本連載の三十三回でも書いた通り、スカパーカスタマーセンターの運用サポートチームに引き上げられ、パソナソフトバンク社の正社員にも登用してもらった私。
正社員になってしばらくして後、私の現場での肩書は”集計チーム マネージャー”へと変わりました。

正社員になったことによって、私に求められる役割はさらに増えました。集計チームのマネージャーとして現場の集計業務を管理しながら、派遣元であるパソナソフトバンク社の業務にも貢献することが求められていきます。
立場が変わるとやるべきことも増える。そのあたりのいきさつは本連載の三十一回でも少しだけ触れています。

今回はその部分をもう少し突っ込んで書いてみたいと思います。

正社員になったことで私に課せられた新たな任務。それは大きく四つが挙げられます。
そのどれもが私にとって初めての経験でした。
今から思うと、これらの任務を経験したことは、後年の私が”起業”するにあたっての糧となりました
自分の仕事だけしていればよかった立場から、より広い視野へ現場の仕事だけが仕事ではないという気づき。この気づきを初めて得たのはこの時期だったように思います。

一つ目は、日々のオペレーター・スーパーバイザーさんの出退勤管理システムの保守。
二つ目は、お客様(スカパー社)への月次の請求書発行。
三つ目は、カスタマーセンターの外に出て、作業や商談で別のお客様を訪問。
四つ目は、現場のプライバシーマーク取得や、センター移動の担当としての作業。

システム保守の経験


まず一つ目のシステム保守です。
私が「登録チーム」や「集計チーム」で作業するために集計ツールをマクロで作ったことは本連載でも書きました。
とはいえ、それらはあくまでも自分のためだけに使うものでした。バグを検知するのも自分ならば、それを修正するのも自分。「登録チーム」で作った集計ツールは、同僚のスーパーバイザーからの要望やバグの指摘に対応すればよいだけでした。集計チームでも集計結果のずれなどを指摘されれば直しますし、自分で速度を上げるために改善を行っていました。ですが、使うのはあくまでも集計チームの中だけ。

ところが、私が保守の担当に任じられた出退勤管理システムの使用者の数はそれまでと二桁は違います。全てのオペレーターさんとスーパーバイザーさんを合わせると何百人が使うシステム。
皆さんは朝夕に打刻し、その打刻データは集計してスカパー社への月次の請求に使います。パソナソフトバンク社の事務スタッフだったMさんやSさんも使います。もはや、今までのように私だけが使うシステムではなくなりました。バグなどで動かなくなると端末の前にみなさんが並ぶのです。その列は、自分の管理するシステムが業務に影響を与える現実を私に教えてくれました。

その出退勤管理システムはこのような仕組みでした。
まず、それぞれのスタッフが持つ入館証代わりのカードに印刷されたバーコードを、館内の入り口に設置した端末のバーコードリーダーで読み取ります。Microsoft Accessで作られたそのシステムは、読み取られたバーコードを元に対象者と打刻時刻を内部テーブルに保存します。そのデータをパソナソフトバンク社のMさんやSさんがやってきてフロッピーディスクに保存し、別フロアのパソコンにインストールしてある分析用のアクセスに取り込みます。そのデータが月次の請求や支払のデータに加工されます。

私はこの出退勤管理システムの開発には一切携わっていません。私がカスタマーセンターに入る前からこのシステムは動いていました。このシステムの開発者にも会ったことがなく、仕様書もマニュアルもありません。すべては手探りの中、出退勤管理システムの保守を行っていました。

例えば、当時のMicrosoft Access(確か97でした)は、定期的に最適化をしないとデータ容量が肥大する仕組みでした。この出退勤管理システムは自動的に最適化を行うように作られておらず、たまに止まりました。止まると打刻ができないので長蛇の列ができ、私の元にアラートを告げる使者がやってきました。
それだと困るので、後日、最適化作業は自動で行えるように実装しました。

私が出退勤管理システムに対してやるべき保守作業は他にもありました。たとえばアクセス自体のバージョンアップや、リースパソコンの切り替えなどです。
そのたびに、私はMicrosoft Accessの仕様や機能を調べた上で作業していました。

