下巻では、日華事変から太平洋戦争の開戦と敗戦、戦後の崩御までの過程が、上巻と同じ筆致であますところなく取り上げられる。

昭和史に興味を持つものにとって、上海事変以降の敗戦までの過程は重要な時期である。本書ではその時期の主要な国事決定過程のほとんどに昭和天皇の意思が関与していたという立場を採り、軍の暴走で事態の収拾がつかなくなったという無力な君主説には与していない。

さすがに昭和天皇が満州や上海、北京郊外での事態を全て把握していたとは思えず、このあたり、首をかしげざるをえないところである。

それよりも私が昭和天皇に親近感を覚えるのは、現人神としての御姿ではない。むしろ、生まれながらにしてその地位についてしまった、一人の人間としての生涯をかけた苦闘の跡にこそ、その苦しみに思いを致す。聖人君主として一切失敗のない統治など信じられるはずもない。或る時は状況打開のために戦争遂行のために叱咤し、或る時は破滅への運命を食い止めようとできる限りの意思表示をし、或る時は自らの立場を慮って自重に次ぐ自重を重ね・・・。

その中の幾分かは後世からみて好戦的と受け取られるところもあったと思うし、判断ミスや失政もあったと思う。が、平和な遺産を受け継いだ我々の世代は、所詮その時代の空気を知らない異邦人であり、安易に礼賛、または批判を浴びせるべきではないと考える。

本書は退位問題についても筆を割いている。それは、老境に差し掛かって以降の昭和天皇の葛藤についてである。あまり採り上げられるところの少ない象徴天皇となってからの昭和天皇の葛藤について取り上げてある。評価の是非はともかく、非常に興味深い内容が記載されている。むろんそれは崩御までの過程を記憶に残す私にとって受け入れがたい内容の論調であった。

だが、たとえ日本人としての心情にあわなくとも、その時代の事実をイデオロギーに流されずに記述した、本書のような書物を、正面から受け止めることに慣れねばならない。

逆に、本書に対して情に、イデオロギーに流されぬ有効な反論が現れ、本書の主張と融和していけるような共通認識が、日本国内で醸成されたとき、ようやく昭和が総括できたといえるのではないだろうか。

’12/06/07-12/06/13


カテゴリ: 読ん読く.
最終更新日: 7月 27, 2014

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