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kintone café 高知 Vol.16 & SORACOM UG SHIKOKUで登壇しました


およそ32年ぶりの高知市への訪問。
私にとって久しぶりの高知は、kintone café 高知 Vol.16とSORACOM UG SHIKOKUの共催イベントへの登壇として実現しました。
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三日間に及ぶ高知の旅は、友人との再会や、2日連続での交流会でのさまざまなご縁、自然の豊かさなど、語ることに事欠かない旅でした。
本稿では、kintone Café 高知とSORACOM UGのイベントについてのみに絞ります。

イベント当日はあいにくの雨でした。とは言え、私が泊まっていた紺碧の湯 ドーミーイン高知からイベント会場のオーテピアまでは、帯屋町通りのアーケードを通ればすぐ。今回、じゅんちゃんこと片岡淳さんに教えてもらった宿に泊まって満足でした。

会場には事前に押さえておいた時間の5分前にならないと入れず、設営の関係で開催時間が少しだけ遅れました。とは言え、会場の広さやAV機器の豊富さと会場全体の新しさは、5分の遅れを補って余りあるものでした。
オーテピアは高知市の再開発の主軸とも言える施設です。すぐそばにある「ひろめ市場」とともに、人々の流れと賑わいを高知城の周辺に取り戻すことに貢献しています。

イベントは、じゅんちゃんによる開会の宣言から始まりました。じゅんちゃんが今回のイベントの企画者だと聞いています。
昨年の冬、向ケ丘遊園でkintone Café 神奈川を開催しました。そこに高知から駆けつけてくれたのがじゅんちゃんです。であれば、私も高知に行かねば。行かない選択などありえません。それはkintoneエバンジェリスト、いや、人の道に反します。じゅんちゃんからのお誘いを受け、行くと即答しました。
並走する複数の案件の間を縫って参加することになった私ですが、今回のイベントはとても楽しめました。登壇者としてだけでなく、参加者としても。これは参加者や登壇者が豪華だったからでしょう。じゅんちゃんありがとうございました。

じゅんちゃんに続いて登壇したのは、サイボウズの毛海さんです。毛海さんとは昨年のCybozu Days 2021でご挨拶して以来です。
全国で20数名しかいない毛海エバンジェリストとしての自己紹介のつかみもばっちり。
kintoneを中心としたサイボウズのサービスの数々や、毛海さん自身が手掛けられた構築事例などの紹介がありました。
事前にいただいていた登壇スケジュールでは、私の前に話すのが毛海さんだったので、私も毛海さんがkintoneのご紹介をしてくださる前提で登壇スライドを組み立てました。
毛海さんがkintoneの良さをコンパクトに伝えてくれたので、私もやりやすかったです。ありがとうございました。

続いて私の登壇です。

登壇にあたってのネタはすでに5月の半ばにめどをつけていました。6月の初めにはスライドもほぼ書き終えていました。
それでも、小心者の私は心配していました。SORACOMボタンを押してもkintoneに飛ばなかったらどうしよう、と。
そこで、じゅんちゃんが話している際にボタン押下。うむ、問題なし。

スライドは以下のURLをベースに話しました。

スライドでデモする順番を間違えたり、ボタンを押したら押した座標をGoogle Mapに表示するはずが、ピンが立った場所がオーテピアではなく窓の外に見える追手前高校の時計台だったり、投下したネタの数々に皆さんが笑ってくれたのは良かったです。
私、二年半前からボタンを袋に大切にしまっており、袋の上から壇上でボタンをポチッと押しました。あとでSORACOMさんからは、いやせめて袋から出そうよ、という突っ込みが。しまった!ここで笑いとれたんやった。

私もテストの時点で、Googleの座標がずれるのは気になっていました。これ、懇親会の時に聞こうかなと思っていたのですが、次の斎藤さんのセッションが始まる前に、SORACOMの伊佐さんからご指摘をいただきました。
伊佐さんによると簡易座標取得を使った場合は、近隣の基地局の位置、つまり時計台に依存してしまうそうです。
伊佐さんとお会いするのは、伊佐さんがサイボウズからSORACOMに移ってからは初めてのはず。さすがのご指摘が嬉しかったです。これぞリアルイベントの良さですね。ありがとうございました。


さて、私の次に登壇したのは札幌からやってきたクラウドおじさんこと斎藤さん。斎藤さんのセッションは、完全にkintoneに特化した内容でした。SORACOMさんには一切忖度せず、kintone一本で勝負するところはさすがです。
じゅんちゃんもSORACOMさんには気遣わず、kintoneの事を話してもらって大丈夫、というスタンスだったようです。私はその真意を汲み取れずにSORACOMさんに寄せてしまいましたが。