保守担当が担う責任。それは私にとってステップアップでした。人に使ってもらうシステムに携わることは、自分の仕事の結果が人に影響を与える。それを私に教えてくれました。
今でこそ、私はさまざまなシステムの保守を行っています。が、この時が私にとって初めてのシステム保守の経験でした。まさに技術者の原点となる経験だったと思います。
この出退勤管理システムはMicrosoft Accessの仕組みを学ぶ良い教材でした。また、保守業務のコツのようなものを学べたのもこのシステムからでした。
今さら、支障もないと思うので、システムの名前を書いてしまいます。この出退勤管理システムはMareと名付けられていました。ありがとうMare。なんの略かは忘れましたが。

請求業務で金銭の厳しさを


二つ目は、お客様への請求書を作る任務です。
パソナソフトバンク社からは、何百人ものオペレーターさん、数十人のスーパーバイザーさん、十数人のマネージャーさんがスカパーカスタマーセンターに派遣されていました。当然、毎月の労働に対する請求をスカパー社へ提出しなければなりません。私はこの請求書の作成担当に任命されました。
上に書いたMareで集計したオペレーターさん、スーパーバイザーさんの勤務時間を取りまとめ、さらに別報告で集計されたマネージャーさんの勤務時間を加えます。
これらを月末で締めた後、翌月の第何営業日までかは忘れましたが、スカパー社のご担当者に請求書として提出する。それが私に課せられたタスクでした。

この作業が大変でした。多くのスタッフさんの請求額ですから、金額も膨大な額に上りました。作りあげた請求書に記載される額面は、20代の私には遥かな高みでした。
さらに請求書は業務ごとの案分が組み込まれ、特殊な計算式がてんこ盛りでした。毎月のように請求書のレイアウトは変わり、Excelのマクロ(VBA)による省力への試みを拒みます。
関数の位置がずれ、結果に矛盾を生じさせるたびにご担当者さまのお叱りを受ける。そんな毎月でした。私は月末と月初はこの作業に懸かりきりになっていました。

当時の私にとって、この作業はことのほか難しい作業でした。でも私は、この任務によってExcel関数をより効率的につかうすべを身につけたように思います。
そして、請求とはシビアな営みであり、間違うととんでもないことになる緊張感を学びました。請求とは厳密さが求められ、たとえ一円でもゆるがせにできません。商売の基本となる素養をこの時期に培ったことは、私の”起業”にとって大きな糧となり、“起業”した今もなお私の中に生きつづけています。とても得がたい経験をさせてもらいました(もっとも私の値段設定や財務管理にはいまだに反省すべきことが多いのですが。)
あまりにもやりとりが密に行っていたせいか、スカパー社のご担当者の方と年賀状をやりとりするまでになったのは懐かしい思い出です。

商談に臨み、視野を広げる


三つ目は、外部への訪問です。
当時のパソナソフトバンク社にとって、スカパー社は大口のお客様だったはずです。ですが、スカパー社だけがお客様ではありません。
正社員に雇用された私には、他のお客様でも売上を立てることが求められました。その要請に従い、私はスカパー社以外のお客様を訪問するようになりました。例えば集計の仕組みを作るためお客先のもとに赴いたり、商談に同席するために外出したり。

パソナソフトバンク社では社員向け研修の一環として、名刺の交換などのビジネスマナー研修を行っていました。私もその研修でビジネスの初歩のノウハウを吸収しました。
ただ、研修では実際の商談までシミュレーションしてくれません。そして、商談はいつも本番です。商談への同席など、それまでの私の三十年足らずの人生で未経験でした。

パソナソフトバンクにいる間、私が単身で商談に臨むことはありませんでした。そもそも商談の進め方もわからず、何をどう準備すればよいのかも知らない当時の私が商談などできるわけがありません。まず私は、商談への同行から経験を積みました。商談の場に同席し、営業担当者の横でコクコクとうなづくだけのさえない若輩者。それが私でした。何もかもが不慣れで、全てが見習い。どの時間も勉強でした。

