原作は既読で、某所に書いたレビューには以下のように書いた。

>何よりも話の筋として肝心な成田長親の性格の多彩な点、陰影
>を書くことに成功している。映像作品に対して小説がなしうる
>意義を、目に見えない心のうちを描くことにあると定義するな
>らば、この本はノベライズ、または単なる小説化というだけで
>はなく、異なるメディアとして小説の可能性を示してくれてい
>ると思う。

本作では、小説ではできない、映像としての「のぼうの城」を描くことにこだわった作品ではないかと思う。むしろそこに拘ったからこそ、映像がなしうる作品世界の再現に見事に成功していると思う。

それは忍城周辺の全体の鳥瞰図であり、平和な兵農共存の様子であったり、合戦の様子や凄惨な水責めの様子であったり、水が引いてからの回復の様子であったりする。これらの映像については、小説では及ばない規模感が見事に表現されており、映像化の価値もここにあるというもの。

また、本作が成功しているのは、上にも書いたように成田長親の性格の多彩さだけではなく、登場人物のそれぞれを際立たせるような演じられ方による部分が大きい。野村萬斎さんはじめ、役者全てに、手抜きが一切なく、かといって演技過剰で白けさせることがないのがよかった。内面を描けない分、外見で以下に役柄を観客に伝えられるか、というのは俳優が目指すべき目標と思うが、役者陣の才能と努力の跡が見られる。

成田長親のうつけぶり、関白の豪気さ、酒巻靱負の初々しさ、柴田和泉守の剛毅さ、石田三成の焦り、正木丹波守利英の冷静さなど、役柄とストーリーが無理なくはまっていて見事というほかはない。

昨年、妻と私で石田三成の史跡を巡ったのだが、夫婦の意見でも、上地雄輔さんが扮する石田三成が我々の持っている石田三成像と狂わなかったことも確認した。芸能界に疎い私も上地雄輔さんに対する印象が一変した。大谷吉継についても好きな戦国武将の一人なのだが、勇者ヨシヒコでコミカルな姿を見せている人とは同一とは思えない武将っぷりの山田孝之さんである。

私の中で印象に残ったのが、長束正家を演ずる平岳大さんで、実は成田長親の次に演ずるのが難しい役だったのではないかと思える、話の筋を変えるきっかけとなる役を見事に演じていた。平岳大さんは私は知らない役者だったのだが、今後注目してみようと思う。

小説の映像化に徹する本作は、エンドロールまで映像化に拘る。背後に投影される映像に、現在の平成の忍城の跡、そして行田市の様子を流すのである。作品世界から一気に現代に戻されるようで興をそがれるという意見もあろうが、私は逆にそれが小説にはない、本作の映像作品としての意識を表明しているようでならない。私は不覚にも本編もそうだが、エンドロールで今の行田市の映像が多数流れたことにも感動してしまった。

’12/11/18 ワーナーマイカルシネマ 新百合ヶ丘


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