斎藤さんのセッションは、今までにkintoneが出した全てのバージョンアップを順におさらいするもの。これがなかなか興味深く面白い内容でした。
私はkintoneのβテスターで、当初からkintoneの歴史には参加していたつもりでした。が、すっかり忘れているバージョンアップばかり。次々と繰り出されるバージョンアップに、あらためてこの10年のkintoneの歴史を振り返ることができました。kintoneも最初はあまり機能が入っていなかったのですね。フィールドの初期値設定がなかったり、CSV読込による更新ができなかったり。
今となってはもう異世界のサービスのよう。

斎藤さんとはイベントの前夜の交流会でもご一緒し、当日夜の交流会でも、さらに宿に帰った後も夜中の2時半近くまでお風呂の中でお話させていただきました。
法人を立ち上げた今でも一人で運営されていることなど、私の目標とするワークスタイルを実現していることが素晴らしい。筋の通し方に今さらながらに感銘を受けました。ありがとうございました。

さて、斎藤さんの次に登壇したのはミスターkintoneこと、JOYZOの四宮さんです。
私は事前に四宮さんのセッションタイトルだけ聞いていました。そのため、四宮さんのセッション内容は私の内容と被るのではないかと心配していました。私は最初だからよいけど、四宮さんには迷惑にならないかな、と。そこでじゅんちゃんには事前に私のスライドの内容を送ろうか?とお伝えしていました。ですが、私の心配は杞憂でした。
私のセッションの内容など軽く凌駕してくるあたり、さすがJOYZOさんであり、四宮さんです。私がセッションでやったこととほぼ同じような連携を以前に運用されていたそうです。それだけでなく、さらに高度な連携の事例を見せてくださいました。SORACOM連携プラグインの画面や、それを使った連携事例など、私にとってはどれもがとても参考になりました。弊社も早くSORACOM案件をとれるようにならないと。ありがとうございました。

あと、四宮さんのセッションの中でめっちゃ役に立ったのは、高知に宿泊すると5000円がキャッシュバックされる情報です。これは!と思ってメモしていたのですが、宿に申請するのを忘れてしまいました。5000円どころか30000円以上は高知県に、しかもチェーン店でないお店に還元したはずなのに。

ここで休憩、いや、ネットワーキングタイムが入りました。休憩の合間に皆さんと交流を深めてほしい、とあえて休憩といわずネットワーキングタイムと呼ぶあたり、交流を重視するじゅんちゃんの心意気を感じます。
私もさまざまな方と名刺交換をしました。その日の夜の交流会でも。

さて、再開してすぐ登壇してくださったのは、SORACOM UGのなっちゃんこと藤田さんとMaxこと松下さん。
「推しエバンジェリスト」という新たなワードも登場したそのセッションは、SORACOMさんのオープンかつフラットな企業風土が感じられるセッションでした。
SORACOMさんはお互いにニックネームで呼び合っているようです。松下さんはMax、伊佐さんはMartin。
弊社も外の商談の場でも身内を呼び捨てにせず、さんづけで呼ぶようにしています。ですが、ニックネームの方がさらにフラットな感じになってよいですね。

その風通しの良さは、SORACOM UGのなっちゃんとMaxさんのやりとりからも感じられました。ユーザー会も含めたフラットな関係が築けている証しですね。
そもそも今回のイベント、企画者こそじゅんちゃんですが、発案者はなっちゃんだと聞いています。オープンかつ、外部との交流を良しとする価値観。サイボウズさんやkintoneのそれに合致しています。もちろん私の価値観にも。

また、Maxさんが説明するSORACOMさんのビジネスモデルやビジョンなどにも興味を持ちました。
特に「「IoT」という言葉は早晩なくなる。なぜならモノに回線が通じることは当たり前になるから」との言葉にはしびれました。IoTの分野もkintoneとの連携の可能性は無限にありそうです。

夜の交流会でもMaxさんやMartinさんとは語る機会を持ちました。SORACOMさんとは早速、kintone Café 神奈川で共催しようという話につながりました。詳細はまたご連絡できると思います。とても楽しみです。引き続きよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

その後はハンズオンの時間です。SORACOMのボタンの実機を全員に配り、皆さんにSORACOM コンソールにログインし、操作してもらいながら、kintoneとの連携を皆さんに体験してもらおうという企画です。これがとてもよかった。