でも何度か商談に臨むうちに、言葉も挟むタイミングがおぼろげに理解できるようになりました。横に座っているだけなのも芸がないので、何かしようと口をはさむようになりました。
最初はうなづくだけだった私も、何度か商談に臨むうちに徐々に商談の空気感を体得していったように思います。
この時、商談の経験を踏めたことが”起業”した今では役に立っています。私を商談に臨む機会を与えてくれたパソナソフトバンク社には感謝です。正社員のお誘いを受諾してよかったことの一つだと思っています。

コンプライアンス意識の醸成


四つ目の任務では、コンプライアンスの意識を学びました。
今の私はコンプライアンスなどの横文字言葉を平気で口にします。でも当時の私はそんな言葉など知りませんでした。ましてや当時はY2K問題の記憶もまだ新しい頃。プライバシーを守る風潮もセキュリティを順守する意識もまだ世の中には根付いていませんでした。
そもそも当時はSNSなどごく一部の方のものでした。アンチウイルスやファイアウォールのソフトウエアをインストールし、怪しげなメールの添付ファイルは開かず、Windows Updateをきちんと実施していれば無問題だった古き良き時代です。

ところが、カスタマーセンターとは個人情報の宝庫です。ですから個人情報保護が至上の指針となるのは当然です。
上に書いたような普通の対策で済みません。きちんとした個人情報保護の対策をとっていますよ、と世の中に知らしめる必要がありました。
そこで、スカパーカスタマーセンターはお客様に安心していただくためにセキュリティ認証を取得することにしました。その認証とはプライバシーマーク。
ところがプライバシーマークを取得するのはそう簡単にはいきません。そのため、スカパーカスタマーセンターに参画していた各社ベンダーにも協力を仰ぎ、センターを挙げて取得へまい進する指令がくだりました。パソナソフトバンク社もベンダーの一社です。そしてパソナソフトバンク社の担当者として任命されたのが私でした。

言うまでもなく、当時の私にセキュリティに対する深い知見も現場をリードできる力量もありません。会議では席に座っているだけでした。やることといえばスカパー社の求める調査項目を入力し、各チームに調査を依頼するぐらい。
ただ、この時にプライバシーマーク取得のための実務を経験できたことは、私にとってまたとない財産となりました。なぜなら個人情報を保護する作業がどれほど大変で労力を要することか、身をもって知ることができたからです。
プライバシーマーク取得に向けてやらねばならないタスクはクリアデスクや施錠の励行だけではありません。書類の管理者やごみの捨て方、ごみを廃棄する方法やごみ廃棄業者の管理監督まで事細かく決めねばなりません。それほどまでに大変な作業をへて、ようやくセキュリティやプライバシーが保てるのです。

私はプライバシーマーク取得の担当になったことで、セキュリティ遵守の意識が身につきました。これは大きかった。なぜなら後年、私が独立し、何カ所もの開発センターを渡り歩く上で求められるコンプライアンス意識が事前に身につけられたから。”起業”した今もそうです。
むしろ、通常の業務が多すぎるのに、いちいちセキュリティに意識を払っていては業務に支障を来たします。無意識のうちにコンプライアンスを実践できるぐらいでなければ。機密保持のための行動など呼吸をするかのように無意識にこなせなければとても”起業”など務まりません。そのための「無意識の意識」を私はプライバシーマークの担当者の任務から会得しました。

もう一つ、私がベンダーの担当者として参加したことがあります。それはカスタマーセンターの移転・増床の作業です。この時もわたしはお座り担当で、あまり大したことはできなかったように思います。ただ、この時に大規模なセンターの移転の現場を体感できたことも、後年の私にとっては武器となりました。

今、株式会社スカパー・カスタマーリレーションズ様の会社沿革のページを見ると、この移転のことが年表に記されています。それによるとYBP内のセンターの移転は2001年の5月と書かれています。そして、プライバシーマークの認定取得は2003年6月と書かれています。
その間に行われたのが、日韓共催ワールドカップです。

日韓共催ワールドカップの前、カスタマーセンターは嵐のような日々でした。それはまた次回に。ゆるく永くお願いします。


図解明解 廃棄物処理の正しいルールと実務がわかる本


本書を購入した理由は、仕事で必要となったからだ。
廃棄物処理の一連の手続きをクラウド・システムで作る仕事で必要となった。

廃棄物処理は、扱う対象が破壊され、解体されている。また、複数の種類の廃棄物が混在していることもある。つまり、デジタルとはそぐわない性質を持っている。だから、業界全体でIT化がなかなか進んでいない。
逆に言うとこれからIT化が求められる業界でもある。

世の中のほとんどの商売は、サービスの提供元が顧客に商品を提供し、その対価として金銭をもらう。ところが廃棄物処理業に関してはそれとは逆に動く。
処分すべき品を顧客から受け取り、その処分料金を顧客から受け取る。つまり、通常の商いの場合であれば、サービスと金銭が逆の向きに動くのに対し、廃棄物処理の場合はサービスと金銭が同じ向きに動く。とても特殊だ。静脈物流と言う言い方もするようだ。
そのため、通常の商慣習に慣れた頭で考えると勝手が違うことが多い。

もう一つ、気を付けておくべきことがある。それは、提供されたサービスの行方が顧客には分からないことだ。
通常のサービスであれば顧客の手元にサービスの結果が残る。食品、飲食、モノ、ソフトウエアなど。だから、何かあれば顧客はサービスの提供元に文句が言える。提供されたサービスが気にいらなければ、今後は利用しないとの選択も取れる。
だが廃棄物処理は、サービスの動きが通常の商売とは逆だ。そのため、顧客は提供されたサービスの結果を確認することが難しい。
例えばだが、顧客に黙って処分すべき義務を負った業者が適切ではない処分をすることも可能だ。例えば不法投棄のように。実際にそう言う事例が頻発したためだろう、業界としてそのような事態を防ぐ仕組みが運用されている。

また、業者間で適切な処理がなされたかを確認するためのマニフェスト伝票がある。それは、対象の廃棄物がどのように次の処理工程に進んだかを報告するためのものだ。この結果をもとに自治体に対してもきちんと処分したという結果を報告する義務がある。
通常の商いであれば、受注伝票、売上伝票、仕入伝票、発注伝票を用いて日常の取引が遂行される。また、納品書や領収書、請求書といった商流書類が取り交わされる。ただし、それらは常に一対一の関係だ。帳票を出す側と受け取る側の。
廃棄物処理においては、モノを運ぶ運搬業者、中間貯蔵業者、中間処理業者、最終処分業者にもマニフェストの記載義務がある。つまり、一対一の関係ではない。
これによって、廃棄物がきちんと適切な方法で処分されたかを業者間で確認し合うのだ。
これらの業者はそれぞれの自治体からどのような廃棄物処理が可能かを許可されている。だから、許可されていない廃棄物は扱えないし、許可されていない方法で処分することも許されない。

もう一つ、大切なことがある。それは、廃棄物を出した当事者である排出事業者は、その廃棄物が最終的にどう処理されたのを適切に管理しなければならないことだ。
処理業者や運搬業者に渡したらそれで終わりではない。これはとても重要なことだから覚えておく必要がある。排出事業者は最終的に廃棄物がどう処理されたかをきちんと把握し、管理しておく必要がある。そのためにも排出事業者は定期的に処理業者の事業所に視察・検査に赴き、正しく適切に廃棄物が処分されているかを自分の目で確認・監督しなければならない。
だからこそマニフェスト伝票の仕組みは不可欠なのだ。
マニフェスト伝票はその結果をきちんと残すためにも作成が義務付けられている。マニフェスト伝票には紙の形式以外にも電子マニフェストも可能だ。どちらの場合もシステムを構築する際は適切に出力することは当たり前だ。

廃棄物処理に当たっては、対象となる廃棄物の種類とその処理方法を知っておかねばならない。また、適切な方法で処分することを認められた業者に対し、適切な内容の契約を締結する必要がある。ここまで準備してようやく、日常のマニフェスト伝票を取り交わしての処理業務を行うことができる。
もちろん、先に挙げたような通常の商流とは違う動きをすることと、社会的な責任が課せられる業界であるということを強く覚えておかなければならない。

その上で物理的な塊である廃棄物をデジタルの世界で管理する必要がある。それには、システム構築の知識以外にも独自のノウハウが必要となる。
上にも書いた通り、普通の商慣習の知識だけではとてもシステム構築はおぼつかない。
お客様よりkintoneを用いて産業廃棄物業界に向け、協力してソリューションを作り上げたいというご依頼を受けた。弊社では現在、いくつかの案件を並行で行っている。
そのための知識が必要だと思い、本書を購入した。