このハンズオンですが、私が登壇して説明した内容とほぼ一緒。つまり、私のセッションの内容を皆さんに追体験してもらえるのです。登壇者としてこれほどありがたいことはありません。一部、私が使ったSORACOMコンソールのサービスとは違うサービスを利用していましたが、それさえも私にとっては学びでした。私もまだSORACOMコンソールの機能に関しては知らないことが多く、可能性を感じます。

ハンズオンを司会した片岡幸人さんからは、皆さんがハンズオンを最後までやり遂げられるよう、サポートしてほしいという話を事前にもらいました。私もハンズオンに参加しつつ、サポート役を担いました。皆さんはフライングしてましたが、私は順序を守ってフライングもしませんでした。本当ですよ。
ここで面白かったのは、パトランプを使ったところです。皆さんの押した内容に応じてパトランプが点滅する。しかもプロンプトにImsiの番号が流れるので、自分のボタンが押されたエビデンスが画面に出てくる。ハンズオンに参加する実感をビジュアルで見せる趣向はリアルハンズオンならではです。さすがです。幸人さん、ありがとうございました。

ハンズオンはこれだけでは終わりません。さらに、ハンズオンの理解度を試してみましょう、と言う余興が。
私はすぐに答えがわかったので、一番にボタンを押すことができました。その後も、合間にボタンをポチポチ押していたら、なぜか私が連打回数でぶっちぎりの一位になってしまいました。ハンズオンではフライングしなかったのに、ここではフライアウェイ。自分の大人げのなさにきまり悪い思いをしたのも良い思い出です。

賞品としてSORACOMさんのバンダナをいただいたので、私もこれを機会にSORACOMさんにも何か恩返しせねば。と思いました。
実際、SORACOMさんの掲げるビジョンには共鳴するところも多いので。私にとってもやりがいのある分野になりそうです。

さて、続いては三名の方によるLT祭りです。
最初は、M-SOLUTIONS社の岸田さんから、M-SOLUTIONSさんが展開するプラグインのご紹介でした。
実は前日の夕方にカミノバさんが運営するCafé NOVAで岸田さんによるプラグイン勉強会があり、私も参加させてもらっていました。参加だけでなく、質問までさせていただきまして。
弊社もkintoneの内部カスタマイズについては自社で内製するよりも、プラグイン活用の方向に進もうと考えています。それもあって岸田さんの勉強会はとても参考になりそうです。ありがとうございました。

続いては、STNet社の野口さんから。
野口さんは以前、kintone Café 香川を立ち上げられたとのこと。そして今はSORACOMさんのIoT機器を使って多様なご研究をされているそうです。タニシを電気で集めたり、豚の健康状態をIoTのデータから調べたり。そうした研究内容にとても興味を惹かれました。
研究者の現場にもkintoneやSORACOMが活用される。そんな時代がやってきたことに感慨もひとしおでした。
また機会があれば、野口さんの実験の今後を知りたいと思いました。IoTの取り組みとしても良いモデルケースになりそうな感じ。ありがとうございました。

LTの最後を締めたのは、kintoneエバンジェリストの沖さんです。沖さんにリアルでお会いするのは多分数年ぶりのはず。最初はエバンジェリストポロシャツを着ている沖さんが誰だか分かりませんでした。そのぐらいスリムな体形に変身しておられました。
そのダイエットに関する知見が盛り込まれたLTは、システム開発者側としての姿勢とユーザーの関係を、顧客である沖さんと沖さんがお金を払うRIZAPさんの関係に置き換えていました。その視点の切り取り方がとても斬新でした。
確かに私たちシステム提供者は、システムを内製のみに限定するのではなく、きちんと投資すべきところに投資する事を薦めます。それなのに、自分の体については内製でなんとかしようと足がきます。その矛盾に気付かされました。

沖さんには夜の交流会の二次会でもその部分について深掘りさせてもらいました。システム提供者として学ぶところが多く、勉強になりました。ありがとうございました。

夜の懇親会では、葉牡丹へ。ここは、なかなか風情のあるお店です。ここでも多くの方とお話をさせていただきました。高知の習わしや風土、ポテンシャルなどは、現地に行かねば聞けません。そうした話を伺えたのはリアルのイベントならではです。前日は三次会、この日も四次会まで長く楽しい夜を過ごしました。