本書の著者は二人の行政書士の手による。二人とも行政書士なのは、それだけ廃棄物処理における報告や管理のウェイトの重さを表している。
本書には廃棄物の処理方法の実態についての化学知識はほとんど登場しない。
廃棄物の処理に関する化学知識よりも、実務上では契約や報告の仕事のほうが求められるということだろう。

本書は、まず行政処分を受けた業者の事例を挙げている。廃棄物処理を適切な方法で処分しないと自治体からの認可が取り消される。すると、該当する仕事が受けられなくなる。これは会社にとっては由々しき事態だ。死活にも関わってくる。

まず、法律遵守とコンプライアンスの意識を本書は徹底的に伝える。その上で、先に書いたように廃棄物の種類と処分方法について解説する。その中で運搬業者や処分業者、中間処分業者、最終処分業者の違いが説明される。最後はマニフェストなどの事務的な手続きに触れていく。

個人的には、廃棄物の処理が実際のどういうプロセスで進むのかに興味がある。なぜなら、私たちは自らが出したゴミがどのような形に変わっていくのか皆目見当がつかないからだ。残念ながら、本書ではその辺には詳しく触れない。
例えば、生ごみであれば焼却処理を行うのは分かる。だが、瓦礫などのコンクリートはどのように処分されるのか。強酸・強アルカリはどのように無害にされるのか。それらはどのような経路をたどって処理されるのか。

ただ、本書を読んでいると、化学処理のプロセスよりも報告のプロセスのほうが複雑だ。その複雑さに武者震いを覚えた。もちろん、それはチャンスでもある。
本書を読んでから、実際にシステム構築の作業に本腰を入れた。おかげさまで一社のお客様ではめどがついた。もう一社も順調に構築が進んでいる。
構築の中では、私の知識が不足していたため、手間取ったこともあった。だが、本書を読んでいなければもっとピントはずれの構築を行っていただろう。そもそもうまくいかなかったことは間違いない。
おそらく今後も廃棄物業界のクラウド・システムには携わっていくはずだと思っている。

廃棄物処理業界のシステム構築の可能性は広い。それと同時に、本書のような入門書の役割をより強く感じる。
本書は、廃棄物処理業界に携わる人にとっては必読のはずだ。

‘2020/06/04-2020/06/07


銀行総務特命


タイトルだけみると、駅のキオスクに売られている廉価な文庫本が想像できてしまう。お色気満載の。しかし、タイトルだけ見て判断するのは早計だ。著者が量産型作家に堕したと考えることもあわせて慎みたい。

本書は短編集である。どれも主人公は指宿。彼の肩書きは帝都銀行総務部特命担当。タイトル通り、特命部署に任じられた指宿の活躍を描いている。

金を扱う銀行はその裏に隠す顔がなんであれ、公正で清潔な印象を保たねばならない。一方で銀行は、おおぜいの行員の働く組織だ。多様な考えを持つさまざまな立場の人々が集って仕事をするわけだから過ちも悪行も起きる。しかし、銀行にとって信用こそが全て。過ちを人間のやることだからと看過するのはご法度。過ちは二度と起きないように原因から断つ。悪行は早めに芽をつむ。そのままにしておけば、やがては組織をむしばみ取り返しのつかない事態につながる。指宿の役目とは、そのような銀行内のスキャンダルを未然に防ぐことにある。

スキャンダルにもいろいろある。顧客情報の漏洩。裏金の処理。行員のAV出演。行員家族の誘拐・脅迫。行員によるストーキング行為。行内の権力争い。パワハラ。他行の不正指摘。これらスキャンダルはなにも銀行だけの問題ではない。どの組織にも起こりうる話だ。しかしそれらはどれも組織に深刻なダメージを与えかねないもの。ましてやそれが銀行であればなおさら。

本書は8章からなっている。そして各章は、それぞれがテーマに沿って書かれている。上に挙げたスキャンダルのあれこれが、各章のテーマとして取り上げられている。

本書の強みは、著者が銀行出身者であることだ。そのため、短編でありながら、各編で書かれる内容は深い知識の裏打ちに基づいている。行内の組織、情報伝達経路、用語など、本書に登場する専門用語は少なくない。おそらくは著者が銀行在職中に日常的に使っていた用語なのだろう。それらを自由に使いこなし、本書にさりげなく組み込めるのは著者ならではといえる。私にとってはむしろ、著者がここまで書いても許されるということが興味深い。機密保持契約には通常、在職中に知った情報は退職後も開示できないとの条項があり、銀行退職後も有効であるはずだから。

実在する特定顧客を連想させなければよいのだろうか。また、本書で書かれた行内の情報もこの程度であれば公知の情報と見なされるのだろうか。

例えば指宿の役職は調査役と設定されている。私は以前、某銀行本店で働いていたことがある。その際、調査役という役職名はよく耳にしていた。なお、私がいた銀行は著者の出身行ではないのだが、調査役という役職名が登場したことにちょっとした驚きをもった。つまり調査役とは銀行業界に共通する役職ということなのだろうか。私は他業界で調査役という役職があることは聞いたことがない。特命という役職もそう。これは私も聞いたことがない。だがいかにもありそうな名前にも思える。こういった役職名は公知情報という認識でよいのだろうか。とても興味がある。

著者の作品は今までにも何冊か読んできた。それで思ったのが、著者は銀行という組織に対して問題意識を持ち続けていたのだろうな、ということ。多分変えられるものなら変えたかったのかもしれない。著者は本書で総務という視点から銀行を見つめ直したいと試みたのだろう。

そこから見えたものとは、銀行もまた組織のひとつにすぎないこと。銀行だからといって組織的に他の企業と違うことはない。ただ、銀行は業務上、多額の金を扱う。つまり欲望が増幅されやすい現場なのかもしれない。そういった現場に身を置きながら、信用が全てという建前を貫かねばならないのが銀行だ。行員によっては表に見せる顔の裏側で欲望を沈殿させ、蓄えてゆく。そして奇妙にねじれた形で噴出させてしまう。

噴出した欲望の形を、読みやすい短編の形で提示したのが本書なのだろう。短編形態であるためそれぞれの話はさらっと終わる。しかし、銀行のような多忙な職場を舞台にすると、むしろこれぐらいで終わるのが実情に合っていると思う。著者の銀行観や組織観が伺える本書は、銀行を知る上で一つの参考になると思われる。

‘2015/12/09-2015/12/11


会社は誰のものか


私が会社を立ち上げたのは、今春のこと。その際、参考資料として何冊かを手に取った。しかし、社長の気構えについて書かれた本は一冊しか読んでいない。それが本書である。他に読んだのは全て手続きにかんする実務書である。

結論からいうと、予定通り4/1に登記完了し、すんなり会社設立できた。それには安価で請け負って下さった司法書士の先生の力によるところが大きい。そのため、読んだ実務書はほとんど役に立たなかったのが正直なところだ。役に立たなかったというより、司法書士の先生がほぼ全てやって下さったので役に立てようがなかったというほうがよいか。

ならば事前に読むべきは本書のような気構えに関する本だったかもしれない。ただ、今回の法人化に当たって、一からの気構えは不要と思っていた。それは、個人事業主として山あり谷あり挫折ありの九年間の経験があったからだ。今回の法人化は、その延長上として想定していた。

法人化によって新たに事務所を構えることもなかった。新規事業に乗り出すこともなかった。参画していたプロジェクトを抜ければ良かったのかもしれないが、私の判断ミスで属人的作業を抱え、安易に抜けられなかった。それら制約があったため、当初から環境を変えぬままの法人化を意図していた。そのため、気構えに関する本はほとんど目を通さなかったのだ。実際、本稿を書いているのは、創立してから半年後であるが、納税額や私の自覚は変わったとはいえ、生活に大幅な変更はない。