今回のkintone Café 高知はオンライン配信をせず、その内容も一切録画していません。現地に来た人のみが、現地の空気や熱気を体験できる。それがじゅんちゃんのポリシーです。筋が通っています。
地名をつけるのなら、その地でやる。旅を愛する私としても賛成です。
オンラインの環境がここまで整った今、リアルを見直し、リアルでしかできないことを考える時期にきています。その上でリアルとオンラインの真の価値が実現できるはず。
これはイベント運営者の端くれとして、とても参考になりました。

私がなぜこうした無償の活動に力を注げるのか。ここできれいごとを述べても仕方がありません。
私や弊社にとってこうした活動が、巡り巡って何年後かの仕事のご依頼につながっていることは事実です。ですが、旅が何よりも好きな私が、こうした活動を通して各地を訪問できる。それこそが、最大のモチベーションてす。

仕事と旅を絡めたい。それが実現できる手段こそ、お客様への案件で地方に行ったり、kintone Caféで登壇したりすることです。
案件で伺う旅は、ともすれば仕事モード一色になってしまいます。行ったけれども、観光も何もせずに帰るなんてこともあります。
ですが、kintone Caféは案件よりもゆるいため、旅に気持ちを集中できます。
さらに、kintone Caféで登壇することで地方に知識を還元し、夜の懇親会では地方にお金を還元できます。そして、自分自身には知見がたまり、私の知名度も上がります。その観点からのメリットは見逃せません。
今回の高知でもそのことを再認識しました。

私にとって仕事とは何か。人生とは何か。今回のkintone café 高知 Vol.16とSORACOM UG SHIKOKUの共催イベントは、それを考える良い機会となりました。
今後もこうしたイベントに呼ばれれば、なるべく参加できるようにしたいと思います。そして、私も何か還元できるような価値を提供できるよう、切磋琢磨したいと思います。

今回運営してくださったじゅんちゃんや片岡幸人さん、スタッフの皆様、カミノバ社の皆様、SORACOM社やSORACOMUGの皆様、また登壇者の皆様、さらに参加者の皆様、会場や飲み会やその他、旅の中でご縁をいただいた皆様、本当にありがとうございます。


夏の災厄


本書の巻末には瀬名秀明氏による解説が付されている。残念ながら私にはそれに勝る水準のレビューは書けそうにない。その解説に全ては書かれている。だが、及ばぬことは分かっていても書きたいのがレビュー。二番煎じを承知で書いてみたいと思う。

本書は、日常に潜む恐怖を描いた小説だ。なので、しょせんは作り事だ。いくら感じても、どれだけ心動かされても、読者はどこかひとごととして物語を読む。

そこには、どこかしら油断がある。作り話とたかをくくり、自分には降りかからないという油断が。小説とは日常と異なる日常の描かれる場。とはいえその日常は、決して自分に降りかかるはずのない作り話の出来事。のはず。

だから、本書のようなリアリティーに満ちた小説を前にすると、不安に苛まれる。こんなはずではなかった、と。本書のリアルとは、誰かが生きた過去のリアルではなく、自分に迫ることもありえる未来のリアルだ。読者は自分の未来を本書の中に見る。それが読者を不安に陥れる。

本書で起こる疫病の蔓延は、人類の歴史に起きた悲劇をなぞっている。ペスト、天然痘、スペイン風邪、AIDS、エボラ出血熱、SARS。歴史に刻まれたパンデミックであり、誰かの生涯を悲嘆に暮れさせたリアル。だが、それらは医療が未開だったころの災厄だ。通常ならば、こういった疫病がわれわれを襲う物語に作り話感は拭えない。

人類の未来に起こりうるリアルとは、そのような疾病ではないように思える。では、どういう疾病なら、未来のリアルとして受け止められるか。それは、新型インフルエンザ、MRSA、未知の感染症である。医学を嘲笑うかのように着々と抗生物質への耐性を身にまとい、牙を研ぐウイルスたち。ある日、油断したわれわれを一斉に襲い、猖獗を極める。そんなリアルであれば、未来に待っているような気がする。

本書に登場するのは日本脳炎だ。私も子供の頃、予防接種を受けさせられた。しかも、この疾病の名前には日本が付く。ということは、日本にまだ潜んでいておかしくないのだ。かつてこの国で幾人もの患者を死に追いやった病。過去のリアルとして、この設定は十分説得力を持っている。では未来のリアルはなんだろうか。それは、日本脳炎がほぼ根絶されたという油断にある。つまり、警戒態勢が解かれ、弛緩している現状をついて、再び日本脳炎が猖獗を極めるところにある。