だからといって本書がとるに足らなかった訳ではない。逆に読んで良かったからこそ、他の同種の本に食指が動かなかったのかもしれない。

私の職種はIT業である。ITバブルの興隆と衰退は業界の端で見聞きしていた。著者の名もIT業界の識者として存じ上げていた。ITバブルに沸くIT業界ウォッチャーとして。そして本書が書かれたのは、まさにITバブルが弾ける直前である。いわば本書は、ITの花形産業として一番華やかな頃を伝える資料である。また、私にとっては本書に書かれた事例が反面教師となるはず。そういったことを本書に期待し、手に取った。

第1章は、「ネット企業を考える」とある。本章は、2005年当時のIT業界の紹介が主だ。2005年といえば、まだSNSという言葉が全く知られていなかった時期。本書のどこにもFacebookは登場しない。フレンドスターやMySpace、さらにはmixiすらもでてこない。通信はYahooがADSLモデムを配りまくり、ADSLがISDNに変わる高速通信の規格として世に広まった時期となる。そのため、動画配信はまだマネタイズには遠く、本章にGoogleは出てきてもYouTubeは登場しない。それが2005年のITバブル終焉直前の状況だった。

しかしそのバブル期に、今のIT業界の骨格は、ほぼ出揃っていたといえる。インフラ、ソフトウェア、ハードウェア、Webの一般的利用からくる広告収入というビジネスモデル。ただ、バブル期故に目立っていた事象もある。それがIT長者の存在となる。著者はベンチャー企業がIT業界を引っ張ってきたことを指摘する。ベンチャーの創業オーナーは大株主でもあり、全ての経営判断を自ら行うことができる。その立場をフル活用し、スタートダッシュとキャッシュの保持に成功したことが強みと分析する。

また、それら企業はさらなる発展の場を金融や通信、メディア、生活インフラに求めるはずと予測する。本書はまだ、ITが集約、寡占の方向に向かうと信じられていた頃の話だ。十年後の今は、インフラがあまねく行き渡りすぎたため、情報インフラの所持が利益に結び付きにくくなっている。むしろ、全ての個人や会社に高速でしかも携帯できる端末が行き渡ったことは、情報の分散化をまねき、他方ではクラウド(この言葉も本書のどこにもない)での情報集約が実現している。

金銭感覚についてもバブル真っ只中の様子が読み取れる。そこには、会社はオーナーのもの、という文化が花開いた時代の、今となっては懐かしさすら感じる思いが付随する。

第2章では、「会社は誰のものか」と名付けられている。

①会社は国家・国民のもの
②会社は株主のもの
③会社は従業員のもの
の三つを著者は提示する。その上で今は「会社は株主のもの」が主流であることを示す。さらに、今後もそうであろうと予測する。

それらの三つの見方を紹介しつつ、本章では会社という組織が社会に産まれた成り立ちと栄枯盛衰が語られる。①は社会主義国家の失敗から成り立ち得ず、③は日本の高度成長の推進力になったことを評価しつつも、所有と占有を混同しがちになる弱点が指摘される。が、やはり著者の意見では株主主体に軍配があがる。その立場で本書も語られる。

ここで著者は企業の支払いの優先順位を引用する。この順番こそが、企業にとっての優先すべきミッションの順番でもあり、企業のステイクホルダーの順序でもある。
①売上(顧客への商品・サービスの提供)
②原材料コスト(取引先への支払い)
③製造販売費用(従業員への給与支払い)
④借金返済、金利支払い(銀行への支払い)
⑤税金(政府や社会への支払い)
⑥内部留保(成長のための再投資用)
⑦配当(株主への支払い)

最初に顧客が登場する。つまり、先にあげた①~③に上がった会社は誰のものかという問いに対し、会社は株主のものであるが、顧客第一との結論が打ち出されている。このあたりは納得のいくところである。綺麗ごとでも上っ面でもなく、実際に顧客と対面して商売を行っていると、その辺りは自然な感覚として身につく。

続いてジョンソン・エンド・ジョンソンの社訓も引用される。それによると、すべとの消費者が一番目に挙げられ、全社員が2番目に、全世界の共同社会が3番目、会社の株主が4番目となっている。つまり、株主は最後に利益を享受する。そしてそれゆえに会社に対して主権を持っている。このことがすなわち著者が本書で提示した、会社は誰のものかという問いに対する答えとなっている。

だが、本書を読んだ結果、私が設立したのは、株式会社ではない。株主不在の合同会社である。これは本章で結論された株式主権の考えと相反する。

私が合同会社を選んだ直接の理由は、登記費用の節約である。それにもかかわらず、先の①~⑦でいえば、結果として⑤のの税金、⑥の内部留保、⑦の配当を拒否した形になっている。

私にとってそのことは特にジレンマではない。⑤~⑦に支払いを回さない分、単価が削減できる。つまり。消費者、お客様への還元に回せているのだ。私は利用者の立場が長い。なので、どうしても単価を下げる癖が出てしまう。よいサービスを安く、を目指す私にとっては、合同会社は何ら矛盾しない形態となる。その場合、株式による出資が得られないデメリットも覚悟の上。

ただしその場合、株主の監視がない分、代表社員たる私の自覚が欠かせない。

その点が第3章「「会社は化け物」と心得よ」に記載されている。

ここではバブルの走りとも云える英国経済を揺るがした南海会社やフランス王立銀行の破産事件、国を揺るがした経済詐欺、近頃ではエンロン破綻とそれと結託していたアーサー・アンダーセンの事例が紹介されている。人は資本や規模に容易に目がくらまされる。

企業がその地位を悪用するのは簡単であることが、本章では述べられる。本書の1章で、ホリエモンこと堀江氏も何度か取り上げられている。例えばニッポン放送乗っ取り事件の下りなど。本書はlivedoor粉飾決算で逮捕される前に書かれているようだ。しかし本書の行間のあちこちで、堀江氏の手法についての懐疑が投げかけられている。図らずも、livedoorに関する逮捕劇が、本章の懸念を裏付けた形だ。

本書の第1章では2005年当時のIT業界をにぎわせた、かなりの数の経営者が紹介されているが、そのなかで著者が評価した人間だけが、2015年も健在である。楽天の三木谷氏、ソフトバンクの孫氏など。これは本書の評価できる点だ。他の方は10年後の今、ほとんど目立たなくなってしまった。結果論ではあるが、会社とは何か、をうまく表現できなかったのだろう。私も他山の石としてはならないと思っている。

そういった堀江氏やその他の経営者の轍を踏まないため、本章では会社と経営者の関係を整えるための信任制度について、かなりの紙数が割かれている。株主が有限責任制の下で守られていることは無論だが、それによって経営者と株主の間に情報の格差が生じ、それによって経営者の暴走が発生することもまた事実。本章では忠実義務と善管注意義務の二つが紹介されているが、この辺りは合同会社の経営者である私も肝に銘じておかねばならないのはもちろんだ。

第四章では、「企業のガバナンスを考える」と名付けられている。その中で、ガバナンスが失われやすい企業のトップ3が挙げられている。規制産業、経団連○○部、世襲企業などだ。

そして、企業ガバナンスはどういう勢力によって脅かされるかについても提示される。経営者、株主、投資家、経済団体、従業員、メディア。私の作った会社は零細過ぎて、ガバナンスを担うのは、役員である私か妻のどちらかのみ。だが、それに加えて顧客を含めても良いのではないか。顧客から経営が独立するのは勿論のこと。しかし、あえて顧客との共存を図る。つまり、顧客をもガバナンス対象として意識すればどうだろう。

第5章「新しい資本主義が始まっている」では、今までの章で株主主権主義が明確となったことを踏まえ、新たな企業形態を紹介する。それは、以下の7つ。

①持ち株会社制度が進む
②「人的資本」が見直される
③社会的責任投資が論議される
④ブランドの価値が高まる
⑤大企業が産業政策を代行する
⑥先祖がえりの可能性
⑦最後には志が問われる

私が作った小さな会社は、まだ無力な存在。設立から半年たった今、利益もとんとん、前年比売上も微増、といったところだ。そんな小さな会社でも、上に挙げた7つのどれかを目指す権利は持っている。

私は②と⑦に賭けたいと思う。特に②。自分の夢や家族との触れ合いを犠牲にすることのない会社。多分、利益は上がらないだろう。株式会社にしたところで上場など不可能だろう。でも、何かしら自分の生きた証が残せれば、と思う。それが私の志である。

‘2014/12/20-2014/12/24