いま、仮に大流行したとすればどうなるだろう。接種されてない人にはもちろん、新種のウィルスであれば接種済みの人にも甚大な被害が及ぶ可能性は高い。

週刊誌の下世話な煽り記事に過剰反応することは禁物。それは確かだ。でも、気温の上昇気配は皆が等しく実感しているはずだ。南方でもらってくる病気だったはずのマラリアが日本で猛威を奮う日はすぐそこに来ているように思える。では日本脳炎はどうか。マラリアだけでなく、日本脳炎にその可能性はないのか。その不気味な切迫感は、首都圏直下型地震や東南海地震の切迫感に匹敵するかもしれない。これが、著者が取り上げた日本脳炎というリアルだ。

一方、著者が描く埼玉県昭川市はどうか。本書巻頭に地図が掲載されている。昭川市の地図だ。これがまた、絶妙にリアルなのだ。関東以外の方にはわかりにくいと思われるが、昭川市という自治体はない。しかし、地図にのっている鉄道はには至池袋や至国分寺という記載がある。これは西武線を指しているに違いない。線路の組み合わせ的には本書の舞台は所沢あたりを指しているように思える。また、昭川市という名からは東京都昭島市や旧秋川市を連想させる。現実の自治体やそこの住民には迷惑を掛けずに、本書の舞台設定はぎりぎりまでリアルな地理を志向している。

著者は作家になる前は公務員だったという。つまり公務員の仕事への熱量を熟知しているはずだ。公務員だから仕事は適当、というステレオタイプな考えが当てはまらないのは当然だ。自分から決して仕事は作りに行かないかもしれないが、受け持った職掌に含まれる仕事はおろそかにしない。公務員に特有の温度感が、本書ではうまく書かれている。

ここで下手に昭川市の職員をヒロイックに書いてしまうと、途端に物語からリアルさが失われる。著者は本書で読者を突き放したかのように書く。メリハリの聞いた展開よりは実直な展開を。本書の筆致で長編を書き上げるのは至難の技ではないかと思う。だが、一読してドラマ性をあえて放棄したかにみえる本書の文体こそが、本書にリアルさを与えている。

ただ、それだからこそ一点だけ不満がある。ここまでリアルを追求した本書だからこそ、プロローグや動機で登場した某国を持ち出す必要はなかったのではないか。それが唯一本書からリアルさを失わせ、作り物めいた感じになっているように思う。ウィルスは自然に発生にしたほうが、偶然であったとしてもリアルさが担保できていたように思うのだ。

‘2016/06/26-2016/06/26


小暮写眞館


人生の各情景を切り取って、小説の形に世界を形作るのが小説家の使命だとすれば、仮想世界が徐々に幅を利かせつつある現状について、彼らはペンでどう対峙し、どの視点から情景を切り取っていくのだろうか。

そんな疑問に対する一つの答えが本書である。

小暮写真館という閉店した事務所兼住居に引っ越してきた一家の日常が描かれていくのだが、どこにでもいるような一家であるはずなのに、主人公一家を応援せずにはいられなくなる。主人公だけではなく、出てくる登場人物や彼らが住む街についても、愛着が湧くに違いない。

なぜか。それは現実としっかり向き合い、それを自力で乗り越えていく意思に共感を覚えるからではないだろうか。

書かれている内容は、大事件でもなければ謎めいた出来事で満ち満ちているわけでもない。だが、それら一つ一つが実に丁寧に描かれている。心霊現象の解明や人形劇に興味を持ち、町の様子を老人たちに聞き込みに行き、鉄道に乗っては写真を撮り・・・

心霊現象は仮想世界にはそぐわないものだし、人形劇はデジタルではできない生の演劇。老人たちに聞きこむ街の様子はネットの口コミ情報とは対極をなしているし、鉄道に乗る臨場感はシミュレーターでは味わえない。キーボード越しに悪態をつくのではなく、相手に対面で啖呵を切る。

上に挙げた内容はほんの一例だが、現実世界と真摯に向き合う登場人物たちの姿、そして著者が書きたかった主張がそこかしこにみられる。

だからといって本書がアンチデジタル、アンチインターネットを訴えるような底の浅い作品でないことは、登場人物がSNSやネット検索も駆使する様が活写されていることで明らかで、その辺に対する著者の配慮もきちんとなされているところにも好感が持てる。

全編を通して仮想世界が徐々に幅を利かせつつある現状に対する著者の回答がこめられているのが容易にわかるのだが、実はそれを表現することは至難の業ではないかと思う。改めて著者の凄味を見せつけられた作品となった。

’12/03/03-12/03/09